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第21話 氷舞いとぶ準決勝

 開始早々にどこかからか轟音が聞こえる。

 風と何かが粉砕される音。次にパキパキという高い音が響いたと思いきや、視界に氷の巨木がそびえ立つ瞬間が映った。距離があるのに相当な存在感を放つ。


「初手から使ってくるなんて想定外ですわ」

「まだ姿すら見えてないのに!?」


 あそこまで巨大なものを水のない所から作り出せたのか。


「おかげで敵の居場所が判明したにゃ」


 トゥワは木々に紛れるように駆け出す。

 確かに彼女の言う通りなんだけど気になる。俺も動き出しながら考えた。


(何のためにあんな大きい物を作ったんだ)


 わざわざ居場所をバラすことをしてまで……。

 薄気味悪い疑問を胸に抱き、疾走していると答えが降ってきた。

 巨木の枝の一部が砕け氷塊が大量に降り注ぐ。それは容赦なく地を抉り突き刺さる。俺は小さな物は炎で解かし、間に合わぬ物は避けて進んだ。


(この氷、何か)


 違和感を覚えた瞬間、数多の氷が光を乱反射した。眩しい。

 足を止め目を細めた時だ。横から鋭い刃の煌めきが辛うじて視界に映る。


「わっ」


 腕の薄皮1枚が切れた。思わず肝が冷える。


「だまし討ち失敗か」

「その声はレン!」


 知った声に反応した直後に頭上で衝突音が響く。

 目を凝らしてみるとローズマリーがシンドラと交戦していた。予定通りトゥワも参戦している。でも1人足りない。


(ヴァルツはどこ)

「あれ、レンまでいなくなってる」


 周囲に注意を払うが姿を見つけられなかった。

 仕方ないので巨木に向かう。もちろん例の2人と、一応のお宝を探しながらだ。


(誤算だ。すっかり搔き乱されてる)


 再び音が響き、氷塊が降り注ぐが距離がある。

 他の人を狙ったのか。または別の目的があるのか、などといろいろ疑う。

 一度は上に向けた視線を戻す。その時、見失っていた人影を発見。ようやく捉えたと思い、逃げる背中を追って木々の合間を疾走していく。


(ずっと逃げてる。いったいどこまで……)


 疑問が浮かぶのと同時に、蓮之介がわかりやすく見上げる。

 つられて視線を追うと空中を滑る人影が近づいてきた。軽く跳躍した蓮之介と接触。そのまま上に飛び去っていく。風に翻るマントとマフラー。


「今のはヴァルツ! あいつ、どうやって空をっ」


 ハッと気づいた。そういうことだったんだ。

 足を止めて動きを凝視する。間違いない。周囲の木々より高い巨木。あの枝の広がりを利用して、広範囲を移動しているのだろう。


「簡単に逃がして堪るか。雷よ」


 ヴァルツが片手に掴んだ仲間を放った。そしてもう一方の手も使い回避。


「破斬!」

「えっ、てあれ」


 宙を舞いながら刀を振るう。しかし衝撃波が向かう先は氷樹の枝で――。


「また枝の一部が崩れてこっちにっ」

「へっ、避けねーと生き埋めだぜ?」

「冗談じゃないよ、なんてね。俺の身体能力舐めすぎ」


 氷塊の雨を華麗に躱す。最中、蓮之介が宙で拾われるのを見た。

 糸で移動しながら一部の氷を蹴り弾く。軽く触れるだけで氷の軌道が変わるのは自身の力だからか。狙ったように飛んでくるぞ。


(驚きはしたけど、なんてことないね)


 軌道を変えたからって避けられぬ訳がない。余裕、そう思った時――。


「のわ!?」


 少し距離をおいた前方に降り立つ蓮之介が言う。


「引っかかったな」

「う、動けない」


 氷に気を取られ気づかなかった。

 進行方向に蜘蛛の巣みたいな罠が張られていたのだ。

 もしや誘い込まれていたのか。必死にもがくが糸の網は頑丈で外れない。


「じゃ、そういうことで」

「待て」

「大人しく絡まってろよ」


 一時合流した彼らは別々の方向に消えて行く。

 やられた、完全に罠に嵌ってしまった。トゥワが忠告していたのに……。


「あ・い・つ・ら~。絶対覚えてろよ。必ず罠を突破して倒してやる!」

(やっぱり糸は切断だよな。ハロルドの真似みたいで嫌だけど)


 ここは風魔法で切る。そう考えて使ったのだが切れない。


「なんでさ」

(ぬおぉぉぉ、特別製とかじゃないだろうなコレ)


 雷の魔法は自分が痛いし力任せに外すか。早速試す。


「うおぉぉぉー。外れろぉ」


 全力で引き千切ろうとしたが結果は失敗。

 急がないと時間切れまで足止めされてしまう。仲間達も危ない。頭に血が上っていた俺はふと気づく。


「炎、まだ試してなかった。糸だし焼き切れるかも」


 炎魔法を唱える。糸はあっさりと解けた。

 拍子抜けしてしまう。風には強かったのに炎には弱いなんて……。

 俺はとりあえずヴァルツが飛び去った方向に進む。蓮之介も止められたらいいが、欲張って失敗するのは御免だ。優先順位の高いほうを狙う。



 時間が迫っていく中、標的を探して駆けて行く。

 今度は意外とすぐに見つかった。氷樹と糸の合わせ業で縦横無尽に宙を舞う。


(もう殆ど飛行と変わらないじゃん)


 条件さえ揃えばああも飛び回れるのか。


「向こうがその気なら俺だって」


 氷を踏み台にして高く跳躍し、風魔法を応用しながら浮遊を試みる。

 だが難しい。そもそも身体が飛ぶようにできていないのだ。道具なしでは限界があった。飛行というにはほど遠い。


「けど、あいつだって鳥じゃない」


 うまく体勢を保ちつつ奴を追う。まあ、実際はグラグラなんだけど……。

 後ろ姿を追う最中、ふと彼のマントやマフラーが鈍く輝いている気がした。


「想定はしてた。だが――」

「うわっ」


 ヴァルツが方向転換して斬りかかる。

 持ち替え時に口を利用し、糸を操っていない手で剣を扱う。更には腰に手を回し小袋を取り出す。盛大に振り撒かれた中身。それは粗い銀粉だった。

 風にかき回され光を反射するせいで視界が悪化。なにより気が散る。


(最初から持ち込んだ物ならアリだけどさ)


「ダメだ、集中が途切れ」


 体勢が崩れて落下してしまう。まだだ。諦めず再び魔法で飛び上がった。


「来るにゃ~」

「ちょ、トゥワ!?」


 眼前を猛スピードで横切る人影。彼女と、もう1人。

 考えるより早く後から来た影に手を伸ばす。風になびく長いもの。


「痛っ、髪、ぐわ!」


 ほぼ反射で下へ落とした。軽く引くだけで充分だ。砂煙の中で頭を抱えて蓮之介が叫ぶ。


「やりやがったな」

「お返しだよ」

「エミル、横」


 振り向いた瞬間に勢いを乗せた蹴りを食らう。

 吹っ飛ぶ最中、トゥワがヴァルツに爪で仕掛け避けられるのを見た。

 残り時間僅かのタイミングで激しい乱戦状態になる。離れた所では爆炎が光り、お宝どころではない。攻防が激し過ぎて探す余裕がないのだ。

 飛び移った氷樹の上。葉が折り重なり、幾つもの台座みたくなっていた。


「さっさとくたばれ」

「降参するのはそっちだろ」

「おーっと。行かせないぜ」

「ぐぬぬぅ~」


 互いに焦りが滲んだ表情で鍔迫り合いを繰り返す。

 どうにかトゥワを離脱させようと動くが成功しない。口喧嘩する割に連携できている。


「邪魔くせーんだよ。くそが!」

「ヴァルツ、待て」


 最初以降、使っているところを見せなかった氷を放つ。

 蓮之介の反応がおかしい。けれど今は剣と糸と氷の3つで攻めてくる奴に集中だ。飛ばしてくる氷塊を避け懐に踏み込む。今度は糸が飛び紙一重で躱した筈が――。


(凍った。まともに喰らったらヤバい)


 幸い鱗の上だったので剥がして落とす。

 今度は剣に冷気を纏わせてきた。彼の吐息が白い。冷たい視線、顔色も心なしか青白く?


「はあぁぁぁ!」

『――――ッ』


 激突寸前に蓮之介が一撃を叩き込んで割り込んだ。衝撃に怯む。

 かなりの威力だったのか。メキメキとヒビが入り足場にしていた氷床が砕ける。全身を落下特有の浮遊感が襲う。だがトゥワが俺を助けた。


「2人は?」


 彼らは落下中だ。ヴァルツが糸を使うが失敗する。

 この最中に終了の合図がなった。直後、遠くから魔法らしき風が吹き抜け2人を救う。着地後にふらつき、倒れそうになったヴァルツを蓮之介が支える。


「言わんこっちゃねえ。エミル、悪いが火を起こせてくれ」

「う、うん」

「余計なことするな。敵に助けを求めるなど……」

「もう終わっただろーが」


 噛みつく声音に覇気がなく顔色も悪い。

 審判が駆けつけ参加者の状態を確認していて審査が行われた。


「1名中傷、ただちに医療班を呼んで!」

「ミャーが呼びに行くにゃ」


 トゥワと入れ違いにローズマリーとシンドラが合流。


「ねえ、あの氷ってもしかして」

「ああ。能力(スキル)だ」

「では代償かしら。ならば緩和する何かを持っていませんこと?」

「なるほど、ちょっとカバンの中を探させて貰うぜ」

「勝手に触るな。自分でやる」


 俺は焚火を起こしながら様子を伺う。

 指先の感覚がないのか。危なっかしい所作で蓮之介が手伝っている。小瓶を取り出していた。

 なんとなく目に入ったマントとマフラー。前は身に着けてなかった。指南書で見たような模様が入ってるし、戦闘中に鈍く光って見えたアレは――。


「ジロジロ見てなんだよ」

「ごめん。そのマント、魔法が織り込んであるのかなと思って。マフラーも」

「だったら何? 関係ないだろ」


 めちゃくちゃ睨まれたけど素直に認めた。

 もう一度、誠心誠意に失礼を詫びて考える。あれはローズマリーの鎧と似た役割を持っているんじゃないか。最初の氷樹は大技だと思うし可能性は高い。

 そうこうしている内に医療班が来て俺達は撤退。審査の結果はこちらの勝利だ。仲間の状態が差になったらしい。退場後、次に備える前にまず行く所があった。



     ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔



 治療室に向かうまでの道中を人探ししながら歩く。

 自然と早足になり、途中で声を掛けられるまで気が休まらなかった。


「エミル、決勝進出おめでとう」


 大変な一戦だったね、と歩み寄るトーマスは意外と元気そうだ。


「怪我は大丈夫だったの? あの子は……」

「クラウドさんのおかげで怪我は最悪を免れたかな。でも意思のほうが、ね」


 すぐに回復しないから棄権したとのこと。

 闘技に参加している訳だし、怪我への覚悟はできていた。それでも怖いものは怖い。手酷くやられれば戦意を維持できないし、戻すのも容易じゃないだろう。


「コリーという方は困ったものですわね」

「言ってることは間違いじゃないけど、どうなのかにゃ~」

「とにかくヴァルツが止めてくれて良かったよ」


 いろいろ思うところはあるがひと安心だ。

 その後、見舞いに行くローズマリー達と別れる。大勢で行ったら迷惑になりそうだし、面識もないから女性同士のほうが安心すると思った。


 トーマスとも別れ、飲み物を飲んで休憩する。

 派手に立ち回ったから舞台調整に少々時間がかかっているらしい。


「よう。1人か」

「うん、休憩中」


 談話室で再会した蓮之介と並んで話す。

 真っ先に聞いたのはヴァルツのこと。平気だと知り安心した。


「さっきの氷割りさ。アレ無茶し過ぎ」

「アレな~。俺も細かいこと考えてなくてさ」


 当初の作戦では初手以外で氷を出すつもりがなく焦ったという。


「本気で驚いたよ。でもカッコよかった。俺にもできるかな?」

「簡単にできて堪るか」


 どうも力技ではなくコツがいるらしい。

 教えてやらないぞ、と言われてしまう。まあ、仕方ないか。

 他にも試合のことを語り合いつつ時間を潰す。女性陣2人が戻ってきたら解散だ。その後はチーム内で作戦会議をして大会最後の試合に臨む。

 あぁ、戦闘自体は長くないのに文章だと長くなってしまう~。

 本当は今回で競技大会を終わらせたかったですが、いろいろ端折れなくて分割せざるを得なくなりました。長くなってすみません。


 また後日に前話の加筆修正を入れましたが、ここで一応ご報告しますね。

 実は人魚の男子生徒は腕輪をしてます。陸上での服を着ていると隠れちゃうんですが……。重要度は低いですけど、後々別の場所で関わってくるかも~。

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