第20話 不穏な一戦、その後は……
近況にも書きましたが、作品名とあらすじの一部を変更しました。
作品名に関しては未だ悩んでいて、今後も変更するかもしれません。どうぞ、よろしくお願いします。
開始早々、俺は水辺を避けてお宝を目指す。
――いいですこと。エミルさんは迷わずお宝を目指して下さい。
本番前にローズマリーから言われた。
単純な作戦だけど、現状ならこのほうが成功しやすい筈だ。
(阿吽の呼吸なんて無理だもんな。能力だってまだ……)
己で定めた目的地へ向かう道中、不意に気配を感じて視線を滑らせる。
(思ったより早く来た)
水面に映る影。急速に接近してきた。
俺は考える。石柱の後ろに回るか。うまく撒けそう?
ほんの一瞬、思考を廻らせ、水面が盛り上がるのと同時に柱の背後へ。
鈍い音が響き微かな衝撃が伝わる。
攻撃をやり過ごした直後、柱から飛び出して反撃した。
「はあっ」
「く、失敗。逃ギャるが」
発音し辛そうな声音でそう零し逃げて行く。
甲殻鬼族の女子だった。さすがに水中では追いつけないか。いや「今回はお宝が優先だ」と考え直して走り出す。
(トゥワ達は今どの辺だろう)
広さと障害物のせいで、移動しながら見回した程度では判別できない。
移動を続ける中で楽器のような音を聞く。感覚的に遠いか。大小の重低音や、破砕音が混じって聞こえてきた。どうやら戦闘が起きている様子だ。
「急がないと」
短期決戦で体力を温存しておきたい。
次第に水場が増え、不安定な足場を利用しないと進めなくなっていく。
身体能力の高さを生かし危なげなく渡る。泳げない訳じゃないけど、落ちた先で襲われたら大変だ。
お宝近辺まで来た時、地面や水面に翼のある影が映り込む。
見上げると想像通りの人物を見つけた。視線を戻してお宝に向かう。
「お宝は渡さない!」
「敵っ」
飛んできた物から逃げるため飛び退く。大きなブーメランだ。
「カリアか。あとちょっとだったのに」
「悪いね。勝つのはあたしらさ」
「何を! こっちだって負ける気はないよ」
「その通りですわ」
上から飛来したローズマリーがカリアと対峙する。
拳と飛び道具でやりあう。今のうちだ。そう判断してお宝に転身した時、ぬっと足を掴まれ引きずり込まれた。抗えず水の中に沈む。
「ごぽごぽっ」
(マズい。息が……)
「ギョへへ、捕ヴぁえだ」
重く纏いつく水の中、羽交い絞めにされ身動きが取れない。
揺らぐ視界の中で遠くから近づいて来る人影。煌めく銀髪の人らしい上半身と魚の如き尾鰭。あれは人魚族か。左腕に光っているのは腕輪?
こんな時じゃなければ凄く美しい姿だと思う。男だけど……。
「よく捕らえました。如何に龍族と言えど水中なら我々が有利です」
「ギョフフ、そうよね」
(待て待て。こいつがいるってことはトゥワはっ)
まさか倒されてしまったのか。信じられない。
「ご、ぽぽ(離せ)」
「ごめん。何言ってるかわからない」
「どーベ離せどか言っでるギョ」
絶体絶命だ。俺は必死にもがく。
でも抜け出せなかった。尾も使うけど魔法で防がれる。
(ダメだ。そろそろ本当に息が持たない)
「さて、彼は縛り上げて陸に上げてやりましょう」
「うん」
「匂う、魚の匂い。ありゃっ、仲間を離すにゃ!」
ザバーン、と急降下したものの影響で荒々しく波打つ。
真っ二つにする勢いで水が弾け飛んだ。おかげで拘束から解放される。宙に投げ出された俺の身体を、華奢な身体が受け止め高く駆け上がった。
「げほごほ、ありがとう」
「まだにゃ」
「♪~♪」
こちらを目掛けて音とともに風の魔法が襲い掛かる。
能力の時間切れが迫り、トゥワが全身を使って俺を投げ飛ばす。
(チャンスだ)
今、水中にいるのは2人だけだ。瞬時に判断して手に集めた雷を放つ。
悲鳴が響く中でお宝の近くに着地して手を伸ばす。妨害するようにまたブーメランが飛んでくる。声からして攻防が続いているようだ。思い切って前方に飛ぶ。
勘を頼りに掴んだ物の感触を手に感じた。すぐ後に勝敗を告げる報せが響く。
「勝った」
最初は信じられない思いだったけど、次第に実感が湧いてくる。
次いで仲間2人の状態に意識が向く。
「手強い相手でしたね」
「ずぶ濡れにゃ~」
ぶるるっ、と全身を震わせて水気を落とす。
疲れた様子はあったが2人とも大きな怪我はない。俺も同じだ。
点検が入るので舞台を下りた。負傷した人は医療班の治療を受けて戻る。
次の試合はニーア達だったが見事勝利。
そしてトーマス達と、フェロウ達の戦いが始まったんだけど……。
「あーくそがっ。テメェ、よくも貴重な血を流させたな」
歓声で溢れていた場は静まり返った。空気が緊迫している。
最初から互角の戦いをしていたが、トーマスの攻撃でコリーが負傷。直後に大量の水を被ってから急に様子が豹変したのだ。
「ひぃっ」
森樹精族の女子生徒が身を縮めた。狂気じみた顔のコリーが迫って行く。
「お前らは魔法が使えるけどさ。こっちはタダじゃないの」
素早く接近して腕を振りかぶる。
彼女は受け身を取ったが、何度も殴られ、蹴られてついに膝をついた。
しかしコリーは止まらない。暴言を振りまきながら執拗に痛みつける。助けに入った仲間の2人にも牙を剥く。
「もう止めなさい。やりすぎよ」
「いい加減にしろ」
仲間を庇って立ちはだかる2人を、彼は不機嫌そうに睨みつけていた。
「うっざ」
「アンタね。冒険者を目指す身で、怪我して逆ギレって覚悟が足りないんじゃないの!」
「はあ!? テメェらこそ戦闘舐めてるでしょ。弱い奴や面倒な奴を先にやるのは常套手段じゃん」
いい子ちゃんの戦いしているんじゃない。その言葉が異様なまでに耳へ響いた。
クラウドがコリーの肩を掴む。フェロウのほうは静観したままだ。かなり強く掴まれたのか、顔を僅かに歪めて振り仰ぐ。状況からして睨んでいたかもしれない。
「止めるんだ。審判、我々は降参する」
「おい、なに勝手に負け認めてんだ」
「そうそう。敗北は死、怖気づくのはアンタだけにしてくれ」
不満を言うコリーにフェロウまでが同調した。
槍を構えて殺気立つ。狂気と憤怒に挟まれて尚、クラウドの姿勢は崩れなかった。
「アイツら危険過ぎるだろ」
「ヤベー奴らに挟まれて可哀そう」
観客達の小さな呟きが聞こえてくる。
同情と恐怖が伝播していく。誰もが息を飲んで成り行きを見守った。
心地の悪いどよめきが広がる中、流れを変える何かがあればと思う。でも舞台上の緊張は限界がきてしまう。俺は目を反らせぬまま肝を冷やす。その時だ。
「コリー、頭を冷やせ。こんな所で無能を晒すな!」
「ヴァルツ」
怒号が場内に響き渡り、呼ばれた当人が怯んだ様子で観客席を見上げる。
「ふーん、いいとこあるじゃん」
「勘違いするな。雑魚に価値はない」
「またそんなこと言う。言葉を選べっての」
耳飾りの調整次第で蓮之介とのやり取りまで聞こえた。
何はともあれ残るはフェロウだ。同調先が大人しくなっても矛を収める様子がない。すると隣で静かに見ていたトゥワが口を開く。
「あの人、警戒してるにゃ」
「フェロウのこと?」
尋ねると彼女はこくりと頷いた。視線は舞台を見つめたままだ。
「きっと頼れる人も、頼り方もわからないんだにゃ」
そう言う彼女の声音は悲しそうで、寂しそうにも聞こえる。
こればかりは半信半疑になるしかない。再び視線を当事者らに戻すと事態が動いていた。揺るがない意思で押しの一手を踏み続ける男。真正面から恐れず歩み寄られ、ついにフェロウが折れる。
『おおっ』
一連の出来事に観客席から感嘆の声が上がった。
進行が勝敗を報せ、両者が重苦しい様子で退場していく。後味の悪さを残して2戦目最後の試合は終了したのだ。
⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔
自分達の試合に備えての待ち時間、トーマス達の棄権が知らされる。
彼らの間で何があったのか。事実はわからないが想像はできた。たぶん怪我が酷かったんだ。心配だけど、まずは目の前の試合に集中する。
なんたって相手は蓮之介だ。他の2人も手練れで油断ならない。
「時間の調整が入ったし、この機会に作戦を練ろう」
「ええ、賛成です」
「次の敵はまた手強いにゃ」
時間の猶予を得たのは不幸中の幸いだろうか。
情報を集めるためについ試合を見てしまう。詳しく知らない人が多かった。
(ここから先は、知ってる人が多いから対策を立てやすいけど……)
逆を言えば相手も同じ条件ということだ。
「レンは長期戦にならければ大丈夫だと思う」
「問題はヴァルツさんともう1人、名前は確かシンドラさんでしたか」
「うん。飛んでくるけど条件は悪くないよ」
「にゃ~空中戦は結構得意にゃ」
胸を張っていう彼女が頼もしい。ローズマリーが同感だと頷く。
長く飛んでいられないけどやりようはある。風の魔法は炎や雷の魔法で対応できる筈だ。そうなると一番厄介なのはヴァルツかもしれなかった。
「氷なら炎で解かせるよね」
「できますけれど、彼はギリギリになるまで力を使いませんでした」
「温存してたってことか」
「糸は面倒。罠を張れるし、攻撃も支援もできるにゃ」
トゥワは動きを封じられるのが心配らしい。
確かに試合で足場として用いたり、敵の動きを封じるなどの支援をしていた。手札からして攻撃範囲が広そう。おまけに動きが洗練されている。
(ミスしてくれないよね)
攻撃手段を考えると、俺かローズマリーが対応したほうがいい。
でも彼女には空の警戒を頼みたかった。2人で協力すれば隙を作って直接お宝を狙えるかも。
「俺がヴァルツと、可能ならレンの相手をする。だから空の敵とお宝をお願い」
「1人で2人なんて大丈夫ですか?」
「任せて。見ての通り、結構頑丈なんだぜ」
角や尾、鱗を示しながら言う。実際この辺りは固いんだ。
会場の準備ができたと報せが入る。作戦会議はここで終了。あとは実践あるのみと気合いを入れて舞台に上がった。
準決勝の舞台は密林を模した地形だ。
土台は地下に収容してあるって話だけど、木々はおそらく魔法だろう。
「ゾクゾクするにゃ~」
急にトゥワが興奮しだした。今にも飛び出しそうだ。
少しだけ気持ちがわかる。よく遊びに行った森を思い出す。楽しく駆け回った日々。あの頃を思うと、今回は有利な舞台に思えてきた。
「いける気がしてきた」
「まあ貴方達、感覚が野生児ですのね。わたくしは視界が遮られるので苦手ですわ」
虫がいないのは救いだ、とローズマリーはぼやく。
最初の配置からだと相手チームの姿は見えない。これは今までと同じなので問題なし。しかし慣れていないと簡単に後ろを取られるかも、と思い至る。
「ローズマリーは無理せず行動して。開けた場所なら五分に持っていける筈」
「あればいいですけど……」
なんとかする、と言う彼女を信じよう。
緊張して時を数える中で号令が響く。俺と蓮之介の戦いが今、始まった。




