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プロローグ リセットして転生

 ねえ、異世界に転生する主人公ってどう思う?

 羨ましいかな。夢みたいだとか、もしも生まれ変われたら楽しそう。少なくとも今よりずっとマシに生きられるとか思ったりする。そんな感じ?


 じゃあさ、記憶を引き継ぐってどうかな。

 どうして主人公達は何も言わないんだろう。そりゃ、前世ですっごく順調だったのに死んじゃって可哀そうだと思うキャラもいる。性格ってこともあるよね。

 でも、それをいうなら「記憶なんて引き継いでどうすんの」って思うキャラがいてもおかしくない。僕がまさにそうさ。


「ねえ、聞いてる? もしもーし」

「……っ!?」


 僕は思いっきり肩を揺らし、反射的に身を縮めて腕で顔を隠す。

 そうだった。今、目の前に神を名乗る不審者がいる。不思議なくらい人間だとは感じない。見た目はがっつり人間なのに……。おまけはコスプレとしか思えない服装で。

 おかげでそこまでの恐怖心も抵抗感もなくて助かるけど……。 


 そして、どうやら僕は死んでしまったらしい。

 はっきりと覚えていないけど、確かにそれっぽい記憶が残っている。


(はぁ、どうしてこんなことになっちゃったんだろ)


 端的に言うと僕は刺されたんだと思う。一瞬だけ見たあの人は通り魔だったんだ。

 珍しく外に出ようと思った日に死ぬなんて思いもしなかった。わざわざ人の少ない時間帯を狙い、人気の少ない道を選んで近くの自然公園まで行って……。


 運が悪かったのだと思う。人気が少ない所為で助からなったとも。

 でも、そこまで悲しいとも思っていなかった。まだ実感が湧かない所為もある。だけど、ずっと息苦しいと感じていた。周りにあるものが恐ろしく仕方がなかったから。


 特に怖いのは人間だ。視線、話し声、気配のどれもが辛い。

 だから目立たないようにしてきたし、一人でいるのを好み、常にイヤホンで音楽を聴いて気を紛らわせている。そうしていないと落ち着かなかった。

 自分の視線にすら時々ビビるくらいだ。なのでいつも目のやり場に困っていた。


水野(みずの) (けい)。不慮の事故で死んだ貴方には転生するチャンスがあります」

「は、はぁ……」


 いろいろと考えている僕を他所に、自称神の彼女は得意げに話し続ける。


「今なら貴方の世界で流行ってるチートとか、前世の記憶引継ぎでやってあげるわ。他にも――」

「えっ……それは、ちょっと……」


 僕は煮え切らない感じに反論を零す。

 そうして脳裏にはまた新たな思いが浮かび上がっていた。記憶の引継ぎなんてされてもなぁ、と。


(自分でもわかってるんだ。ダメ人間だって……)


 引きこもりで社交能力のないダメな奴。

 まだ16歳の学生だったけど、将来性のある目標もなく根性もない。

 小学校まではなんとか普通に学校へ通っていた。でも友達や同級生と一緒に外で遊ぶのは苦手。いつでも教室の中で絵をかいたりしていたんだ。


 けれど中学に入るくらいから、人間関係で手酷く失敗するようになった。ちょっとした嫌がらせを受ける程度に……。それで結局不登校になったよ。

 えっ、先生に相談しなかったのかって。一応したよ。でも全然よくならなかった。結果的に公開処刑を受けているみたいで、なんとも言えない気持ちになっただけ。

 それからは本音は誰にも告げられなくなった。噂されるのも苦痛だったからね。


(おまけに僕は臆病だ。だからここまでだらしなく生きてきた)


 何をするでもなく部屋に籠り続けた。

 たまにネットを見たり、読書をしたりするだけだ。

 発達障害とか精神的な病かなと思ったこともあったけど、さっきも言った通り相談なんてできない。医者やカウンセラーは愚か、家族にだって怖くて話なんてできなかったんだ。

 気持ちを伝えて、本音を言って失敗したことが多すぎて……。ちょっと好みを呟いただけなのに歪んた形で拡散したりして。それらが積もり積もって今の性格を形成している。


(ネガティブなのは重々承知してるけど、もともと人と関わるのが得意じゃなくて悪化しちゃったんだよね)


 そもそも人間が怖い人が自発的に受診とかできると思う?

 医者だって人間なんだよ。家族にだって話せないのに難題過ぎるでしょ。

 自覚がない場合だってあるし、もしも受け入れられなかったら、至って健康体ですって診断結果が出たらますますネガティブになるよ。

 じゃあこの感覚はまやかしで、自分は真正のダメ人間だっていうことに……なんて。結果的にこじらせる一方で……。


 人に伝え辛い感覚って本当に難しい。わかってもらえるとも思えないもの。本当に酷い人ほどじゃない、けれど軽症なのかも疑問で中途半端な苦痛は辛いよ。

 特別重くなければ、特別軽くもない状態が一番生殺しな感じでキツイと思う。

 過激な人なら、もっと切羽詰まった人なら自殺とかするんだろうな。でも僕は痛いのも苦しいのも嫌だと思う臆病者だったからできなかった。

 自分が甘ちゃんなのもわかってはいるんだ。だけど……。


「なぁーに? 言いたいことがあるならはっきり言う!!」

「は、はいっ。え、えっと、その……嫌ですっ」

「はっ?」


 唖然とした様子の女神。何が、と説明を求めてくる。

 まあ長々と悩んだ挙句に、予想外の返答が返ってきたらあんな顔になるのかな。

 でも僕は突然大声を上げる恐ろしい存在に終始怯えていた。人じゃないだけマシだけど。


「だ、だから記憶の引継ぎは絶対イヤで、です」


 変なところで噛んでしまった。

 こっちの返答を聞くなり、彼女は心底想定外とばかりに大声を上げた。また僕の肩が跳ねる。


「嘘でしょ! だって皆の話ではめっちゃ喜んでいくって」

「ひぃ、大声出さないで……」


 怖い怖い怖い。怒鳴り声じゃないのはいいが、大きな声って怖過ぎる。

 ああ、なんでこんな時に限ってイヤホンが、スマホがないんだろう。音楽を聴いて気を紛らわせたい。心の安定剤が足りないよ。

 さっきから心臓がバクバク言っているのが自分でもわかった。早くなんとかして欲しい。


「うーん、話が違うわ。皆能力とか記憶とか引き継げると喜ぶってたのに」


 いったい誰の話をしているんだろう。

 わかんないけど、どうやら友達か知り合いから聞いた情報の話をしているっぽい?


(あの、全部聞こえてますが……)


 そう言ってやりたいが言えなかった。ここでも根性のなさが出るなんて。

 女神は先程中断させられた言葉を思い出す。そしてまたしても得意げな顔で口を開く。


「あと望むなら能力つきで、現在と同じ種族に転生させてあげるわよ」

「できたらそ、それもちょっと……種族?」

「フフフ、やっと食いついたわね。そう種族!」


 ここにきて調子を上げた。水を得た魚みたいだ。

 彼女は簡潔かつ丁寧に種族の説明をする。これから転生させようという世界には様々な種族がいるらしい。その殆どは人に近い形をしながらまったく違う存在だとか。

 女神の話曰く、知的生物として器用に、そして効率よく活動するべく進化した結果なのだそうだ。人に近い形のほうが何かと便利だ、みたいな説明だった。


 種族について、幾つか例を挙げてくれる。

 ファンタジーな世界にはお馴染みの獣人やエルフ。

 屈強な身体が自慢のドラゴンや鬼、精霊の血が混じった森樹精(ドライアド)など。ごく一般的な人間以外にも相当の種類がありそうな感じだった。

 僕もファンタジーは大好きだ。だからか、名前を聞いただけで心惹かれる。


「随分丁寧なんだなぁ。種族まで選べるなんて」


 思わず独り言が口をつく。

 その言葉を耳聡く聞きつけた女神がちょっと頼りなげに言う。


「まあ、完全に制御はできないんだけど。でも絞り込みはできるの」

「あ、ははは……」


 だけど、大人気の人間にはほぼ確実に転生させられるというのだ。……なぜ?

 そうツッコミを入れつつ、まさか返答が返ってくるとは想像してなくて言葉に詰まる。なんとか絞り出せた声はから笑いだった。

 要するにピックアップガチャを回す感覚か。めっちゃすり抜けそうだな。僕、ガチャ運よかったっけと心配になる。

 転生を諦めるという手もあるが、せっかくなら生き直してみたい。


(ふぅ~。よし、言うぞ)


 ちゃんと言う。言わなければ、言うんだ!!

 僕は深呼吸をし、気持ちを落ち着かせてから思い切って口を開く。


「あ、あの! できたら記憶引継ぎはなしでその分能力とかをおまけしてくださいっ」

「あら、そうだったの。……で、種族は?」

「えっ、種族? 種族はええっと……人間と植物以外でおお願いします」


 徐々に声が小さくなるのを堪えながら言い切った。

 ああ、なんて意気地なしなんだろう。ヘタレ過ぎる。こんな時でもネガティブな思考が脳裏を過っていく。頭でわかっていてもどうしようもない自分がここにいた。

 だから思うのだ。本気で変わりたいなら記憶なんて引き継がなくていい。


 未練が残るっていうのもある。だけど一番は、人格や性格というものの構成に記憶が関係していないなんて思えないから。

 過去、いや経験の積み重ねなんて言葉もあるくらいだ。幼い頃のトラウマを引きずるってこともあるのだから、記憶はあるだけデメリットだと思う。


(僕は一般的な主人公と違って、ネガティブな引きこもりだもんなぁ)


 だったらいっそまっさらな状態からやり直したいと思う。人格・性格を変えるなんて根性があったら今頃は現実でもどうにかなっていたもん。

 それに異世界ともなれば、前世の記憶が邪魔して戸惑うなんて心配もしなくていい。どんな性格になるのかという不安はあるけど賭けてみる価値はある。

 僕がそんな思いを胸に身構えていると、彼女は考えを巡らせた後にひとつ頷いてみせた。


「わかったわ。じゃあ、能力は他よりおまけしてあげるってことで!」

「は、はい」

「できるだけ凄いのが出るよう頑張ってみるけど……神様だからってあんまり期待しないでね」


 そういう女神に「神様もガチャガチャってするんだな」なんてバカな感想を抱く。

 もしかしたら転生を専門に扱っている神様じゃないのか。妙なところだけ自信なさげなのがちょっときになる。

 でもまあ、どうにかなるよね。……いや、どうにかなって欲しい。


「あ、あの……ありがとうございます。いろいろ我が儘を聞いてくれて」

「ん? 別にいいわよ。確実とは言えないし、それにもっといろいろ言ってくる子もいるらしいから」

(ははは……そうなんだ)

 

 最後にちゃんとお礼を言えたことにほっとする。なんだかんだ言って我が儘を通して貰ったんだもんね。本当、ちゃんと言えてよかった。

 僕は心中を苛む不安に押し潰されそうになりながら意識を手放す。


「あ、でも。転生したって事実だけは覚えたままにしてあげる」


 何か出会いのきっかけにもなるでしょう。

 薄れゆく意識の中、そんな意味不明でしかない気まぐれ発言を聞いた気がした。



     ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔

 ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

 本作はちょっと転生ものも書いてみようかなと思い作った次第です。

 実際に執筆してみて、転生ものってすごく難しいんだなと思いました。まだまだ未完成な部分が多いのでゆっくり投稿しようと思っています。

 それでも頑張って作っていこうと思いますので、できればこの先も読んでくださると幸いです。

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