第19話 強者揃い
人が多いので全力疾走はせず会場に行く。
すぐ後の試合は決着していた。16番の勝利。参加者の入れ替わりが行われている。
「遅かった。既に退場しちゃってるみたい」
「あれ、エミル今来たの」
問いかけて来たのはトーマスだ。最初から見ていたっぽい。
「見てたならお願い。名前だけでも教えて!」
「えー名前だけだよ」
気が乗らない風だが彼の尾は揺れている。
でも聞いたのは本当に名前だけで、1人は「カリア」と知人のものだった。他の2人は知らなくて困惑したけど……。
「その名前には心当たりがありましてよ。記憶が確かなら、甲殻鬼族の女性と人魚族の男性だったかと」
「ウォラシア学園生なんだ。水中系、2回戦は会場の設備が変わるから……」
「平気平気、故郷じゃ魚もよく狩ってたにゃ」
「少々物騒な例えですわね」
泳ぎは自信あるけど、水の民の比べたら雲泥の差だろう。
でも甲殻鬼は確か半分鬼族だった筈だ。尾鰭の関係で陸上じゃあ鈍足だとか。本当に水場でなければ勝率が増す。
「ありがとう。今度何かご馳走するよ」
「本当! 約束だからね」
ご飯に目が眩んだ様子のトーマスと別れる。残りの試合を観戦した。
ニーアの番が来て驚く。ハロルドと同じチームだったからだ。それだけじゃない。あの人魚族の女子生徒も一緒で、隣にいるローズマリーが熱い声援を送っている。
「メシィフェカ、ファイトですわ~」
意図せず名前を知った。俺も全力でニーアを応援する。
(ハロルドまで応援してるみたいで癪だけど)
そういえばメシィフェカの武器はなんだろう。
競技の時は見る機会がなかった。期待と好奇心を込めて見る。取り出されたのは、気持ちを裏切らぬ物だった。
号令とともに分離・展開された浮遊する6つの輪。微妙に大きさが違う。飛ばして攻撃できるようだけど――。
「♪~♪」
「わっ、凄い音響」
「いつ聞いても素晴らしい歌声ですわ」
輪を通して増幅され、中距離から音の波が場を貫いていく。
(音で邪魔してくるだけじゃなく、氷魔法まで使うのか)
感心しているとハロルドが風矢の雨を降らす。
横からは氷の棘、上からは風の矢。えぐいな。ニーアの土壁で攻撃を阻んでるし、離れた位置から相手をボコ殴りにしていくとは……。
(前衛がいなくて、一見不利そうに感じたけどこれは強敵かも)
「お宝は取らないにゃ?」
「たぶん、ほらニーアの植物で」
「遠隔で奪い取りましたわね」
「ずっこいけど効果的にゃ」
相手はひたすら翻弄され続けた。見事な勝利だと思う。
次の試合はトーマスがいるチーム。戦士×2と支援×1の安定した編成で普通に勝っていた。艶っぽいしゃべり方のスキンヘッドがいてビクッと震えたけどね。
そして1回戦最後の試合となる。12番には驚きの面子が登場した。
ごついスキンヘッドと、フェロウ、あとコリーと呼ばれていたほうだ。
(なぜ、あんな個性豊かに……)
いや、1人だけちょっと影が薄いか。
対するチームの面々は全然知らない人ばかりだった。号令が響く。
速攻を仕掛けたのは12番チームだ。ごりっごりの前衛揃い。ここも偏ってる。
「誰1人魔法使わないんだけど」
「扱えないではなくて。人間族はもちろんですが、海龍族も水の民には珍しく肉体派ですもの」
「へぇ~知らなかった」
才能や能力でもあれば話は別だがどうなんだろうか。
(あれ何か揉めてる)
制限時間が半分を切った頃、なにやら雰囲気が怪しくなってきた。
気になるけど周囲が煩くてよく聞き取れない。揉めているのは12番のほう。
「他校の彼には同情するよ」
「ハロルド、今の聞こえたの?」
「当然さ。僕は仲間に恵まれてるからね」
上機嫌に言い放つ姿が生意気だ。ニーアが一緒だからって態度がデカい。
ローズマリーが「青春ね」と弟を見守る姉の如く振舞う。間違ってなくても、こいつと一緒はなんか釈然としなかった。
1回戦がすべて終わり昼休憩になる。今日はいつもの顔ぶれじゃない。
交流を深めるいい機会だし、一緒に食事をしようと闘技場の周囲を歩いていた。その時、通行人の中に見つけた人影。大きなカバンを背負った女子生徒に俺は駆け寄る。
「こんにちは。ちょっといいですか」
「かまへんで。あら、以前お話しさせて貰うた人やないですか」
振り返った顔は朗らかで声音も明るい。一度だけ話した技工科の人だ。
「覚えててくれたんだ」
「もちろんです。冒険科の生徒さんはよく来て下さりますから」
(皆、武器とか作って貰ってるのかな)
追いかけて来た2人が彼女に挨拶する。
対応を待ってから俺は用件を伝えた。先程の出来事で、もしかしたらと考えたからだ。
「なるほど、観戦時に会話を聞きたいゆうことやな」
「はい、どんな些細な情報でも役に立つかもしれなくて。何か良い物がありませんか?」
「あるで。例えばこの【地獄耳くん】なんてどうです」
カバンの中から頭に装着する物品を取り出す。
他に耳飾り型や「聞き取りくん」なる、拾った音声を文字表記する板があった。
「独創的な名前ですわね」
「可愛いにゃ」
(都合が良すぎるよ)
「あ、お兄さん今、都合ええなぁって思いましたやろ」
「心読まれた!?」
軽い恐怖を感じた俺の反応に彼女は笑顔で応える。
どうも毎年のことらしい。同じ考えに至った人から声を掛けられるのだそう。でもハロルドは頭や耳に何もつけていなかったけど……。
「今なら宣伝も兼ねてますさかい、レンタル料はお安くしときますえ。ご購入も可能です」
「有料なんだ」
「当たり前や。2日目はご新規はんを獲得するええ機会やもん」
「確かに新入生が参加する大きなイベントですものね」
「ぬぬぅ、別部族との取引かにゃ」
「せやろ~」
先輩組が隣で和やかに会話していた。これは慣れるしかないか。
金額を聞き、考えたうえで耳飾り型をレンタルする。先払いだ。種族に応じて複数の形状が揃えられていた。耳の形で困ることはない。
箱に入った物を受け取り別れる。大事にしまい露店廻りに歩き出す。
⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔
闘技場の周囲には幾つもの露店が並んでいた。
今は学生で賑わっているが、普段から様々な催しがあり景色自体は変わらない。
店を渡り歩きながら悩んだ末に、肉を挟んだサンドウィッチを食べる。トゥワはジャークチキンに齧りつき、ローズマリーはフィッシュ&チップスとカップケーキを買っていた。
「お2人は意外と肉食系なんですのね」
「そんなことないよ。甘いのも、辛いのもいろいろ食べるかな」
「ミャーは魚も鳥も大好きにゃ」
「どっちも肉じゃんか」
トゥワは時々クシュッと鼻をむずつかせている。でも食べるのを止めない。
「まあ、女性だからとお肉を遠慮する理由はありませんもの」
こちらも食べます、と2人は料理をシェアした。
同じく露店で買ったお茶を飲みながら料理を味わう。話のほうも弾んで楽しい時間が過ぎていく。食事の最中、ローズマリーが通りすがった学生をそっと示す。
「あちらの方々。おそらく次の対戦相手ですわ」
俺達は揃って視線を向ける。間違いなく依頼を一緒にしたカリアだ。
他にも聞いた特徴通りの人達が歩いていた。鬼と水生生物の特徴が表れた彼女には少し親近感が湧く。見かけることの少ないハーフだ。
長く見つめるのは控え、食事を済ませてから会場に戻る。
いよいよ後半の試合が開始。舞台は水場のあるものに変わっていた。
陸地を分断するように通った水路でお宝が隔離されている。陸地の一部は水上に浮いている感じで揺れそう。石柱や石橋などちょっとした庭園みたいだ。
(苦戦するかも)
自分の時を考え息を飲んでいると観衆の話が聞こえてくる。
「はぁ、なんて芸術的な舞台なんだ。どこが壊れるか知れぬ企画に使わせてくれるなんて」
「あの舞台、先月彼と見に行ったのよ」
「へぇ~全然張りぼて感ないね」
他の催しでも使われてたんだ、と思いつつ舞台上を見つけた。
2戦目の第1試合は蓮之介だ。同じチームにヴァルツと、鳥人族のカラド学園生がいる。
「レン、頑張れ!」
俺の声援が聞こえたのか、蓮之介が笑顔で手を振った。
「浮かれて足引っ張んなよ」
「いいだろ、こんくらい」
耳飾りのおかげでバッチリ聞こえる。
開始と同時に駆け出し、物陰に隠れながらお宝を狙う。
すると相手チームの1人が敵に向かって行く。勝利条件の1つ、全滅狙いか。
(狙いは、ヴァルツか)
水中から忍び寄り襲い掛かる。
ヴァルツは瞬時に装着したグローブに手をやり迎撃態勢。
「危ねえ」
飛沫を上げ飛び出した影の剣を蓮之介が防ぐ。
「余計なことをするな」
「お前なぁ」
仕損じたと判断し再び水中に潜み退散していく。
気づいた蓮之介が後を追う。2人は別々の方向へ進んでいった。まっすぐ追尾する蓮之介が水路の入り組んだ地点に出る。足場がないと渡るのは無理か。
ヴァルツがグローブから糸つき針を射出。幾つもの柱に巻きつけピンと張った。
「もたもたするな。先を越されるぞ」
「素直じゃねー奴」
対するヴァルツは「いちいち煩い」と文句を垂れていた。
サンキュ、と礼を言いつつ蓮之介が糸を足場に渡って行く。
(相手がお宝の近くにっ)
間に合うか、と手に汗を握って見つめる。
水中を進んだ敵の手がお宝に伸びた。それを蓮之介の一撃が阻む。
僅かに遅れて、加勢にきた者同士の攻防が繰り広げられる。獲物を前にした激しい争奪戦が勃発だ。刻々と制限時間が削られていく。
(蓮之介にはちょっと不利かも)
なんとなく本領を発揮しきれてない感じだ。
「埒が明かないか」
援護していたヴァルツが水場に向かう。
「おい鳥、風で水をまき上げろ!」
「鳥とはなんだ。名は伝えた筈だぞ」
「時間がねぇんだ。急げ」
「まったく人使いの粗い」
鳥人族の生徒が戦線離脱する。追撃する敵をヴァルツが氷塊を放ち妨害。
今まで見せなかった力に俺は驚いた。あいつ氷まで使うのか。魔法じゃないよな、と推察する。
風魔法で巻き上げられた水。それをヴァルツは凍てつかせ周囲一帯に放つ。炸裂した力は一見、無差別攻撃かのように見えた。
(ド迫力ッ、ていつの間にかあいつが抜けて)
派手さに意識を奪われている間にお宝を確保している。
区別はしていたようで、吹っ飛んで動きを封じられていたのは敵だけだ。
「1回戦の時もだけど動きはしっかりしてる」
「戦いの場では口調が粗くなるようですけど優秀な方ね」
「他の2人もよく連携できてるにゃ」
「さて、考察は後にしてわたくし達も行きましょうか」
「うん」
「はいにゃ」
俺達は揃って席を立つ。舞台の点検が終わるまでには着くだろう。
短いながらも点検を済ませ、いよいよ次の試合=俺達の戦いが幕を上げる。
いろいろ展開悩みますね~。遅くなりました。




