第18話 1日目が終わり、2日目が始まる
次なる競技はペインボール。武者震いを感じながら配置につく。
制限時間あり、特殊ルールのバトルロワイヤル・キングダム形式のチーム戦になる。人数は各8人の選抜。武器の持ち込みは不可。能力も行使不可だが身体機能は良し。
蓮之介の存在は頼もしいが問題もあった。フェロウが入っているのだ。
「さて、たーっぷり味見してやるよぉ」
「言っとくけどボール以外で攻撃しちゃダメだからね」
一応念押ししておく。大丈夫だと思うけど心配だ。
開始の合図が鳴り響いて各陣営ともに動き出す。それぞれの拠点に設置されたボール入れから必要数を持って行く。4つに分割された陣営。敵の領地を塗り潰すために、作戦を練り攻防を繰り広げる。
「熱き闘志、唸る筋肉、鍛え抜かれしこの剛腕がすべてを解決する!」
「むさくるしい語句に寒気がっ」
蓮之介はハッと気配に勘づいて回避行動をとった。
直後、大量のボールが雨のように降り注ぐ。乱戦状態だったので被害は絶大だ。
(今ので半数近くが脱落したぞ。どこのどいつだ)
運よく範囲から外れていた俺は状況を確認する。
視界に映ったのは、輝かしい頭部のてかりだった。黒組のスキンヘッド男。なぜか上着を脱いでいる。そして視線に気づいてか、即座に撤退していく。
「は――ッ」
ヒュッとボールが飛んでくる。本能的に危機を感じ回避。
「ハロルド」
「ふん」
「待て!」
目が合うのと同時に逃げられてしまう。
追いかけたいが今は体勢を立て直すべきか。迷っていると、蓮之介から「行け」と促された。俺は頷いて地を蹴る。徐々に速度を上げながら追撃した。
(姿を捉えた。ん、斜め後方から気配)
感覚が研ぎ澄まされていたおかげか。
己の直感を信じて跳躍。自分の玉を尻尾で後方に放つ。
「んぎゃっ」
(命中したみたいだ。このままハロルドを追おう)
仮に打ち損じていても問題ない。また躱して反撃すればいいのだ。
振り向かずに駆け抜ける。そして射程に捉えた瞬間、俺は投球した。向こうも気づいた様子で振り向くが遅い。
(読んでたよ。もう一発)
「ぬわっ」
ハロルドが辛うじて避けた先を狙い玉を放った。今度は命中だ。
「今日は俺の勝ちだね」
「く、僕としたことが……」
好敵手を前に勝ち誇っていた時、背後で派手に吹っ飛ぶ人々。
何事かと振り向けば遠くでフェロウが大暴れしていた。めちゃくちゃ楽しそう。
(あいつの相手は同情しちゃうな)
「というか、ボールでどうやれば吹っ飛ぶんだ」
疑問に思いつつ、次の標的に向けて駆け出す。
差し迫る時間。残っている人は限られ、視界に入った黒組のスキンヘッドを狙った。左右に動いて攪乱しながら接近。するとスキンヘッドが2人いる。
(もう1人いたの!? いや、関係ないか)
何人いようがまとめて倒せばいい話だ。自陣でないのを確かめ投球。
「来たぞ、オルカス」
「みたいね、クラウド」
予測していたとばかりに避けられてしまう。男2人は並んで言う。
「行くぞ、この美しい筋肉と」
「可憐な筋肉で♥」
『尋常に勝負!』
「なっ!?」
迸る気迫と、ポーズからの異様な気配に気圧され足が止まる。
近づきがたい。初対面で思うことじゃないけど変なコンビだ。次の瞬間、俺は着弾を許していた。完全に隙を突かれてしまう。
「くっそぉ~」
まさか、わざとか。怯ませるために意表をつく動きを――。
悔しい思いで退場して決着を見守る。蓮之介はまだ残っていた。身体能力では遅れを取ろうと、勘の良さでなんとか対応している。本当に不思議なくらい打たれ強い。
「頑張れっ」
敗れた仲間達と並んで応援に励む。
やがて決着がつく。競技の結果は黒組が1位、赤が2位、青が3位、白が4位だ。
チーム対抗の総合部門はこれにて終了。明日は個別部門で別扱い。よって総評に入る。1位は青、2位は黒、赤は3位、白が4位だった。
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競技大会の2日目は同じ会場でエントリー性の競技が開催。
参加者はまず受付に行き、くじ引きで番号の記されたカードを受け取る。俺が渡されたのは3番。先の展開にワクワクしながら入場した。既に多くの参加者が集う。
「刻限になった。これより闘技を開始する」
司会進行を務める教師からルールが説明される。
「本闘技は現地での即席チーム活動を想定している。形式はトーナメント、制限時間ありのトレジャーバトルだ。参加者は同じ数字の人と組み上位を目指せ」
本来ならば、毎回選抜するのが好ましいけど手間なので割愛らしい。
敗北条件はチームの全滅か、お宝を奪われること。決着がつかない場合は審査になるという。早速チームの編成に動く。
「3番の人、いますか!」
俺はかき消されないよう叫ぶ。
すると3のカードを持った手を大きく振り近づいて来る人影が――。
「はいにゃ」
「君はあの夜の人だよね」
「また会ったにゃ」
初対面の時は夜でよく見えなかった。改めて容姿を見る。
蜂蜜色の髪とオレンジ色の猫目。トーマスが半信半疑だったのが頷ける。獣人にしては肌色が透けるくらいに毛が薄い。でも顔は他と変わらず猫らしさがあった。
服装は動きやすさ重視のパンツ系。小さな角笛の首飾りを下げている。
「貴方達がわたくしのチームメイトですの?」
後ろから声を掛けられて振り返った。鎧を着た巻き毛の少女が立っている。
「君も3番なんですね」
「ええ、この通りですわ」
カードを見せ合う。間違いない。互いに「よろしく」と挨拶をした。
3人1組が出来あがると、試合に向けて一時退場となる。落ち着ける場所に移動して話す。
「じゃあ、改めて自己紹介しよう。俺はエミル・ヴェルベイン」
「ミャーはリャウ・トゥワ・ニャーファン。トゥワって呼んで」
「ローズマリー・パトローネです。お見知りおき下さいませ」
第1試合の開始を告げる放送が流れた。
自己紹介と簡単な情報共有をしてから第1試合を見に行く。
俺は運がいいなって思う。誰1人、治癒魔法は使えないけど……。
(そういえば、ニーアや蓮之介は誰と組んでるんだろう)
受付で2人が参加しているのは把握済みだ。ニーアが11番で、蓮之介は5番。
興味をそそられながら会場に足を踏み入れた。既に始まっていたが、制限時間はかなり残っている様子。対戦者らをよく観察する。
(チームを組んだ初戦だからかな。動きが固い)
こればかりは仕方ないだろう。放送までの時間は多くなかった。
でも現実にあり得ることかもしれない。切迫した状況では情報を共有する時間が限られる。出会う場所によるが、戦いの場で急遽共闘するような状況に近いか。
「厳しいですわね」
ローズマリーの呟きが聞こえた。彼女も考えている様子だ。
「トゥワはどう思う?」
「最初はまず観察。敵、味方両方の動きから勘で次を導くにゃ」
「一理ありますわ。互いに隙を埋める動きをすれば……」
「自然と誰かが攻めて、守る形になる」
声音に少し不安が混じってしまう。絶対の自信がある訳じゃない。
未知数が多い場合は、敢えて役割を限定しないということか。確かに1つの作戦だと思った。
考えてみれば今のチームは接点が少ない。トゥワは普通科らしいし、ローズマリーに至っては他校生だ。短い時間で理解するには限界がある。
「決着がついたようですわ」
「あっという間だったにゃ」
「隙をつかれた感じだったね」
陣形に大穴が開き、つかれた感じか。ああならないように気をつけないと。
もう1試合が行われた後に俺達の番がやってきた。装備を確認して仲間の意志を認め会場に向かう。
「行こう」
「はい」
「にゃあ」
盛り上がる会場の中を歩いて行く。対戦相手は全然知らない人だ。
左から人間族・女、鬼族・男、エルフ族・女の編成。武器を見た感じだと前衛は男だけっぽい。両者睨み合い、号令とともに動き出す。
「先手を打つ」
俺は真っ向から踏み込む。雷の魔法を放ち牽制した。
「速攻にゃ」
「させないわ」
稲光に隠れトゥワが宝箱へ向かう。しかし弓矢によって阻まれる。
身を反らして矢を避けた。しかし距離が遠のく。エルフの女が放った風刃が俺を狙う。
「やらせません。パージ」
ローズマリーの翼が外れ盾となる。
今気づいたが、彼女だけは一歩引いた所にいた。飛び出さなかったのか。
「助かったよ」
「構いません。どんどん攻めて下さいまし」
「鎧女は防御型か。どりゃあっ」
鬼族の男が身の丈ほどもある槌を振り下ろす。
重い一撃にローズマリーは顔をしかめる。俺は回り込んで大きく尻尾を叩きつけた。横やりを受けて緩んだ隙に彼女が後退。
俺はもう一撃を叩き込まんと踏み込んだ。翼を戻して飛び立つのを視界に端に捕えつつ、鬼族の男を惹きつけるように動く。
「きゃあぁぁっ」
「く、後方を狙ったか」
「よそ見してる場合じゃないよ」
剣技を繰り出す。槌で受け止められるが関係ない。
「獲ったにゃー!」
勝敗を告げる放送が響く。俺達の勝利だ。
「しまった。飛んでくる敵は囮だったのね」
「トゥワ、ナイスです。良い動きでしたわ」
「えへへ~2人が派手に暴れてくれたおかげにゃ」
照れた様子で貢献を誉めてくれる。
こっちまで嬉しくなり素直な気持ちで言う。
「気配消すの上手すぎ」
「狩りの基本にゃ」
彼女は得意げに胸を張った。司会進行に促され退場する。
試合が順調に進んでいく。トーナメント表を見たらチーム数は16と少ない。冒険科だからと必ず出場する必要がなく、我こそはと思う者が集ったからか。
(冒険者といっても戦いがすべてじゃないもんな)
1日目と違い、加点はあるものの欲張る必要はないのだ。
どのように活動するかは自由。必要なことは講義や課題・依頼で学べる。
「他のチームは気になりますが、今後の動きを確認するために話しません?」
「賛成。トゥワはどう」
「同じ気持ちにゃ」
闘技場内の個室に移動してから話し合う。
「先程少し話しましたが、わたくしには能力があります」
相槌を打ちながら静かに聞く。確か炎を操る力だ。
彼女自身は魔法を行使できないけど近い現象を起こせる。ただし使い続ければ発熱してしまう。鎧で補助しているらしい。
「ミャーにもある。天足水歩、空中や水の上を走れるにゃ」
「まあ、それであのように立体的な動きをしてらしたのね」
「でもこっちに来てから時間制限がついちゃったのにゃ」
しょぼんと耳が垂れ、落ち込んでいるのが伝わってきた。
「最後は俺だね。実は……」
流れで能力について話す。反動のことも忘れずに伝えた。
その後も話を続けて行く中で、話題は次の試合に向かっていく。対戦表を見たので4番か16番のどちらかだと判明している。
「わたくしとしたことが判断を誤りました。1回戦は全部見るべきでしたわ」
「ううん。俺も賛同したし、能力のこととか大衆の中じゃ話辛いよ」
「なーに、今すぐ見に行けば大丈夫にゃ」
すぐ後の試合は終わってそうだが、まだ間に合う。俺達は早足で会場へ戻った。




