表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/27

第9話 学園への出立

 目が覚めた時、十数分が経過していた。

 はっと瞼を開けて飛び起きる俺を心配げに見守る2人。すぐ元気なことを伝えると安心した顔になる。実際、体調は回復していた。


「ごめん。まさか気絶するほどだったなんて……」

「本当に気分悪かったら言って下さい」


 しおらしく謝罪するタルホと、まだ不安が拭えない様子のニーア。

 俺は元気に立ち上がって明るく言う。


「全然平気だって。ちょっと失敗しただけじゃん」

「う、うん。でも無暗に使わないほうがいいかも」

「私も慎重になったほうがいいと思います」

「心配し過ぎ。大丈夫だから」


 念押ししてから今一度考えてみる。

 今のは制御ができなかったのか、選んだ対象がマズかったのか。

 何度かやってみて感覚は掴んできた。任意のタイミングで発動させられるっぽい。ならば能力だろう。使いこなせない力じゃない筈だ。


(生物以外はできるのか?)


 思い至って近くの石ころを掴み拾う。感覚を想い出しながら力を込めた。


「何も、起きない」

「もしかしてまた力を使ったの?」

「うん。でも石はダメみたいだ」

「意識同調なんですよね。だからじゃないでしょうか」

「つまり意志があるものにしか効果がないと。じゃあ植物も無理かも」

「いいえ、植物にも意思はあります。動物のものとは違いますけど」


 なんとなく零した言葉に意見が飛んでくる。

 話しながら試していく内にいろいろと考察が進む。意思を始めとした道具類には効果なし。魚や獣はわかってたけど、植物にも効果があったのは驚きだ。でも反発するような不快感があった。


「段々コツを掴んできたぞ」

「動物と話せる風じゃないんだね」

「そうみたいだ。あと記憶が見える感じでもない」

「逆に見えたら怖いって」


 相手の漠然とした気持ちは伝わって来たけど話まではできない。

 これは対象の問題かな。魚の何匹かは力なく浮かび上がってしまう。それ以外も心なしか元気がないかも……。


(魚には悪いことしちゃったかな)

「会話ができないというのは?」

「うーん。無視されてる感じ」


 要領を得ない言い方にニーアは考え込む仕草をする。

 するとタルホが「繋がっても指示を聞くかは相手次第でしょ」と言う。

 結論その1、繋げられる対象は生物。でも言うことを聞いてくれるかは別。


「反動のほうはどう?」

「どうって言われてもなぁ。普通にあったよ」

「なかったのはお父さんの時だけ?」

「うん」


 即答した。本当にその通りだったから。


「だとすれば、繋げる相手との関係性でしょうか」

「なるほど。頭いい!」

「いや、そのくらい気づいてよ」

「あははは……」


 恥ずかしくなり笑って誤魔化す。言われてみたら簡単だった。

 結論その2、反動の有無は関係性。ああ、それと同調中は痛覚共通で、こっちは誰が相手でも変わらないみたいだ。

 そこで最初の猫・ナタリアと今しがたの魚らを思い出す。


(無理に繋げると影響出そう。相手にちゃんと伝えてからにしないと)


 一回、深呼吸をした。


「あのさ、上達したら2人に能力を使ってもいいかな?」


 短い沈黙の後で2人ははっきりと頷く。


「いいよ」

「はい」

「ありがとう。もちろん時と場所は選ぶから」

「ていうか、上達するために練習台になってあげるよ」

「確かに能力の内容を考えたら1人は難しいかも……」


 友人達の勇気ある提案に有難く乗っかることにする。

 しばらくは試す気持ちになれなくて、魚や植物に申し訳なく思いながら特訓を続けた。



     ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔



 能力の修行を続けながら俺は周辺の森や山を駆け回っている。

 石や根で凹凸のある斜面を全速力で上り下りしていく。途中、茂みが揺れ影が飛び出す。


「ギャアァァァッ」

「せいやっ」


 何度か遭遇したことのある猫型の魔物。剣を抜き振り抜く。

 一撃では倒せない。だけど取り乱さず数回切り結んで撃退。剣を収め走り込み再開だ。


「グルルルッ」

雷よ(サンダー)貫け(ピアース)!」


 今度の敵は雷魔法で迅速に倒す。

 複数出てきた時は広く放電。または剣に炎を纏わせて範囲を調整し薙ぎ払う。


(剣に付与はほどほどにしないと)


 やり過ぎると武器が壊れる恐れがあった。それはマズい。

 最近はこうして基礎を鍛えつつ、大人達の周辺警備に参加したりしている。少しでも実戦経験を積むために……。


(そろそろ休憩しよう)


 峠に差し掛かり折り返す。そしていつもの川辺まで来た頃だ。


「あれはニーア」

「お疲れ様です」


 薬箱を抱えたニーアが町から足を運んで来ていた。

 すっかり見慣れた光景で、俺が足を止めると歩み寄り傷の有無を調べる。今日は何もないのにほっと安堵を息を零す。心配してくれているのが伝わってきて嬉しく思う。


「いつもありがと」

「お礼なんて。私はただ少しでもお役に立ちたいのです」

「十分助かってるよ」


 俺が言うと彼女は照れた様子で頬を染める。

 弁当を持ってきてくれたようで一緒にご飯を食べた。


「美味しい!」

「よかったです。今日は新しい品目に挑戦したの」

「初めてでこの味!? 凄い上達してるじゃん」

「うふふ、そんなに褒められると照れちゃいます」


 もじもじするニーアを見てるとこっちまで照れてしまう。

 他愛もない話をしている筈なのに、どうしてこんなに顔が火照るのか。カッと身体が熱くなるのを感じた。激情のままに弁当の残りを掻き込んだ。喉を詰まらせたら飲み物をくれて。


「おーい! 2人ともやっぱりここにいたんだね」


 向こうからタルホが駆けてくる。彼の登場で熱が収まった。


「今日はなんの用だ?」

「えー用事がないと来ちゃいけないの」

「そんなことねぇよ。なあ」

「はい、もちろん」

「まあいいや。せっかくだし剣の相手でもする?」

「是非頼む」


 せっかくの申し出を受け俺は立つ。

 持ってきてくれた木剣を受け取り位置について構える。それからはしばし剣の打ち合いをして時を過ごした。



     ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔



 あっという間に時は過ぎていく。日常を繰り返し13歳。

 とうとうこの日がやって来た。手続きや準備を済ませて今日、町を旅立つ。王都行きの馬車の前で俺達は両親や友人に見送られる。


「しっかりね。身体にを気をつけるのよ」

「勉強と鍛錬を怠るんじゃないぞ」

「言われなくてもわかってる」


 身体の心配や注意を促す両親に俺は苦笑い。隣ではニーアも似たような会話をしていた。


「元気で。これ良かったら持ってて」

「手作りのお守りか。ありがとう、大切にする」

「はい、うちのパン。道中で食べな」

「ありがとう。おばさん」

「いいんだよ。いつも息子と仲良くして貰ってるからさ」


 餞別のパンは量が多かった。それもその筈で2人で分けるように言われる。お守りは彼女も同じように貰っていた。

 たっぷりと別れを惜しみ、御者の人が声を掛けるので馬車に乗り込む。座って走り出すのを待ってから大きく手を振る。こうして学園のある王都へ向け町を出立した。



 馬車のお守り「魔除けの鈴」が澄んだ音色を響かせる。

 カサリナの町を出てすぐ橋を渡り道なりに行く。青い空の下、砂利道の脇に広がる畑では麦や野菜が実り風に揺れていた。

 のんびり揺られながら時間をみて分け合ったパンを齧る。


 長く揺られているとやがて小川に架かる橋が見えた。ここを超えればもう王都グランノールだ。結界に守られた都市は華やかに賑わう。

 今日からこの場所で新しい生活が始まる。外の世界へまた一歩、俺は踏み出す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ