09話 念願のぴっつぁ
ガタンゴトン♪ガタンゴトン♪
ポンペイの遺跡を見終わり、今は帰りの電車に乗っている。発車すると同時に心地よい電車の振動がリズムを刻み、娘はかわいい寝息を立てながら夢の世界へと旅立っていった。電車に乗る前は綺麗な夕焼け空だったが、次第に視界が暗くなり夜がやってきた。
「そういえば夜ご飯がまだだったわね」と妻が耳元で囁いた。
「たしか、ポンペイの遺跡に入る前、ユリがピザ食べたいって言ってたな」と僕も囁き返した。なんで囁いてるかって?そりゃ、我が娘は食い意地が張るからね、もちろん悪い意味じゃないよ。きっとご飯の話を耳にした途端に起きちゃうからね。
「それじゃ、今日は疲れてるだろうし、ホテルの近場でピザ屋を探しましょ」
妻が提案したため、スマホで一緒に探し始めた。ほうほう、色々あるな。さすがは本場イタリア。だが今日は下手に奇をてらわずに無難な所にしようかな。
「どうやら下町の方へ行くとピザ一枚一ユーロ(約百三十円)で食べられるらしいわね。びっくりだわ」と妻が物価の安さに驚きを表した。
「下町ってなんだか面白そうだし、明日の昼あたりに行ってみるか」と僕が提案すると妻が賛同してくれた。
お、どうやらナポリに帰ってきたようだ。さて、娘を起こすか。
「ご飯食べに行くよ〜」と声をかける。
「ハッ!ユリのぴっつぁどこ〜?」やはり夢の中でもご飯を食べていたようだ。
「寝ぼけてないで電車を降りましょ。今日の夜ご飯は注文通りピザですよ」と妻が娘を起き上がらせながら言う。
駅から歩くことしばし、目的のレストランに向かう。そういえばイタリア料理店には格みたいな区分分けがあって名称がそれぞれ違うらしい。何気なくレストランと言ったが、リストランテは最高級の店の呼び名である。なので正確に言うと今向かっている店は、
「ピッツェリア、でしょ?」と妻に回答を横取りされた。
「なんで分かった!?」
店に入り、各々好きなピザを選び注文する。少し待つと三枚のピザが出てきた。
「このぴっつぁは、ユリのだからね!」と娘が主張する。
「あら、みんなで分けていろんな味を食べてみなくていいのかしら?」と妻が提案した。
「!べりーぐっどなアイデア。さすが、ままはかちこい」と目を見開いて娘は言った。
「ほれ、パパの上げるからユリのもちょうだい」と僕は切り分けたピザをユリにあげた。
ちなみに僕が頼んだピザはオーソドックスなマルゲリータ。なんでも昔の王女様の名前に由来する由緒あるピザらしい。トッピングはトマトとモッツァレラチーズのみ。しかしトマトの甘みとびよーんと伸びるチーズの食感がいい具合にマッチしてシンプルながらとてもおいしい。耳の部分がもちっとしていて食べごたえがあるのもポイント。
「「「ごちそうさまでした」」」
イタリアでも恒例の食後の挨拶をみんなでして夜ご飯は終わり。表情を見る感じ、家族みんな初のイタリア風ピッツァを楽しめたようでなによりだ。
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今回は「マルゲリータ」です