08話 古代人の生活
かの寂しき牧神の家を離れたあとは、スタビアーネ浴場をちらりと見学した。
「次は昔のお風呂跡だよ、ユリ」と僕は入り口を指差しながら言った。
「!おっふろ♪おっふろ♪」と口ずさみながら娘は駆け出していった。が、すぐに引き返してきた。
「ぱぱ〜。またユリをだまちたな!」とジト目を向けてくる娘。
「あれはやねがないから、おふろじゃない」と首を横に振りながら伝えてくる。
「いや、屋根がない露天風呂とかもあるよね!?」とデジャブを感じながらツッコんだ。そうして娘の方を見ると、
「えへっ」と照れていた。いや、分かってて言ったんかーい。
「でもでも、緑色のお風呂だったよ?」と娘が言った。
「あら、ほんとね。これが古代ギリシアのお風呂の色なのね」と妻も言った。そんなはずはないのだが?妻が言うのならと、気になって入り口から覗くと、
「うん、知ってた。水なんかない、芝生じゃねぇか!」と渾身のツッコミをした。またまだデジャブの気配を感じながら後ろを振り向くと、
「「えへっ」」と二人ともはにかんでいた。かわいいので許す!
そんな風に仲良く茶番を演じながら歩いていると、今度は大劇場と呼ばれる場所に出た。ここでは現在も夏の夜にはオペラやバレエが催されるらしい。席は平面上に並んであるのではなく、よくあるスポーツのスタジアムのように段々になっているため、どこからでも眺めが良さそうだ。
「劇かなにかの練習をしているわね」と妻が呟く。
「あのひとたち、みんなおなじかっこしてる〜」と娘も興味津々に見ている。
「少し見て行こっか」と僕は提案した。
大劇場にて小休憩を挟んだら、日没も迫ってきたので残りの見どころを廻りつつ出口の方へと向かう。
「みてこれ〜!つくえにあながあいてるよ。かくれんぼにつかうのかなぁ?」と娘が首を傾げる。
「ここはね、テルモポリオって言って昔は居酒屋だったらしいわ。この壺に飲み物とか温かい食べ物を入れて保管してたんだって」と妻が詳しい解説をしてくれる。
「ほぇ〜。おなかすいてきた」と娘は呟いた。
「なかなか小洒落たバーカウンターだな」と僕は感想を抱いた。
出口が近づいてくるとなにやら大きな建物が見えてきた。それは円形をした闘技場で、その形はまるで、
「あ、あれは!うわさのころっせお!」と娘が歓声を上げる。
「そんなわけないじゃない。コロッセオはローマにあるわよ」と妻は否定する。
「ガーン」と娘は項垂れた。確かに似てるかもしれないけど、本物はもっと大きいんじゃないか?
「さて、ポンペイの遺跡もあらかた見れたかな」と僕は言う。
「そうね、想像してたよりも広かったわね。町一つ分くらいはあったんじゃないかしら?」と妻も感想を言う。
「うぅ〜。ユリもうつかえちゃったよぉ」と娘は少し足が辛そうだ。
「それじゃ、ナポリに戻ろっか」
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今回は「スタビアーネ浴場」「大劇場」「テルモポリオ」「偽ころっせお」です