07話 秘儀荘と赤い壁画
秘儀荘。それは大小六十の部屋からなる大邸宅である。一番の見どころはやはり、大広間の壁一面に数多の等身大の人物が描かれた壁画だろうか。背景にはポンペイの赤と呼ばれ独特の色合いを持つ赤色が、一面に配色されている。等身大の人物の顔立ちと相まって神秘的な雰囲気を醸し出している。
「まーた、どっかにトリップしてるわ」と妻に指摘されて現実へと意識が舞い戻ってくる。
「ユリね、まっかなかべみてみたい!」と娘は言う。
「ん?なんで赤い壁画があるって知ってるんだ?」と疑問に思うと、
「そんなの、さっきあなたが口に出してたからに決まってるじゃない」と妻が呆れ顔をした。
「あ、口に出てたのか」ん、待てよ。ということは妻はエスパーなんかじゃなk
「くだらないこと考えてないでさっさと行くわよ」と妻は言い、僕の思考を遮った。やっぱり僕の思考を読んでるよね!?
「すっずし〜な〜」と言った娘の声が壁に反響して帰ってくる。
「確かに。外は秋とは思えないくらい暑かったからな」と僕も同意する。
「それにしても思ったより赤いわね、これ」と妻は壁画の色彩に驚いていた。
「もともとはこういう色だったらしいよ。流石に今あるのは修復された後の絵らしいね」と僕は妻と会話する。
その間、娘はある一点をじっと見つめていたが、徐ろにこう聞いてきた。
「なんでこのひと、ふくきてないの?」と。へ、返答に困る!
「あら、それはお風呂に入ってたからじゃないのかしら?」と妻が娘に答える。ナイスフォロー!
「ほぇ〜そうだったんだ」と娘は無邪気に感心する。
どうしたものか。今回のイタリア旅行では、なぜかたくさんの絵画、彫像が裸になっているのだ!きっと昔の人は裸が好きだったんだろうな、うん。
「それは昔の人に限ったことじゃないでしょ」と妻。そうそ、う、ん!?な、なんのことかな。さっぱりわかんないやー。
秘儀荘を見終わったら、中心部を目指して来た道を戻る。途中で牧神の家と呼ばれる場所に寄った。
「ぼくちんのおうち?あたらしいおうち!」と娘が嬉しそうに言い、内部へと駆けていく。が、すぐに戻ってきた。
「あれはやねがないから、おうちじゃない」と首を横に振りながら伝えてくる。
「くすくす。あれはね、昔の貴族の家だったのよ。とは言っても今は小さな像しかないけれども」と妻は微笑みながら言った。
「そしてそこにある牧神の像もコピーらしいよ」と僕は付け足した。本物は博物館にあるんだとさ。
「うーん、うーん。これさわれないよ〜。」と娘は一生懸命手を伸ばしてている。
そして偽物はロープで囲ってあって触れられないとまできた。なんとも寂しい場所だね、ここは。
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今回は「秘儀荘内部の壁画」「牧神の家」です