05話 ヴェスヴィオ周遊鉄道
「さて、ホテルへのチェックインも終わったことだし、観光を開始しようか」と僕が言うと、
「ええ、そうね」「いやっふぉ〜!」と各々に気合を入れた。
今はちょうどお昼時。季節は秋だが、居住地より南に位置するためか太陽の日差しが強く、気温が普段より高く感じる。こまめに水分補給をしたほうが良さそうだ。休憩時にアイスを食べるのもいいかもしれない。
それはさておき、ナポリから今日の目的地ポンペイに行くためには鉄道を使う必要がある。ちなみに今回の旅行は身軽さを考慮して、車移動はなしの全行程電車を使う予定だ。受付でチケットを買い、ヴェスヴィオ周遊鉄道に乗り込む。
「左側の席に座りましょ」と妻が提案した。
「にゃんで?」と猫になった娘が疑問を表した。
「こっち側から有名な火山が見えるからよ」と妻は答えた。
妻の言う有名な火山とは、鉄道の名前にもあるヴェスヴィオ火山のことである。約千九百年前、その火山が大噴火を起こしたことにより、ポンペイの街は一瞬にして死の灰に閉ざされた。そのため、古代ギリシアの植民地として栄えていたポンペイの町並みは、長い年月の間に風化、破壊されることなく綺麗な状態で土に埋もれて保存されていた。
「今から行くところは、すごーい昔の町並みが分かる場所よ」と妻は娘にわかりやすく教えていた。
「ならなら、むかしのひとにあえるの?」と娘が頭にハテナを浮かべた。
「ううん。昔の人はね、噴火によってみんな亡くなっちゃったんだよ」と妻は正直に答えた。
「今は、昔彼らの生活してた家とかお風呂とか、いろんなものが見学できるんだよ」と僕は娘の頭を撫でながら言った。娘には少し難しい話かもしれない。
「と〜ちゃ〜く」と娘はご機嫌良さげだ。
鉄道に乗っている間に、駅で買ったパンを食べた。そして、のどかな景色を見ながら鉄道に揺られ、かれこれ四十分で目的地へと到着した。
「もう三時になってるし、ちゃっちゃと入場して観光しちゃお」と歩き出しながら妻は言った。
ポンペイの遺跡群は広大なため、入場口が三つほどある。その内の最も近い門から入場する。入場すると歩いてすぐの所に、フォロと呼ばれる広場に出る。そこは神殿や市場が隣接し、古代の社会生活の中心地となっていた場所だ。
「ユリ、これからたくさん歩くから覚悟しておけ〜」と言いながら僕はユリの手をとった。
「うん、ユリ頑張る!なのでよるは〜、ほんばのぴっつぁをごしょもーです!」
妻と僕に挟まれた娘は気分を上げてそう答えた。
ツイッターに写真をアップしました。
今回は「ヴェスヴィオ火山 車窓より」「ポンペイの遺跡群」です
https://twitter.com/Alex_4068/status/1481883785645932547?s=20