03話 旅行準備
「ただいま〜」といつものようにドアを開けると同時に声を出す。
「おかえりなさい、あなた」と妻。
「ぱぱおかえり」と娘。
家に帰るといつものセリフ。だが玄関から見える光景がいつもと少し違う。
「えらいじゃないか、ユリ。もう荷物を詰め始めてるのか?」と娘に問う。
「うん。ユリえらいでしょ〜」とパンツを頭にかぶってポーズを取りながら言う。
「こ〜らユリ。そんなことしたらゴムが伸びちゃうでしょ」と妻はそう言って娘の頭からパンツを剥がした。
妻の作ってくれた夕飯を食べ、食後の休憩を挟んだあと、家族揃って服や生活用品のパッキングを再開した。今回は一週間だから、スーツケースは二個で足りるかな?
「はい、スーツケース二つ」と妻が渡してくれる。いつもいつも用意周到な人である。もしかして心を読めるのk
「そんなわけないでしょ」と妻が言う。
「いや、今のタイミング絶対心呼んだよね!?」と勢いよくツッコむ。
「顔に書いてあったからよ」
いや、スーツケース二つってどうやって顔から判断したんだろう?
「まあ、そんなことよりも。初日の予定を決めといたわよ」
どうやら僕が仕事に行っている間に妻が決めておいてくれたようだった。
「まま〜、さいしょはどこいくの?」と娘が聞いた。
「まずは飛行機でナポリまで行って、ホテルにチェックイン。荷物を部屋に置いたら、電車で少し離れたところにあるポンペイの遺跡に行こうと思ってるの」と妻が詳細なプランを明かしてくれた。
「確か二時間ちょいでナポリまで着く直行便の飛行機が出てたはず」と僕も付け足す。
「ひこうち、にじかんのるの!わあーい」とはしゃぐ娘。
その後もパッキングを続け、無事就寝時間までには終わらせることができた。といっても娘は疲れ果ててうとうとしていたが。
「いよいよ出発も明後日に迫ってきたね」と僕が言うと、
「そうね。大学生の時に二人で行った以来だからイタリアは久しぶりね」と目を細め、懐かしそうに妻は言った。
「あの時はみっちゃんに夢中で、あんまり観光に集中してなかったからな。今回は観光名所を色々とまわれたら良いな」と僕も同じく懐かしみながら妻の方を向く。
「そうね。あの頃は初々しかったわ」と妻は少し恥ずかしがった。まあ、初々しいと言っても黒歴史ができたわけではなかったのだが。
「それはそうと明日の仕事で、旅行前最後なのでしょ?明日を無事終えられるようにしっかり寝とかなくちゃね」と妻が言ったので僕たちはおやすみを言い合い、おもむろに夢の世界へと旅立っていった。