01話 帰宅
夕方六時。会社帰りだがまだまだ日は沈んでいないため、老若男女問わず連れ立って街を散歩している様子が伺える。
車を地下のガレージにいれたあと、アパートの階段を上り、玄関の鍵を回し、ドアを開ける。仕事終わりに行ういつものルーティーンだ。
「ただいま〜」と、ドアを開けると同時に僕は言った。
「あら、おかえりなさい」と、妻がそう言いながら近寄ってくる。
「おかえり。ぱぱ」と、娘の元気な声がリビングから聞こえてくる。
ああ、家族がいるってのはいいな、ありきたりだがそう思った。温かな家族の声を聞くとなんだか爺臭くも涙腺が少し緩まった。やっぱり、年かな。
「そんなわけないでしょ。あなたも私もまだ三十を超えたばかりなんだから」と即座に妻に否定された。
「いや、なんで分かったの!」と驚きながら言った。妻はエスパーなのかな。
「エスパーじゃないわよ。顔に出てたわ」と妻。やっぱり、妻はえすp以下省略。
「そんなことよりご飯できたわよ。ユリもパパと一緒に手を洗ってきなさい」
食器の配膳をしながら妻は娘に言い聞かせた。妻はユリと呼んだが娘の名前は、漢字で書くと由莉となる。五歳になったばかりのまだまだ可愛い自慢の娘だ。反抗期が来ていないのはいいことだ、うん。このまま一生来ないでほしいと切に願う。
そんなことを思いながら、娘と手を洗い、家族三人揃って夕飯にありつく。楽しくみんなで話しながらご飯を食べた。
「「「ごちそうさまでした」」」
夕飯が終わったらすぐに後片付け。幸い食洗機があるので軽く食器をこすり、そのまま機械に入れる。この仕事は僕の当番だ。妻には日中の家事を全て任せているし当然だね。その間、妻と娘はリビングのソファに座りテレビを見ていた。
「やっと終わった」
僕はそう言いながら娘の横に座る。今テレビではニュースキャスターが、「コロナウイルスの勢力が弱まり、今週末より警戒態勢が完全に解かれる」という趣旨のことを言っている。
「なんか、やっと終わったって感じよね」と妻がほっとため息をつく。
「マスクしなくていいの〜?」と娘が聞いてくる。
「だいぶ前から規制が緩くなってきたけど、もうマスク外して遠出してもいいらしいよ」と娘に答える。
「そうね。せっかくここに住んでいるんだし、今週末お休みとってどこかにお出かけしましょうか」と妻が提案した。
「おでけけ!」と娘が興奮気味に言う。かわいい。
「よし、じゃあ久しぶりだし今週は張り切って飛行機で遠くに旅行するとしようじゃないか」と僕は言った。さて、一概に旅行と言っても候補は色々あるし、どこにいこうか迷うな〜。
「じゃあ沖縄なんてどうかしら」笑いながら妻は言った。
「冗談じゃない。流石に遠すぎるよ」と笑いながら僕は言葉を返した。
「うんとね。ユリね、イタリアいきたい!このまえね、テレビでみたらすっごいきれいだったんだよ!」と無邪気に娘が言い出した。
「あらイタリアいいじゃない。何年ぶりかしら」と乗り気な妻が追従した。
「そうか〜。よし、じゃあ決まり。近いし今度の旅はイタリアに行こう!」
どうやら今度の旅行先が決まったようだ。