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あけてはいけない

作者: Fuki

人は必ず眠るのに目覚めた瞬間

その内容をほぼ忘れてしまいます。

たまに

何回か?この夢見た気がする

何となし覚えてるんだけど…やっぱ忘れた

そんな体験をした方もしない方も

目覚められない気持ち追体験しませんか?


目覚めた瞬間…『起きれたー♪』と

少しだけ爽やかな気持ちになれるかもしれません。

あっ…えと、確約はできませんが…

多分、そこは夢の中なのだけど…


体調の悪い時、ウトウトしていると

同じ空気に包まれてしまう



ふと

佇んでいるところでいつも我にかえるんだ…


夕方なんだろうか

ホワイトベージュの建物の壁が

オレンジ色に染まっている。

ぼんやりしていた目に夕焼けが眩しい…


そう、ここは随分前

1年だけ住んでいたハイツ


ハイツと言っても築8年

見た目も内装も綺麗で

何よりトイレとお風呂が別。

風呂には小さな換気の窓まであって

日中は明かりいらずだった。

気合いを入れ小走りなら

最寄り駅に15分で到着出来る。

東向きのリビングダイニング

そして西向きに6畳の和室がひとつ

近くにはコンビニとスーパーもあり

申し分の無い物件だった。



左から螺旋階段をのぼって…


…?ん?

なんだろ…この違和感…


…違う。

世界が反転してる?

私の部屋は道路に面した2階の角部屋。

あの螺旋階段は右に何段か上って

無駄に広い踊場があって

くるりとまわってから

また何段か上って…



…きーん…

何とも言えない音に

思わず顔をしかめてしまう…。


こんな大音量なのに、私にしか聴こえない音…

そう…私はこの音をよく知っている。

金縛りの前に聴こえる

アカンやつだ…


目を閉じているのに足元には

階段を踏みしめてる感覚が…ガツン



何故?

上ってる?


やだ。そこ

行きたくない…


あれ?段差がない……


…いやだ

もう踊場まで来てる…?


ふらふら…いや

ゆらゆらとした歩みが止められない。


顔を上げさえすれば

もう部屋の扉が見えるだろう。


いやだ…行きたくない。


固く目を閉じているのに

また1段…何かに吸い寄せられるように

のぼってしまったのが

足の裏からじわじわ伝わる。



今、目を開けたら…

夕陽に照らされた

ドアノブが見えるはず



あけてはいけない

あけてはいけない



早く

早く

目覚めて私…



…きーん…

また

あの頭の中を…切り裂くよな音に重なって

今度は微かに聞こえる…何かの鳴き声


今まで忘れていた

あの声だ…


…キィ…キィキィ…キィ


このハイツはペット禁止だった…。

ただ、私が平日の休みの時

階下の住人の留守中

しかも浴室の小窓から

何とも言えない

漏れてくる鳴き声…


私より後から引っ越してきた住人は

何も挨拶は無くて…

最近は挨拶をする人も少ないけど…


何人で住んでいるのか?

時に年寄りが数人

時に3歳くらいの幼児が数人…

洗濯物は大人10人くらいの量で

いつもベランダはギュウギュウだった。

晴れでも雨でもそれはいつも干してあった…。


お風呂に反響し響く声のヌシ

キィキィ…あれは何を飼っていたのだろう


住人の留守中にだけ風呂場に響く声…

暫くは音楽のボリュームをあげたり

テレビの音を大きくしたり

その声を無視するよう、頑張ってみたのだけど…

昼間にシャワーを浴びたり…

浴室を掃除していると

あのキィ…キィと何か悲痛な感じの鳴き声が…

階下の風呂場の小窓から漏れてくる…

正体がわからないだけに気持ち悪さだけが募る


とうとう…我慢できなくなったある日

管理会社に連絡してしまった。

絶対に私とはわからないようにお願いします…。

『ここはペット禁止です』と管理会社は

全ての住人のポストにチラシを入れると約束してくれた。



翌朝…出勤しようと階段を降りると


何も植えられていない土が剥き出しの花壇に

小さな盛土と小石…そして無数に散りばめられた

赤紫色のおりがみ?


いや…それは

近くに咲いていたオシロイバナだった。


…いやだ…

これってお墓…?



その日から

あのキィキィという鳴き声はピタリと止んだ。



私が部屋から出入りする時に必ず目に入る場所…

出かける時、帰ってきた時…

風雨に晒され

いつしか花は無くなったけど

少し盛り上がった土を…小石を見る度

何とも言えない重苦しい気持ちになった。



ダメだ…。

そんな事、思い出してる場合じゃない。

目覚めなくては!


今、目を開けば

夕日に眩しく光るドアノブが目の前にあるだろう…



ダメだ。

今すぐ目覚めなきゃ…


その時また

新たに頭の中

住んでいた時に何度も見た夢の記憶が蘇った…


あの…ぬめりとした感触


じわり…じわりつま先から染みてくる

全ての皮膚が粟立つような感じ…

とめどなく嫌な汗がふき出してくる…

心よりも体が先に恐怖を察知している




…夢の中で夢の記憶の再生?

そんなことを判断出来るくらい

私の脳は目覚めている…のに

目覚められない…



こめかみの辺りがギューっとなって

続いて頭痛と吐気が込み上げてくる



まだ部屋には入っていない…

なのに

頭の中では

あの部屋で見た光景がリアルに再現される


1番西陽がキツい和室の壁、いつものように

へたりこんで動けなくなった私…



唯一の和室への出入口の向こう

息を潜める気配を感じる…それは

あぁ…笑っているんだ…


その気配のヌシが襖がひらくその前に


真正面にある押入れが

音もなく

ゆっくり…ゆっくり…広がっていく

押し入れの闇から視線を外すことが出来ない


いやだ…お願い…


それだけは見たくないの…

出てこないで…



その時だった


突然

頭からすっぽり何かを被せられたような

暗闇に包まれて

映像も思考もストップした。


続いて

テレビなんかでよく見る刑事の取調べのような

頭を押さえつけられ照明を顔にグリグリと

向けられたような目のくらむような眩しさ



ここ何処?



恐る恐る目をひらくと

眩しい朝の光が

私のベットを包んでいた。


そういえば…

昨夜、月があまりに綺麗で

カーテンを開けたままにしてたんだった…


全てを照らし出す

朝日のおかげで現実に戻れたのか


遠くに小鳥の声が聴こえる…

いつもと変わらない平和な朝。



うん…

この所、体調悪かったし…

忙しかったし、疲れてたんだよね。

汗もしっかりかいた

風邪でも引いたのかな?でも

いまはスッキリしてる

これからは良くなるだけだ。



自分に言い聞かせるように

何度も心の中で呟く。

もう大丈夫。ここは現実。



やっぱ、引っ越して本当に良かったな…

なんて…朝日を存分に浴びながら

ベッドの上であぐらをかき

友達にLINEを入れる



おはよ〜

咲夜ね、凄いこわい夢みてめちゃ焦った

ランチの時、続き聞いてよねー!



悪い夢は話してしまうと現実にはならない…

今日だけは、そんなおまじないを実践したい。


人の夢なんて誰も興味など無いって

わかってるのだけど…


今日だけは…

友達に犠牲になってもらうのだ。


喉がカラカラだ。とりあえず何か飲みたい…


ふらつく体、何とか立ち上がって

汗まみせのパジャマを脱ぎ捨てた。



そだ…シャワー浴びたい


枕元に置いていた買ったばかりの

虹色のセルロイドのバレッタで

髪をまとめた。




バキッ…


え?




セルロイド部分でない…

金具部分が音をたてて砕けた。


最後まで読んでくださって

本当にありがとうございました。

感謝。

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