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1.思い出す侍女

短編の連載版です。

若干内容等変更しておりますが、おおまかな部分は変わりありません。

宜しくお願い致します。

「あ、ああああ!」


ある日の夜、ロゼリア王国王都エルミナーゼにある一番大きなお城の一室で一人の侍女、ミラの突然の叫び声が響き渡った。

突然の叫び声に少しだけ体を跳ねさせたこの部屋の主は心底驚いた顔で彼女を振り返った。

手にしていた紅茶のカップは何とか水面を揺らしただけで済んだようだ。


「ミラ?!どうしたの?!突然大きな声を出して!」

「え、そんな。この世界は、嘘。なんで突然、」

「ちょっとミラ聴こえてるの?!」


突然大層動揺した様子で呟きだした侍女にこの部屋の主――そしてこの国の第一王女ルーナ・ロゼリア――は眉を潜めた。

この侍女は至って真面目で細かい所にも気が利き、紅茶をとても上手に入れる優秀な侍女だと記憶していた。

その侍女が急に顔を真っ青に染め、困惑していることが全面に押し出された表情を浮かべているのだ。

何が起こったのか何一つ理解が出来なかった。


「ちょっとミラ!!真っ青よ、大丈夫なの?!」


あまりの顔色に心配になったルーナは紅茶を目の前のテーブルに置き、新しい紅茶を入れるため、茶葉の並んだ棚付近へ移動していた彼女へ近付いた。


「顔色だけじゃなくてどこかフラフラしてるじゃない!体調、悪かったの…?気づいてあげられなくてごめんなさい、今日はもう休んで良いわよ。早く部屋に戻って。」


大切な侍女一人の体調も分からなかったのか、と自身が情けなくなりながらも今はミラのことが第一である。

今までにミラがこんなにも変化を表したことはなかった為、ルーナ自身も動揺してしまう。

一人で部屋に戻ることも危ないかもしれない、と部屋の外で待機していた近衛騎士をすぐに呼びつけると彼女の背を優しく押した。


「あの、ルーナ様、その…!」


何か言いたげなことは分かったが、今は聞こうとは思えなかった。

何よりその顔色で大丈夫だと言われても信用することは出来ない。


「何か言いたいことがあるならまた貴女の顔色が良くなってから聞くわ。今の貴女の顔色じゃ何の説得力もないからダメよ!早く休みなさい。さ、彼女を連れていって下さい。」


有無を言わさず近衛騎士に引き渡すと、扉を閉めた。

多少強引だったかもしれないが、無理矢理でも下がらせなければ真面目な彼女は交代の時間まで職務を全うするに違いない、と考えての行動だった。


何か言いたげではあったが、明日の明後日も彼女は私の専属侍女であることは変わらないのだ。

急がなくても時間はある。また体調の良い元気なときに彼女の淹れた美味しい紅茶を飲みながら話を聞くのが最善であろう。


さて、私が部屋に一人きりなことは久しぶり。

基本的に侍女がいるし寝るとき間際まで部屋に一人きりということはなかった。

外に騎士が立っていることは常なのだが。


ふと、部屋に気配を感じた。

たまに一人きりになった時に気まぐれで現れる気配。

私からしたら、もう慣れ親しんでしまった。外の騎士にはバレないようにしているらしいので、今まで騎士が彼のことで突入をしたことはない。


「――――――――――――。また貴方なの?第一王女の部屋にそう何度も出入りするのは如何なものなのかしら?その内騎士にバレてもっと重い契約を追加するように言われても知らないわよ。」

「この稀代の暗殺者が一介の騎士にバレるヘマするわけねぇよ。あの執事は鬱陶しいからいないとき狙ってるしな。」


すっと影より現れた一人の青年は口角を上げると首筋の右側につけられた痕を上から下へ、と指でなぞった。

お前にもっと縛られるのも悪くないけどな、なんてふざけたことを口にしながら。

そこに浮かび上がった模様は一輪の花。

絶対の服従を強いられる隸属の契約印。


青年の中性的で美しい顔と妖しい雰囲気を、白く美しい花がより一層助長させていた。


「貴方を必要以上に縛り付けるなんてするわけないじゃない。…それとそろそろ大人しく私に隸属の契約を結ばせたのか教えてくれてもいいんじゃないかしら?」


そう、この男はある日突然やって来てはお父様と話をつけていた。

害を及ぼすことがないように、と契約を結んではいる。

私はなぜこの男が大人しく契約を結ばせたのか、理由があるらしいのだが一向に教えて貰えていなかった。

無理矢理契約によって聞き出すことも出来るのだが、それは本意ではなかった。

彼の口から聞きたい。直接教えて欲しい、という私のエゴでしかない理由なのだけれど。

 

「ま、いつかな。考えとく。」


いつも答えははぐらかされる。

今までこの手の質問にまともに答えて貰えたことがないため、彼から話してくれるのを待つしかないのだろう。

それでも聞いてしまうのはもしかしたら、という感情からか。


「あー、アイツの気配がする。じゃあまたな。」


彼の言うアイツとは十中八九彼---執事---の事だろう。

馬が合わないのか彼の気配がすると早々に立ち去ることが多かった。

別れを告げるやいなや、影に消えた。

一瞬にして姿を消すことなど"稀代の"とまで言われる彼にとって造作もないことなのだろう。


その数秒後執事が姿を現し「またアイツが夜に王女様のお部屋に無断で立ち入ったのか」と血管を浮かび上がらせるのもいつものことなのである。


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