3話 魂樹の森
「マジか」って作者の口癖なんですよね。
つい使ってしまう。
これでも見直して結構削ってます(マジか・・・)
手足が自由になった良介は、即座には動けなかった。
自由になったといっても、目の前にはトラ顔の男。
自分でも顔が引きつっているのがわかる。
「いつまで寝転がっているつもりだ?」
トラ顔の男はそういうと良介から離れ、腰を下ろす。
どういうつもりだろう、先ほど言われたように良介を食べる気はないようだが。
とりあえず、良介は起き上がろうとする。ダメだ腰抜けてる・・・。
仕方なくその場に座るように上体を起こした。
「腹が減っているのではないか?その肉の付き具合だ。腹が減るのも早いだろう」
そう言われてみると、かなりの空腹感があることを感じる。
この森に来てからというもの、緊張、恐怖、気絶と目まぐるしかったため
空腹を認識することがなかったのだ。
あ、喉も乾いている。
「仕方ない、飯を分けてやる」
そう言うと、トラ顔は木陰からカバンを引っ張り出す。
隠していたようだ。
「どうして急に友好的になったの?」
良介が尋ねると
「お前がジャカではないことが分かったからな」
ジャカとはなんだろうと首をかしげる良介。
「まぁ食いながら話をしてやる。おそらくお前は漂流者だな。
俺の弁当の半分だ。少ないが我慢しろ」
そういいながら、パンのようなものを渡してくれる。
「漂流者?」
そういいながら受け取りパンをかじる。
想定以上に硬い。齧れない。
「そのまま齧るな。歯が折れるぞ?」
といい水筒をカバンからだし、コップに入れて渡してくれた。
「中に浸してしばらく待て。水分を含んで膨らんだら柔らかくなる」
どうやらミルクの様だ。
言われた通りにパンを突っ込んでみる。
すぐには吸わないようだ。しばらく待つことにする。
「まずは俺の名だ。リハ=イゼンと言う。リハと呼べ。お前、名はあるか?」
トラ顔はリハと名乗った。
「僕の名前は田上良介という。良介でいい」
「リョスケか。変わった名だ」
「良介だよ!一体ここはどこなんだい?」
「ここは魂樹の森だ。我ら一族の墓でも有り、祭壇でもある」
そういうと、リハは浸していたパンを口に放り込む。
どうやらもう食べられるようだ。
「墓であり祭壇?」
聞くと同時に口に放り込む。
甘味が口に広がる。
ミルクに浸したっていうのに全然べちゃべちゃじゃない。
うん、なにこれ美味い。フレンチトーストみたい。
「そうだ。魂樹は死者の魂を取り込み、冥界へと昇華させると言われている」
ということはあの紫の木々が魂樹だったのか。
「色々な動物の顔が浮き出ていて怖かったから必死で逃げてきたんだよ」
「正解だ。長い時間近くにいると取り込まれることも有る」
「マジか」
走り抜けてよかった。
「まぁ長時間いなければ問題はない。俺も墓参りに来たわけだからな」
っと森の奥のほうをみつめながらリハは言う。
「で、ジャカっていうのじゃないと思った理由はなんだい?」
と聞いてみると、
「ジャカとはわかりやすく言うと亡者の類だ。他を呪ったり貶めたりする」
あぁ、邪科ってことかな。
「主に透けていたり、骨だったり人に化けたりするが細身だ。実際の肉体がないからな」
太っててよかったってことですね。
「それにお前の口の動きと、実際の会話がかみ合っていない。おそらく意思疎通ができる物を持っているんだろう?」
そこで思い出す。
「あ、そういえば拾ってきた服とか全部置いてきてしまった!」
「ん?何も持っていないのか?」
そういえば、ポケットにメダルが入っていることを思い出す。
「もしかしてコレのことかな?」
「おそらくそうだろう。地面に置いて離れてみろ」
言われた通り置いて離れてみる。
「〇△☆×□@・・・」
「おぉ、何言ってるかさっぱりわからない」
「Д△◆〇@△・・・」
メダルを指さしながら何か言っている。
会話できないと困るのでまたメダルを拾う。
「つまりそういうことだな」
リハは物珍しそうにメダルを見ている。
「貴重なものなのかな?」
恐る恐る聞いてみる。
「・・・おそらく国が丸ごと買える」
「マジかっ」
とんでもない物だった。
それ殺されて奪われるレベルじゃないだろうか。
「人里に行くなら覚悟をしたほうが良いかもな」
早速お先真っ暗宣言されてしまった。
「どちらにしろ森を抜けてもキョウガ峡谷を抜けねば人里にはたどり着けんよ」
「キョウガ峡谷?」
それぞれの名詞が覚えにくいなと思いつつ聞いてみる。
これでもわかりやすく翻訳されているんだろうな。
「まぁその話はまたあとで良いだろう。さて魂樹の森へ向かうぞ」
「えっ、またあそこに行かなきゃいけないの?」
正直戻りたくない。
「俺は魂樹の森に用があってきたんだ。墓参りと言ったぞ。それに良介も荷物が無いと困るだろう?」
選択肢はないようだ。
戻っても食料も武器もないから気乗りはしないが。
リハはカバンをゴソゴソしている
「ほら、予備を貸してやるから」
と投げてくる。これは豹のマスク?
「それを被れ。鎮魂の作用があるから魂樹から狙われなくなる」
予備ってことは・・・
「トラの顔って自前じゃないのか!」
「何言ってるんだ当たり前だろう。俺は人だぜ?」
騙された!
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魂樹の森に二人で入る。
随分走ったつもりだったが、目と鼻の先だったようだ。
すぐに紫の樹木が視界にはいる。
しかし、樹木に顔は浮かび出ていない。
「顔が消えてる」
「生者が近くにいると、浮き出てくる。この森に生きているものは基本いない。居たら取り込まれてしまうからな」
ほんとに逃げてきてよかった。でもまた入るんですよね?中に。
「心配するな。そのマスクがあれば取り込まれる心配はない」
良介はビクビクしながら歩く。
森に入り少し歩くと荷物が見えてきた。
全然走ってなかったんだな。
「見えてきたよ。荷物も見えてきた」
短時間だったがずっと持っていたものだし、取り戻せてよかったかな。
「良介・・・」
「どうしたんだリハ?」
「その服はヤバイぞ」
ヤバイって何がっ?
「その服はメダルよりも強い力を感じる。アーティファクトの類か?」
えっと、拾い物です。とは言いづらい。
持ってきたのはまずかったか?
「これもかい?」
良介は鞘杖を見せる。
「いや、それからは何も感じない。まぁ今はいいさ。人里降りる前にどうするか考えるんだな」
正直持ち歩くのが怖くなってきた。
「さて、俺の墓参りはもうすぐそこだ」
あ、待って置いてかないで。
良介は急いで荷物を脇に抱え追いかける。
「そういえば漂流者について聞いてなかった。漂流者ってなに?」
追いかけながら声をかける。
「さっきも言ったが、意思疎通アイテムは貴重だ。
過去にミシュリーゲンとは違う世界から来た人物が持っていた。
その者は後に漂流者と呼ばれるようになった。」
「ミシュリーゲン?」
「この世界の名だ」
なるほど、<地球>みたいな物かな。
つまり、意思疎通アイテムというのはこの異世界にはないのか。
というか地球にもないぞ?いわゆる翻訳機だよな?
「貴重どころじゃないな」
これはこの世界で2個目の不思議アイテムってことだよな。
「着いた。ここだ」
そこには周りに比べて、細く背丈も低い紫・・・魂樹が生えていた。
「さ、帰るぞ」
え?もう?
「今来たばかりじゃないか!」
「うん?来たから帰るんじゃないか?」
この世界の墓参りは来るだけなのか?
「手を合わせたり、祈ったりはしないのか?」
するとリハは
「ただの自己満足さ。祈っても、何も変わりはしない」
納得がいかない。が、この世界ではそういうものなのだろう。
郷に入っては郷に従えだ。
「そういう・・・ものなのか?」
「そういうものさ」
二人は来た道を戻る。
え、これから僕どうしよう・・・
「で、良介はこれからどうする?行く当てもないんだろう?」
「まさしくその通りです」
リハはしばらく思案した後
「ウチにしばらく来るかい?どうせ峡谷抜けるためには力がいるし、人里降りるなら言葉も覚える必要があるだろう?」
「え?いいのか?」
願ったり叶ったりだが、いかんせんお世話になりっぱなしなのも気が引ける。
「拾ったもんは責任持たなきゃな。ということでウチ帰るぞ!」
どうやら良介は拾われていたらしい。
「あ、家事や狩りとかできることは手伝ってもらうからな」
狩りですか。僕、大丈夫かな。
元の世界に戻る前に、この世界で生きていけるか心配だ。
不安を抱えつつ、森の中を歩く。
「不安そうな顔するなって。俺がみっちり仕込でやるよっ。改めてよろしくな!良介」
「こちらこそ、何卒よろしくお願いします」
低姿勢にお辞儀をする良介。
あぁ、なんでこんなことになってしまったのか。
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「そういえば、家って遠いの?」
歩き始めて数十分くらいだろうか。
どのくらい歩くかわからない状況では精神的にきつい。
そう思いリハに尋ねると、
「いや、すぐそこだ。森の中」
森の中で生活ってコテージみたいなものか?
もしくは、木の洞なんかに住んでいるんだろうか。
不安が倍増する。
「ほら、もう見えてきたぞ」
前方を見るが木々しか見えない。
やっぱり洞なのか?
「着いた。我が家よ、ただいま!」
木々しか見えない。え?どこが入口ですか?
「どこに家が・・・?」
良介には木々しか見えていない。
「上だよ上」
ふと見上げると、木々に掛かった橋のようにコテージのような建物が見えた。
思ったよりしっかりした作りだ。
しかしなぜ木の上に?
「地面に作ったら日当たり悪いだろ?」
ごもっともです。
梯子をよじ登り、コテージに入る。
「お邪魔しま~す」
「なんの邪魔するんだい?」
そういうわけじゃないんだが、と説明する。
「今日から良介の家でもあるんだ。気にするこたぁないよ。さて、まずは食事にしよう」
さっき食べたばかりだが、物足りなかったため良介は喜んだ。
「ほれ、これと同じ実が周辺に落ちているから、200個ばかし探して拾って来てくれ」
200だってぇ!
唖然としていると、リハが説明してくれる。
「この実は砕いて粉末状にして捏ね焼き上げると、お弁当と似たものが出来上がる」
つまりさっきのパンもどきの原料の様だ。
「頑張って拾ってきます」
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食事の後片付けも終わらせ、なんだかこじんまりとした部屋に来た。
お風呂場くらいのサイズの部屋かな。
「確かまだいくつかあったはずなんだよなー」
となにやらゴソゴソ探している。
グルっと見渡してみるが、物が乱雑に置かれている。
倉庫だろうか。
「お、あったあった」
と埃をふーっと息で払いながら持ってくる。
どうやら占い師が使うような丸い水晶の様だ。
「ほれ」
といって放り投げてくる。
慌てて両手でキャッチする。
「落としたらどうするんだよ!」
「落としたくらいじゃ割れないさ。どれ見せてみな」
割れないって・・・思いっきり割れてるぞ
「割れてるじゃないか!」
手に持った水晶は見事に真っ二つに割れていた。
両手にそれぞれ持って割れた面を見せる。
割れたというより、これは切れたのか?
凹凸なくきれいに真っ二つだ。
「これは心越の晶石ってやつで、特殊な石を使った加護増幅の石さ」
「増幅したらどうなるんだ?」
そもそも何が増幅されるんだ。
「わかりやすく言うと、両手で持つことにより体に流れている最も強い加護を増幅させて晶石に表現させる」
「加護?それは誰でも持っているものなのかい?」
リハに問う。僕は地球の日本で生まれ、育った。この世界に来てまだ間もない。
この世界で生まれたわけじゃない良介に、加護が宿っているとはどういうことだろう。
地球にいたころそんな加護なかったよ?多分。
「誰でも持ってるもんだぜ?」
加護なんてもらった記憶も無い。
いや、あの不思議な世界で鏡に触れたときになんか言われてたな。
でも加護があらんことを・・・だからくれたわけじゃないよね?
しかし、誰でも持っているというのであれば持ってないことのほうが不自然なのか。
と良介はとりあえず納得することにした。
「ところでこれは結局のところ?」
と真っ二つの晶石を突き出す。
「良介は切れるヤツってことだろうね」
キレてないっす。
「いや、切れるってどういう意味さ。」
「詳しい事は学者先生にでも聞いてみてくれ。多分切る事に加護がかかるんじゃないか?」
「切れるだけってちょっと微妙。リハが持つとどうなるんだ?」
「俺も砕けるだけだぜ?圧縮の加護があるらしい。加減が難しいんだよな。力入れすぎると剣ごと折れちまう。ほれ」
といってもう一個の晶石を両手で掴んで見せてくれた。
粉々?サラサラーって粉末になって落ちていきますが。
どんだけよ。
「じゃぁ良介はこれから剣を使ってがんばろー」
「まって、引きずらないでー」
もうちょっとカッコイイ加護がよかったなーなんて考えつつ
首根っこ引っ張られて良介は連れていかれる。
不安と割れた晶石を抱えながら。
場面ごとの情景描写は現在は控えめにしています。
おかげで書いては消し、文字数伸びないーとなってます。
皆さんの思い描く魂樹の森の密集度はどのくらいでしょうか?ちょっと気になります。