活動開始
世の中には予想外という言葉があるけど、人生を送る上でその予想外は大なり小なり日常的にあるものだと思う。
美月さんが設立した制作研究部へお誘いを受けてから、四日目の放課後。
俺は文化部棟の使われていなかった一室で、大きな予想外を前に戸惑っていた。いや、正確に言うと戸惑っていたと言うよりは、どうしてこんな事になってるんだろうか――という思いの方が強かった。
なぜそんな事を思っているかと言うと、この一室には俺の他に茜、まひろ、るーちゃん、愛紗、妹の杏子が居て、ついでに渡なんかも居たりするからだ。
そして俺がこうして文化部棟の一室に居る理由だが、それは先日、美月さんが設立した制作研究部へのお誘いを受け入れて入部したからに他ならない。
「……なあ、杏子はともかくとして、何で君達はここに居るんだ?」
八畳ほどの広さの一室に集まり、パイプ椅子に座っている面々に対し、俺はそんな言葉を口にした。
「何でって、そんなの制作研究部に入部したからに決まってるでしょ? 変な事を聞かないでよね、龍ちゃん」
さも当然と言わんばかりに、しかも可哀相な子を見る様な表情でそんな事を言う茜。いつも通りと言えばいつも通りの茜の言動。それにこめかみをひくつかせながらも、俺はその言葉に対して質問を続ける。
「いや、俺が聞いてるのはそういう事じゃなくて、茜とまひろは所属してる部活があるし、るーちゃんと愛紗は家事とかで忙しかったりするだろ? なのに何でこの部活に入ったのかって事を聞いてるんだよ」
「そんなの簡単だよ。部活は掛け持ちできるし、それに龍ちゃんが制作研究部に入るって美月ちゃんに聞いたからね」
「は? 部活の掛け持ちができるからはともかくとして、何で俺が制作研究部に入る事が茜が入部する理由になるんだよ?」
「そ、それは……だ、だって龍ちゃんが美月ちゃんに迷惑をかけるかもしれないでしょ!? だから監視の意味も込めて入部したのよ!」
「お前は俺の保護者かよっ!」
――たくっ……誕生日が俺より一日早いからって、どんだけお姉さん風を吹かせてんだよ。
「で? まひろはどうしてこの部に入ったんだ?」
「私は美月さんから『ゲームの背景を描いてもらいたいです』って頼まれて、それなら美術部との掛け持ちでも支障はないかなと思ったから」
「なるほど。納得した」
にこやかな笑顔を見せながら、しっかりと納得できる理由を述べたまひろ。どこかのお姉さん風を吹かせてる幼馴染にも見習ってほしいもんだ。
「ちょ、ちょっと龍ちゃん! 私の時と態度が違い過ぎない!? 差別よ差別!」
「心配すんな、気のせいだから」
茜とまひろの理由を聞き比べれば、俺の反応がこんな風になるのは至極当然の事だ。
「るーちゃんと愛紗は部活に入って大丈夫なの?」
「わ、私は大丈夫ですよ。由梨にも部活に入るって話をしたら、『頑張ってね、お姉ちゃん。家の事は私もちゃんと手伝うから』って言ってくれましたし」
「そっか、そうなんだ。それなら大丈夫そうだな。で、るーちゃんはどうなの?」
「私も特に問題は無いよ? 家の事は部活を始めても支障が出る事はないと思うから」
「そうなんだ。それじゃあ、大丈夫そうだね」
それぞれの理由を聞いてとりあえず納得した俺は、頭を何度か頷かせた。
「それにしても、美月さんどうしたんだろうな? みんなを待たせたま――」
「ちょーっと待ったーー!」
室内にあるパイプ椅子にそれぞれ腰を下ろし、そんな話をしてからまだ来てない美月さんの話を始めようかと思っていると、突然それをぶった切る様にして渡が声を上げた。
「あれ? 渡居たの?」
「ひどっ!!」
「何でお前がここに居るんだ? ここはお前の家じゃないぞ?」
「相変らず辛辣なやっちゃな……俺は如月さんが面白そうな部を設立したって聞いたから、見学に来ただけだよ」
「なーんだ、入部したわけじゃなかったんだな。それならいいや」
「どういう意味っ!?」
「あー、気にすんな気にすんな」
渡には悪いが、渡が入部するとせっかくのハーレム構成が台無しになる。
まあ、ハーレムとは言っても居る面々はよくつるんでる仲間だけだが、それでも見知らぬ女性達に囲まれているよりかは遥かにいい。俺も余計な緊張をしなくて済むし、何よりみんな贔屓目を抜きにしても可愛いから。だから最後の一年を過ごす部活動としては、申し分ない構成メンバーと言えるだろう。
「皆さん。お待たせしてすみません」
渡とのそんなやり取りが終わると、制作研究部の部長である美月さんが、少し息を切らせた状態で部室へとやって来た。今まで何をしていたのかは分からないけど、何か大事な用事があったんだろうという事は想像に難くない。だから、野暮な詮索はしないでおこう。
「美月さん。大丈夫?」
「はい、大丈夫です。それより皆さん、集まってもらったのに待たせてすみません」
「大丈夫だよ、美月ちゃん。みんなでお話をしながら待ってたから、特に時間も気にならなかったよ。ねっ、みんな?」
「うん。茜の言う通りだよ」
茜の言葉にみんながウンウンと頭を縦に頷かせる。すると美月さんはほっと安心した様な表情を浮かべてから『ありがとうございます』とお礼を言い、室内にあるホワイトボードの前へと移動をしてから俺達の方を向いた。
「それでは皆さん。本日が制作研究部の第一回目の活動になります。色々と大変な事はあると思いますが、部長として精一杯に頑張りますので、よろしくお願いします」
気合十分の美月さんの挨拶が終わると、誰ともなく拍手が起こった。
いったいどんな活動になるのか不安もあるけど、みんなで楽しい思い出を残せればいいなと切に思う。