王位継承者の決意
少年は見た、戦場に転をる無数の亡骸を。狂気を殺意を。
少年は嗅いだ、戦場に広をる死臭を血の匂いを焼け焦げた人の匂いを。
少年は聞いた、戦場に木霊する無数の叫びを怒号を雄叫びを嘆きを。
少年は絶句した。
何故、父を、母を、兄を、弟を、姉を、妹を、友を、恋人を、妻を、夫を、祖母を、祖父を、何故、国などの為に我々の大事なものを失わねばならぬのかと。
少年は目の前に広をる光景を目に焼き付けた、一生忘れてはならぬ教訓として、終わらせねばならぬものを続けてはならぬものを。
「こんな事が………何故………。」
過ぎ去った戦場を睨み、そう呟いた少年の名はノエル・ド・ノワール。魔族国家ノワールの王位継承者である。
「ノエル、これが人間の業だ。利益のために、国のために人が人を殺す。それが戦争だ。」
ノエルの隣に立つ髭を蓄えた剛毅な武人。
魔族国家ノワールの国王アイゼン・ド・ノワールである。
「二大国家、魔法帝国ヴァルサスと科学帝国ワインズ。この二大帝国でこの世界の大半を占めてるが、こんな事ばかり繰り返してる帝国を俺は良しとしない。ノエル、俺は近々この戦争を終わらせるために魔族国家ノワールの国王として両帝国に宣戦布告するつもりだ。」
アイゼンは戦場を見据えてノエルに語りかける。その眼差しは国王という立場からか他国の者といえど戦場で散った命たちを惜しむかのようなそんな哀愁に満ちていた。
「ノエル、俺はお前の武の才は並程度だと俺は思ってる。だけどなお前のは磨けば光ると思ってる。こっちも戦争仕掛けるためにゃあ、それなりやることがある、その間お前には魔法と知力と武力を磨くために学園に通ってもらいたい。」
ノエルの背を叩き父親としての顔を見せながらアイゼンはノエルに語りかける。
ノエルもそんな偉大な父の目を見て自らの決意を口にする。
「親父……俺は戦争ってのを深く考えて無かったよ。こんな光景が何百年と繰り返されて来てたなんて。俺も……この戦争を終わらせたい。」
「それでこそ俺の息子だ。さて、帰って学園に転入する準備を進めるぞ。魔術式、転移魔方陣【ゲート】展開」
そう言ってアイゼンは転移魔法を展開する。
「帰るぞノエル。」
魔方陣に入った父と子は血の匂い香る戦場を見つめながら帰路へつく。
「転移」
二人が去った後には無数の亡骸と血の匂いだけが残された。