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ふぁいっ?

前方の山から駆け下ってくる軍団。

牙が大きいことを除けば、大きさは普通のイノシシと変わらないだろう。

しかし、イノシシは十分危険な動物であるし、さらには魔獣である。


こちらに対する明らかな殺意のようなものを感じる。間違いなく、向こうはこちらをヤル気だろう。避けようとするだけでは、やられてしまう。


ーなんだ?


魔獣とはいえ、必要以上に人を襲ったりはしないものだ。

その能力のすべてを足に注ぎ込んでいるのか、下り坂という事も手伝い、やたら速度が速い。


私は早速ホウキをつかみ、空で待機すべく浮かび上がった。

もちろん援護をするつもりである。

空の上から。


しかし、足が五センチほど浮き上がったところで、背後からのばされた、赤い大きな布地から出てきた手にホウキの柄を掴まれてしまった。

私はバランスをくずして、地面にもんどりかえる。


「うわっ」


したたかに腰を打ち付け、私をひっくり返した犯人を涙目で睨みつける。


「なにすんのさ、赤ずきん」


「いやいや、ししょーダメだって」


悲しげに顔を歪めた。


「逃げるんなら、俺もつれてってくれないと! 」


「逃げるつもりなんてないし! 待機しようとしていただけだよ! 」


そもそも、二人もホウキにのせたら重量オーバーである。

魔力的な意味ではなくて、ホウキ自体が人二人の体重を支えるようにできていない。間違いなく、二つに折れるだろう。

なにせただのホウキなのだから。


「なら、いいけど…」


ーえ、いいの?


「でも、やっぱり置いて行かれそうだからイヤだ」


そう言うと、頬をふくらませながら、馬車の屋根にホウキをのせてしまった。


「あぁあああ…」


そうされると、私では手を届かない。

なんとかならないか、とぴょんぴょん跳ねてみるものの、無駄に体力を消費しただけだ。


「おふたりとも、何をしているのか。危険ですので馬車の中へ! 御者のおじさんも。さぁ」


後続の馬車の中にいた護衛が人を一カ所に集めているのだろう、はやく、と急かした。若いのに職務に忠実な行動だ。おじさんは、頼んだ、と言って馬車の中に入り込む。

しかし、ぱっと見総勢十五匹ほどの魔獣。

一人で敵う訳もない。前の馬車にこもっている宝のお守り五人はどうしたというのだろう、御者の方はとっくに避難してきているというのに。私は訝しむ。


王族の乗る可能性のある馬車にはすべて、ある程度以上の大きさの衝撃に耐えられるよう術式が加えられている。

あのイノシシたちに突撃されたり、崖から落とされたり、とある、程度を越えなければだいじょうぶだろう。


護衛の顔は引きつっている。

無理もない。


「しょうがない…」


「しょうがないなぁ、加勢してあげようよ師匠」


言おうとしていた台詞を先取りされる。


「…元からそのつもりだったんでしょ、アンタは」


今の彼は猟師としてのフル装備をしている。

赤い頭巾はそのままに、背には矢筒を背負い、手には弓を持っている。腰に掛けられた袋の中身は大方、手榴弾やら飛び道具だろう。

魔獣はしとめるのに、苦労するが金になるので、普通の動物よりも狩りの対象として人気が高いのだ。

赤ずきんも好んで仕留める。


「うふふ、こんだけあったら当分いい暮らしができるよ、ししょー」


動き回れる嬉しさもあってか、馬車の中とは大違いである。

鼻歌でも歌いだしそうだ。


「まったく。あんたってその細身の割には獰猛だよね。…援護します」


赤ずきんと護衛の二人に告げる。


「しかし…いや、お願いしよう」


そちらの方が勝算が高いと踏んだのだろう、当然だ。一人よりは三人の方が。


「まず、私が威嚇します。イノシシたちが一瞬ひるんだ隙をついて、切り込んでください。そして、彼らの足下にこれをばらまいたら、すぐに後ろに下がって」


つくった丸薬を一瓶ずつ、渡す。容れ物がなくて、とりあえず瓶に入れておいたのが幸いした。

口が大きく、ばらまくのにはうってつけだ。

護衛は戸惑いながらも受け取り、赤ずきんはおそらく何も考えずに手に取った。


ー師匠、今ならまだ逃げられるよ?


一瞬、赤ずきんが意図を持って目線をこちらに投げた。


ー…どっちでもいい。考えんのがめんどくさい


私の返答を受けて、赤ずきんはからからと笑い始めた。私はふいと顔を背ける。


「ししょー素直じゃないなぁ、俺ちゃんとがんばってくる! 」


「来ますぞ! 」


前にいた馬車は何頭かの衝突を受けたが、結界のようなものでも張っているのか、揺らがない。


ーなるほど。


ーこちらがまとまって行動しているのに?


思わず、鼻白んだ。

おそらく、魔力貯蔵の道具を使ったのだろう。

魔法具は普通に魔法を使うのとは違い、展開させるのに人数と時間がかかる。魔法を使える人間が中にいたのだろう。

だから、誰も外に出てこなかったのに違いない。


ーただいつまでその効力がもつか。


まさかその効力が長い時間をかけて張られた、こちらの馬車よりも強力にはなるまい。

案の定、その、車体が魔力同士の衝突で大きく歪む。

そして、破裂するようにして馬車が裂けた。

馬の悲鳴が聞こえる。


中にいた一人が転がり落ち、イノシシの牙に貫かれる。男が絶叫をあげる。


イノシシは大きく首をふり、男を引き剥がした。

生きているのだろうか、地面に倒れた男は身動きしない。


逃げようとした他の男たちも同じような状況のようだ。

なるほど、彼らは彼らで職務に忠実であろうとしたらしい。贈り物を守ろうとしたのだろう。

しかし、重すぎるその荷物は自由に逃げ回る余裕を与えない。


助けに行く暇はない。

残りのイノシシ10頭ほどこちらに向かってきているからだ。


護衛と赤ずきんが私と馬車を背にして、前に立ちふさがった。

私は足止めをすべく、大きく口をあけた。

思い切り、喉に魔力をこめる。


「うあああああああああああああああ!」


大声を出した。

固まりとなって、近付いてきていたイノシシたちはその声に籠められた魔力を感じて、たじろいだようだ。

動物たちが怯える私の声の有効活用だ。


動きの止まった瞬間、一瞬で二人が丸薬を振り撒き、一気に後退した。


私は前に突き出した片手をくいと招き、丸薬を爆発させる。


きゅうん、そのいかつい姿に似合わずイノシシたちが悲鳴をあげた。


二つの薬草を混ぜ合わせると、思わぬ効能をもたらすことがある。

以前利用した二つの場合、できるのは睡眠薬だ。


細かい粉末を吸い込み、イノシシたちがよろめく。


ー強力だろう、そうだろう


私は悪人のような極悪な笑みを浮かべた。

ここまでくれば、後は簡単だ。


赤ずきんと護衛が動きの弱った彼らを仕留めていけばいい。

赤ずきんが、親指を上げて見せたので、私と護衛もそれに返した。


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