出立
数日後。
宣言通りに赤ずきんはやってきた。
ちゃんと国王夫妻にも許可もらってきたよー、っていいながら。
もはや、私には止められない。
かくして、隣国に密偵をしに旅にでることになったわけである。
現在、朝8時。
鳩が運んできた白雪の伝言にはうちの前まで迎えを寄越すと書いてあった。
「こないねぇ、師匠」
そわそわしながら赤ずきんが言う。
「これは、もしかして今回の計画が中止になったという事なのでは」
すばらしい思い付きであり、また白雪ならありそうなことでもある、と私は頷く。
「わー、師匠、都合がいいー…でも、ちがうと思うよ」
ほら、と指差された先には土煙が立て込めている。
「何アレ」
風のような勢いとけたたましさでやってきた巨大な馬車は、
ーすちゃっ
キレイに私たちの前で停止した。
「わー、師匠。装飾過多で俺たち二人が乗るにはずいぶん大きいねぇ」
見上げながら、感心したように言う赤ずきん。
私もなんとも言えずに見上げていた。
「やぁ、二人とも」
御者をしているのは王族専任の彼である。
見た目はひょろ長いが、馬車を扱わせたら彼の右に出るものいないという。
「…もしかして、王さまか王妃様がいらっしゃるのでしょうか」
「なーに、いっているんだい」
笑い飛ばされてしまった。
そんなにおかしな事をいったつもりは私にない。
彼は馬車から降り、私の肩をばんばん叩く。
「王族の代行として、隣国の訪問をするんだろ?大変だと思うけど、がんばれよ」
いい笑顔である。
「え?師匠、そうなの?」
「そうらしいね。私も初耳だ」
さぁ、乗った乗った、という御者に詰め込まれ、馬車が発信する。
お互い皮袋ひとつしか持たないので重い荷物もない。気楽な旅になるはずだったのだが。
「ししょー、ししょー、俺王族の代わりなんてできるかなぁ?」
言葉の割に楽しそうである。楽しそうに高価なソファーを跳ねたりなんかしている。
「不安にならないの?」
その言葉に赤ずきんは目をぱちくりさせた。
「なんで?師匠がいるのに」
「他力本願だなぁ」
「まぁね」
しれっと返されてしまった。
なんとなく悔しい。
「そんな君には髭もじゃの呪いをプレゼントしよう」
「うわ、ごめん!ごめん!やめて」
真っ青になって後ずさったので、溜飲が下がる。
「に、しても。馬車でいくと一週間くらいはかかるな」
まだまだ旅は始まったばかりである。