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赤ずきんのタックルは重い

ー報酬と必要経費として一定額、口座に振り込んでおくよ


王に言われた言葉通り、次の日、私の口座には必要以上の経費と考えていた二倍の額の報酬が振り込まれていた。

それがまるで重い枷のように思えてしまって、思わずため息をついた。


田舎町にも銀行はある。そこで自分が貯金していた額より大いに上回る金が振り込まれたのを確認して、ふらふらと道を歩いていた。


「荷造り、しなきゃなぁ」


敢えて、声に出して呟いてみる。

重い気持ちが吹き飛ぶかと思ったが、そんなことはなく、ただ自分の耳につまらなそうな声が届いただけだった。


旅が嫌いなわけではない。

ただ今回は隠密のような行動をするわけであるし、もともといざ、旅に出ようという段階になると面倒くさくて仕方なくなる質なのだ。

それに、先日山から木の実を大量にもらい、肉を市場でどっさり購入したばかりでもある。

数日では食べきれないその量に、ついため息をついてしまっても仕方あるまい。


「うん、仕方ないよ。がんばれ、私」


自分に言い聞かせるしかないではないか。



自宅のテーブルに処分する必要のある食材を並べてみた。

荷造りするのが嫌なので、現実逃避のひとつである。


ー木の実は小人さんたちにあげるとして…この、ヤモリの頭袋詰めは、…どうしようか。


頭を悩ませる。

こうしてみると、けっこう切実な問題であった。

資源をムダにするのは魔女として、歓迎されない行為であるのだ。


ーいっそのこと、すべて燻製にしてしまおうか。


頭を悩ませていたら、ノックの音がした。


ーココン、コン、コン


「はーい、赤ずきんでしょ。鍵かけてないから、入っておいで」


声をドアに向かってかけると同時に、勢いよく開いて、真っ赤な物体が飛び込んできた。


「師匠! 」


そして、私の腰に腕をまきつける。


「私はあんたの師匠じゃないって…だー、もう、放せー」


無理やり引き離すが、離れようとしない。

ようやく、離れたときには私の息はきれていた。


「ししょー、よく分かるね。誰が来たのか」


対する、赤ずきんは息切れひとつしないで、嬉しそうに笑っている。


「まぁ、…あんたのくらいだったらね」


「さすが、ししょー!…何してんの?こんなに食材、いっぱい」


大抵機嫌のいいこの子は始終にこにこしている。

祖母に作ってもらったという真っ赤な頭巾を被っている姿は、高い身長ではあるが、容姿と相まって大変かわいらしい。


「旅にでることになったのよ」


並んでたつと、頭3つ分高い赤ずきんに説明する。

赤ずきんは眉をしかめて見せた。


「なんで?師匠がそんなことしなきゃいけないの?」


分かりやすくふくれてみせるが、私にどうしろと。


「しょうがないわ、王命ってことになっちゃっているみたいだし」


「やだよー、師匠と離れたくない! 師匠だって悲しいでしょ?離れるの」


軽い口調で言っているが、その目は悲しそうに見えなくもない。

なぜか私がまるで行きたいかのような発言をすることになった。


「え?…べつに。お金いっぱいもらえたし、すぐに、」


帰ってこられるし、そう言おうとしたところで、赤ずきんが叫んだ!


「じゃあ、おれもいく! いいでしょ?」


「なぜに」


「色々役にたってあげるよ? ね、おねがいー」


ーまったく、この男は。


なに考えているんだ、と怒ったフリをしながら、腰に手をあててふと、考えた。

手を合わせて拝む彼。

頭巾から出ている、お日様のような金髪をしている髪の毛を見ながら。


彼は私よりよっぽど家事が得意である。

細そうに見えてもけっこう力持ちで、薪割りなんかもできること。

いると、うるさいけどなんだかんだで私が楽しい。

うん、これはー


「ダメ」


「なんで?!」


ぽす、と赤ずきんの頭を叩く。


「おばあさんはどうするの?」


「あっ…」


と、それきり口ごもった。


「じゃあそういうことだから。良かったらここにある食材全部持っていってもいいわよ」


心なしの様子に声をかけるが、果たして聞こえているかどうか。

それきり、黙ってしまった彼を放置し、私は夕飯の準備を始めた。


ー全部あげちゃうのはなんかもったいないから、自分でできるだけ消費しよう


との浅ましい考えからである。

持っていっていい、と言ったからには彼は本当にすべて持っていくだろうから。


ニンジン、キャベツ、ブロッコリー、ベーコン。

具材を銅の鍋で煮込む。


初めて赤ずきんに料理しているのを見られたときには、以外と普通の食材使うんだね、と感心されたが、これは当然の事である。

食べられないものを入れてしまったら、食べられる人がいなくなってしまう。


ブイヨン入れて、蓋をする。


ースープはこれくらいでいいだろう。


一口味見をして、食べられない味でもないのを確認する。

木のヘラを水道水であらい、煮込んでいる間に次の料理に取りかかり始めた。


「赤ずきん、食べていく?」


「師匠、俺決めたよ」


木の椅子にずっと座り込んで考えていたのに、とうしたと言うのだろう。


「お?食べてく?」


「うん! ばぁちゃんは何か変わったことがないか、隣の小人たちに定期的に確認してもらう! 」


「…ほぇ?」


「よし、そうと決まれば、いそがなきゃ! じゃあね、師匠、俺いかなきゃ。あ、この食材、ばぁちゃん喜ぶからもらってく!」


両手に山ほどかかえ、走り去っていってしまった。

ーばたん! ちりん!ちりん!


と、勢いよく玄関のドアが開閉する音が聞こえた。

後に残されたのは、ポカンと突っ立っている私一人である。


ーあ、材料全部出しとくんじゃなかった。

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