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白雪姫here

目的の場所は四方が壁に囲まれた、窪みのようなそう広くはない空間だ。

広くはないが、さすが王宮、きれいに芝生が敷かれ、綺麗に整備されている。


そこで手を振っている人がいる。

青と黄のドレスのようなものを着ているのを見るとメイドでは、ないらしい。

目があまりよくないので、最初は誰だか分からなかったが近づくにつれて気付いた。


王妃本人である。


慌てて、周辺を見回し、誰も見ていない事にホッと息をついた。

優雅な振り方ではあるが、フレンドリーすぎるし、しかも相手は平民出身の私である。


ーなんでメイドもいないんだろう


気にしては無駄だと思いつつも、つい、そう考えてしまう。


しかし、これが彼女の日常茶飯事なのである。そして、それがバレると彼女付きのコワいメイドに怒られるのは私だ。おそらく、気の優しい王妃に、自分のせいで怒られている人がいる事を自覚させるためあろうが、こちらとしてはいい迷惑である。

なにも悪い事はしていないはずなのに、謝りたいような気持ちになってくるのだ。


メイド殿もいい加減あきらめた方が賢明なのかもしれない。

王妃のそれは改めようとしても、改まるようなモノではない。


「貴女がぁ、くるのをぉ、まってぇ、いたのぉよぉ〜、私のソルシエール」


ーうわあぁぁぁぁぁぁぁ。


叫びだしたい衝動に駆られた。

甘い、かわいらしい声だが、どうか歌うのはやめてもらいたい。

そう、思ってしまった私がおかしいのだろうか。

右手をまるで歌手のように、私の方に差し出す。

公式の場でこんな奇妙な言動はしていないらしいのが、幸いである。


ーすとん

地面に足がつくと。

脇にホウキを抱え、上半身を折り曲げて挨拶する。


「…おはようございます、王妃様。ご機嫌麗しいようで」


「ええ、いやぁねぇ、しらゆき〜でいいっていったじゃなぁいぃ?」


ーいやいやいや!


王妃にとってよくても、そんなことを私がしたら不敬罪で捕まってしまう。

しかも、王妃の場合、敬称をつけて呼べ、と言っているのではなくて、呼び捨てで言えと言っている可能性が高い。

私にはどちらの意味で言っているのかなんて質問、怖くてできない。

質問したら、王妃からそう呼べと強制されてしまうだろう。


「では、白雪さまとおよびします」


「ううん、仕方ないから、それで許してあげる」


こまったわねぇ、とでも言いたげに呟くが、そう言いたいのはこちらである。

表情が固まっていないか、心底不安である。


気付いたら、周りの芝生を小動物が囲んでいる。歌につられて来たのだろう。

この王宮内にリスはともかく、ウサギまでいるとは驚きだ。

四方を壁でとりかこんでいるのに、よく来れるものである。


小鳥がぴーちくぱーちく、歌う。

動物たちはさりげなく、私を避けて白雪姫に寄って行く。

今は姫ではないから、白雪王妃と呼んだ方がただしいのだろうか。


「あらあら、みなさん。おはよう。今日もいい天気ね」


ぺたんと、地面に座った白雪が一匹、一匹の額にキスをしていく。

その姿は聖母の姿そのままだ。

かわいらしいその姿に私も思わず、頬を緩めた。


ーっは、いけない、いけない


用事があるのも忘れかけて、見とれてしまっていた。


「白雪様、今日はどのような御用でしょうか?」


「あら、忘れていたわ。…あら、あらあら。みなさん、どこに行くのかしら?」


私の声に反応して、ぱらぱらっと駆け去って行く動物たち。

たしかに、私の声は白雪のように柔らかくはないし、常に地声に近い声で話しているから低めだけど。


「あら、そういえば動物たちってあなたの声が苦手なのだったかしら? 」


「どうも、そうらしいです」


声に籠っている魔力を感じ取ってしまうのだろう。

能力を保有している『魔獣』と呼ばれる動物はだいじょうぶだが、それ以外の動物は魔女の声に敏感で、おびえて逃げて行ってしまう。


ネズミが一匹、壁に開いた穴に吸い込まれて消えて行った。

それを見送ってから、白雪は立ち上がった。


「さぁ、女同士語り合いましょう?あら、あなたのその籠には何が入っているのかしら?」


私が抱えているバスケットに入っているみっつのリンゴを指差した。

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