≪一章≫幕間 ~幻想は闇より出でて~
月夜の灯りに照らされた深淵の夜。
生命の息吹も感じられぬ永久の闇。
ざわめく木々さえ死者の苦悶に揺れる。
先の見えぬ暗黒の中を、ふたりの子供が走っている。
ひとりは、全身を白い衣服で統一した、男の子。
ひとりは、同じく白い衣装で装飾した、女の子。
ふたりは何かから逃げるように、先の見通せない漆黒の森の中をひたすら駆けていく。
時に、鬱蒼と伸びた草に肌を裂かれても……、
時に、地面に這った根に足を取られても……、
彼らの繋いだ手は強く結ばれたまま……、
果てを目指すようにひたすらに、駆けていく。
あまりにも現実感のない映像だった。
しかし、白昼夢と呼ぶには、あまりにも生々しすぎた。
冬弥がその景色に覚えた感情は、魂が凍るほどの“恐怖”だ。
まるで生まれる以前から植えつけられた本能のように、悲しく、寂しいはずのこのユメを、恐れながら見つめることしかできない。
何故ならこれは、自分の記憶を再生していると、現実なのだと、シッテイルカラ。
(でも、こんなの……俺は知らない)
たしかに冬弥は七年前よりも以前の記憶の一切を失っている。
今の石動冬弥が覚えているのは、天枷教会に保護されたあとのことばかりだ。
だからこのユメが失った記憶なのだと言われれば、信じてしまうかもしれない。
(でもこんな、底に堕ちるしかないような昏い記憶なんて、俺は知らない!)
――マダ、目ヲ背ケルカ。“深淵ノ器”ヨ――
次回は11/15
23:00投稿予定です。