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雪華の月に踊る獣は  作者: チェーン荘
44/59

≪五章≫災いの足音は軽やかに ②

 ――――カランッ


「「!」」


 不意に教会敷地内に響きわたった鈴の音が沈黙を破った。


 それは天枷の教会に不許可で魔術師が踏み入った、敵の侵入を意味する警報。


 たがいに見合う余裕もない。


 警報は一つしか鳴っていない。


 敵は正面から堂々と乗りこんできた。


「兄さん……」


「お前はここにいろ」


 根が優しすぎる夏流は戦闘には向いていない。


 当然、戦場を経験したことなど一度もない。


 いくら鬼の血を引いていようとも、そんな未熟な妹を戦地に出すわけにはいかない。


「いやよ。私も行くわ」


 だが秋夜の意に反して、夏流は強い決意を瞳に秘め、確固として断言する。


「戦いたくないなんて、言っていられないもの」


「……気をつけろよ」


 二人はすぐさま屋外へ出た。


 乳白色のレンガで舗装された敷地の路面を割るいきおいで駆ける。


 そうして礼拝堂の目前、闇の向こうから現れた少年――最凶の魔術師・カエデと対峙する。


「『転生体』はまだ戻っていないのか?」


 声変わり前の瑞々しい、しかし禍々しく重たい声音が二人を打つ。


 秋夜の脳裏に疑念が浮かぶ。


(なぜカエデがここにいる?)


 続いたのは最悪の想定だ。


(冬弥と司はカエデの手中に堕ちたのか?)


 ドクンッと心臓が跳ねる。


 救えなかったという無力感。


 何もかもが遅かったという後悔。


 秋夜の心をカエデの存在が締めつける。


 だが、語るまでもなく導きだされた結論を、カエデは嘲笑とともに否定した。


「ククッ、そう悪く考えるな。まだ終わってはいない。

 奴らが生きているかも解らぬままに探す手間はいらぬ。死んでいればそれまで。

 生きていれば、奴らのほうからここに戻ってくるだろう。ならば探す必要もあるまい」


 クックッ、と喉で嗤う。


 (かん)(さわ)る嗤い声の主にいまにも飛びかかりそうな夏流を秋夜は制して、問う。


「そこまでわかっていてなぜ待たない? わざと死地に乗りこんでくるのは明らかに愚策だろう」


「なに、暇潰しだ。貴様はオレにとって障害になりえる数少ない敵。『転生体』が戻るまでに貴様を相手に時間を潰しに来ただけだ。

 遅かれ早かれいずれ殺し合うのなら、早いにこしたことはないだろう? クククッ」


「アンタみたいな魔術師がいるからっ!」


 肩を怒らせる夏流を、カエデは初めて認識した。


 まるで雑草を区別するような興味のなさだった。


「ふん、貴様が天枷秋夜の妹か……同じ鬼としては、ずいぶんと脆弱だな」


「!」


「抑えろ。安い挑発に乗るな」


「クククッ、貴様も苦労しているな。まあ、雑魚が一匹増えたくらいどうということもない。

 まとめて相手をしてやろう」


 語尾が近づくほど不穏な空気が広がっていくような錯覚。


 だがそれは錯覚のままでは終わらない。


「来たれ」


 不吉を象徴する木の葉が無数、カエデから発生し、枚数分の弾丸へと変質していく。


 カエデが右腕を前に伸ばし、


呪弾(バルト)


次回は12/17

22:00投稿予定です。

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