≪三章≫隠された真実 ②
部屋に残された冬弥と美月のあいだに気まずい沈黙がおりる。
何があったのか覚えていない冬弥はどう切り出せばいいのかわからず、責任を感じている美月も何から話そうか迷っていた。
「……悪いな、心配かけて」
沈黙を破ったのは冬弥だった。
「ま、まったくよ! 急に学校休むし。夏流さんに聞いたら事故だって言うし。あたしがどれだけっ」
うつむいていた顔をあげて普段どおりに軽口を叩こうとしたが、原因が自分だと勘違いしている美月はすぐに消沈する。
子供のころからの腐れ縁だが、こんな美月を見たのは初めてだった。
「あたしがどれだけ……不安だったか……」
「……ごめん」
「謝るな、馬鹿」
また沈黙が支配した。
神妙な空気に耐えかねた冬弥は鈍い頭をフル回転して話題を探す。
「……昨日は、何の用だったんだ? 電話じゃ話せないことだろ」
「え?」
「好きなやつでもできたか?」
「どうすればそうなんの!?」
「だってそんくらいしか思い浮かばないし。おまえ先週も告られてたろ」
「なんで知ってっ、ち、違う! そうじゃなくて……あ、う……」
急にもじもじと指を絡ませて、言いにくそうに口を閉ざす。
幼馴染の乙女らしい仕草に、軽く心臓が跳ねた。
「じゃあなんだよ?」
「えっ、と……その……く、クリスマス……」
「クリスマス?」
「う、うん……クリスマスの予定、あるのかな、って」
萎縮したまま、上目遣いで冬弥の様子をうかがう。
あまりの緊張で美月は心臓が破裂しそうだったが、当の冬弥は平常運行だった。
「まぁ、あるけど」
「え」
それを聞いて美月の肩が落ちた。
萎んだと表現してもいい。
下を向いているため表情こそ分からないが、傍目からは何とも言いにくい悲壮感が漂っている。
「毎年ここでパーティーしてるだろ。今年も一緒だ」
「あ、あー、そういうこと」
あらぬ想像をしていた美月の目が泳ぐ。
色恋沙汰でなかったことを喜べばいいのか、自分が女としてカウントされていないことを悲しめばいいのか、おおいに悩む。
「どうした?」
「な、なんでもない!」
こほんっ、とわざとらしい咳払いをして、胸のつっかえを吐きだす。
(この鈍ちんは本気でわかってないんだよね)
わざわざ呼び出してまで聖夜の予定を尋ねられればいくら鈍感な男でも気づくだろうに、微妙どころか大雑把な乙女心さえ冬弥には伝わっていないらしい。
(ちょっとくらい意識してくれたっていいのに)
先日の告白も美月はお断りしている。
もちろんクリスマスに誘ったのは冬弥だけだ。
長い付き合いで気心知れた幼馴染の立場は居心地がいいが、いつまでたっても友達以上恋人未満なのもどうかと思う。
とはいえ現状はひとり相撲。
これくらいで落ち込んでいたら、冬弥の相手は務まらない……のだが。
「なに怒ってるんだよ」
「べつに、怒ってないし」
明らかに不機嫌な美月の心情を、冬弥はやっぱり気づいてやれない。
これまたテンプレートな返しをするだけだ。
「悪かったよ。こっちおいで」
「……仕方ないな」
美月も目の前の男子が人並みよりも気が利かないとわかっているからこそ、反発はしない。
ベッドのすみに腰かけると、ぽんぽんっと優しく髪を撫でられた。
「買い物付き合ってやるから、許せ」
「お昼くらい奢ってよね」
「わかったよ」
約束してから寂しくなった懐事情を思い出した冬弥はすぐに訂正しようとして、やめた。
女のわがままに付き合うのも男の甲斐性だと腹をくくる。
「…………心配、したんだから」
「……サンキュ」
「罰だから、もうちょっと頭撫でて」
「へいへい」
美月の頭に手をおいて、しばらく無言で髪を梳く。
はたから見れば充分にバカップルなのだが、本人たちに自覚がないので救いようがない。
「あの~、お邪魔だったかな」
「「!?」」
不意にかかった声に二人そろって驚く。
甘酸っぱい空気の中に割ってはいっていいものかと悩んでいた夏流が、遠慮がちにドアの隙間から顔を覗かせていた。
次回は11/23
22:00投稿予定です。




