【幕間1】或る正夢の物語
遠い、遠い、夢を見ていた。
私は獅子になって、草原を走っていた。
見覚えのある、ハプスブルクの庭を。
振り返ると、見慣れた鷹の城が見えた。
あれこそ代々の揺籃。私たちはそこで生まれ、そこで死ぬ。
息をするかのように、心臓が脈打つかのように、それが当たり前だ。
きっと、それはこれからも
そう思いかけた途端、ぴゅー、と風が吹いた。遥か遠くの地から、東から風が吹いた。
ドナウ川のずっと向こうの地から、川伝いに風が吹いた。
視界が暗くなった。
私はどこかの城にいた。
暗い、暗い、城の中に。
じめじめとした、見たこともない世界。
しばらく彷徨って、窓から外に飛び出した。
私は鷲だ。どこまでも飛べる鷲だ。
眼下に広がる世界は、すべて私のもの。
いつか、いつか私のものになる、約束された世界。
東から西の世界まで、私が支配するだろう。
限りない繁栄と、富を謳歌するだろう。
これは夢じゃ、ない。
「陛下! ルドルフ陛下! 起きてください!」
ああ、臣下の声がする。大事な時を前にして、一眠りが深い眠りになってしまったらしい。
「ああ……すまんな。アルブレヒトが到着したか」
そうですよ、もう始まるのに陛下ったら何してるんですか、という臣下の声に私は微笑む。
「オーストリア公を、私がアルブレヒトに授ける……いよいよだ」
身支度をしながら、私は先の夢のことをうっすら考えていた。
もう既に少しうろ覚えになってしまったが。
「あれは正夢だ」
そう、呟いた。