第二章 決別 1
リンの正体は?
この話はそこからスタートします。
第二章 決別
花が開くその瞬間、植物は今までため込んでいたエネルギーを、ここぞとばかりに最大限に発揮する。
鮮やかな色と大きなその花弁を、甘い香りと共にその周囲にまき散らす。
その香りも風に乗り遠くの虫たちに知らせ、生存競争の勝ち残らんと精一杯の力を注ぐのだ。
それは、何も植物に限ったことではない。
生き残るためなら、人は知識と力を総動員して、何が何でも「生」に執着するのだ。
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リンとは、何者か?
気づいた方もいるだろう。
心当たり? いや、確信をもってその通り。
リンの正体は、友延利沙。
その人だ。
では、なぜIIMCに送られたはずの友延利沙が、リンと呼ばれ、花屋で働いているのか。
それを紐解くには、利沙がリンと呼ばれる前、そこに戻るしかない。
それはまだ、利沙が日本にいる頃に戻る必要がある。
利沙が存在していたのは、もう一年以上も前に遡らなければならない。
日本の公安警察に逮捕され、身柄を拘束された利沙は、公安の捜査員から取り調べを毎日受けていた。
休憩はあるとはいえ、朝から晩まで、毎日繰り返される。
しかも、最終的には身柄をIIMCに引き渡されることが決まっているので、
利沙にとって、先行きは暗かった。
そんな中にあって、利沙は、今後迷惑をかけてしまうであろう人達に、連絡を取った。
ソフトの開発の件。奨学金の件。全てを任せ、終わった時には、利沙も安堵した。
利沙は、どうにか引き渡しを止めてもらえるように交渉してみたが、
全く効果なく、公安に逮捕されて一か月がたった頃。
捕まった時には蕾だったさくらも、今では葉桜になっている頃。
IIMCから、捜査官が来日してきた。
ここから利沙には、大きな、本当に大きな転換点が訪れる。
公安の取調室で待たされていた利沙の前に、IIMCの捜査官が通されてきた。
日本人より、体格がよく、威圧感は利沙が考えていたより、すごかった。
利沙は、虚勢を張っているように心がけてはいたが、
それはいつまでも続くものではなく、すぐに挫けそうになった。
助けを求めようと、一緒にいた、公安の捜査員に視線を向けたが、
IIMCの捜査官は、こう告げた。
「これからは、我々の領域だ。今までご苦労だった。
ここからは日本側の捜査員は必要ない。すぐにここから出て行ってもらおう。
大丈夫、私達は日本語は話せる。不自由はない」
そう言って、公安の捜査員は今後一切、利沙との関わりを絶たれた。
利沙は、これから一人で戦わなくてはならなくなった。
それをすぐに身をもって感じざるを得なかった。
「私達は、国際情報管理センターから来た。
私は、カーライル捜査官。こっちはクレイ捜査官。
二人とも日本語は分かる。気にせずなんでも話してくれたらいい」
利沙は、緊張というより、慎重になっていた。
「君が、スピース。ハッカーのスピースだね? 間違いない?」
利沙は、小さく頷いてから、
「はい」
そう答えるのが、精一杯だった。
「名前は? コードネームではなく、本当の名前」
「……友延利沙」
小さい声で言ったため、聞き取れず、二人の捜査官は、
「もう一度教えてくれるかな? 名前」
「友延利沙です」
「とものぶ、りさ。か」
名前を確認して、こう聞いて来た
「では、リサと呼ばせてもらっていいか?」
「はい」
利沙が遠慮気味に答えると、
「リサは、スピースがこれからどうなるのかは、知ってるのか?
なぜ、我々がここにいるのか」
「……少しくらいなら」
「そうか? どんな情報を知っている? すべて話してもらおうか。我々も説明したいから」
疑うように聞いてきたが、
利沙は、
「IIMCへの送致が義務付けられ、期間は決まってない。
スピースに侵入された国には、スピースに対して、侵入された順に交代で尋問する権利が与えられる。
……それくらいです」
「そうか、とりあえず、公開されているものだけは知っている。
……そういう振りをするわけか?」
カーライルのその言葉に、
利沙は、怖い思いが自分の中に湧き上がってくるのを感じた。
これからは、リンが誕生したその時をふりかえりながら、進めていく予定です。内容の割にのんびりした感じですが、よろしくお願いします。