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第一章  3

                2


 ある日、リンが帰った後、リンが財布を忘れているのにジェシカが気づいた。


「あ~あ。リンったら財布忘れてる。大丈夫かな?」


「明日も学校あるんだろう? まずいんじゃないか? でも、途中で気づいて取りに来るかも」

 トニーがそれに応じ、

「そうだよね。それでも取りに来なかったら、私が後で届けるわ」


「そうだな、その方がいいだろうな。でも、どこに住んでるか知ってるのか?」

「いいえ、……そういえば知らないわね。マスターに聞いてみるわ」


 ジェシカは、仕事が終わってから、リンが忘れていった財布を届けに、

 マスターから聞いた住所のあるアパートまで行った。


 リンの住むアパートは、山の手の少し奥まった所にあるが、

 閑静な感じで落ち着いた雰囲気があった。


 目的のアパートは、すぐに分かった。


「ここなら、リンも迷ったりしないわね。分かりやすいもの」


 アパートは、三階建てだった。

 セキュリティーなんてものとは縁遠いが、

 ここまでわざわざ来るような人は、住んでる人くらいで、

 見慣れない人が歩いていれば目に付くだろう。


 だから、ジェシカもここには初めて来たからか、さっきから視線をいくつか感じていた。

 いやらしい目ではないが、余り長くは居たくなかった。


「さっさと済ませて帰ろう」

 そう言ってしまうくらいだった。


 アパートの階段を上がって、二階の中央辺りの部屋でドアの前に立った。

 呼び鈴を押してみたが応答がなく、何度か押してみたが全く出てくる気配がなかった。


 そこに隣の部屋の住人が帰ってきたので、ジェシカは意を決して聞いてみた。


「すみません。ここの人訪ねてきたんですが、帰ってるかどうか知りませんか?」


 すると、隣の住人からは、思いがけない話を耳にした。


「ここ、誰も住んでないよ。

 先月まで若い男が住んでたけど、出てったしそれからは誰も住んでないよ」


「男の人、ですか? 女の子じゃなくて?」


「おんな? 違うよ。君どこかと間違ってない? 

 ここには俺二年住んでるけど、女なんて入ってきたことないよ」


 そう言ってその男性は、自分の部屋に入って行った。


「もう一回聞いてみたら? 電話するとか」

 そういったアドバイスまでしてくれた。


 そこで、ジェシカはマスターに確認した。

 そして、今いる住所が間違いなく届けられている場所と同じだと確認した。


 ジェシカは、その日はリンの財布を持って帰ることにした。

 明日、返すつもりで。


 マスターには、リンに会えなかった、財布は明日渡すと伝えて、ジェシカは家に帰った。


 家に帰ったジェシカは、隣人が言っていた言葉が、気になって仕方なかった。


「……リンはどこに帰って行ったの?」

 そんなことをずっと考えていた。


 翌日、出勤したジェシカは、昨日のことをマスターに伝えるかどうか考えていたが、

 結局言えないままに時間だけが、確実に過ぎていき、リンの出勤時間がやってきた。


「こんにちは。マスター、今日もよろしくお願いします」

「リン。来たの?」

 ジェシカが、どこかよそよそしかった。


「リン、昨日財布忘れて帰ったでしょう? これ」

 ジェシカは、財布を渡した。何気なく、ごく普通を心掛けて。


「あっ、すみません。ありがとうございました。

 探してたんです。よかった、ここにあったんだ」


「そう、よかった。どうしようか思ったんだけど、今日来るからいいかなって」


 ジェシカのこの言葉に、

「あれ、昨日持って行ったじゃないのか?」

 トニーが言うと、ジェシカは、

「急用が出来て、早めに帰らなきゃならなくなったの。」

「なんだ。そうか?」


 そんなやり取りをリンは聞いていたが、特に気にしてなかった。そして、


「もし、忘れてても、ここに置いててもらっていいですか? 

 どっちにしてもまた来るし、急ぐ物なら、取りに来るので」


 リンはそう言って、仕事に入っていった。


 その後を追うように、休憩を終えたジェシカも仕事に戻った。


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