第四章 2
すると、捜査官がビルの目に入った。
そして、その捜査官に向かって、
「お前ら、いい加減にしろ。リンを使って、何を調べてたんだ?
俺達に何かあるっていうのか?
第一、リンを送り込んだのは、お前達だろう?
お前達さえいなかったら、こんな……とにかく帰ってくれ」
一気に言って、店の奥に引き返した。
その後、特に言い争う声が聞こえてこなかった。
リンと言い争っていない。
あれ程険悪だったにも関わらず。
リンは、まだ出て来ていない。
捜査官は、店の奥に入って行きある光景を見た。
そこには店のマスターであるビルしかいなかった。
「リンは、どこに行った?」
そう言われても、ビルはそれには答えず、
「そんなことどうでもいい。とにかく出て行ってくれ」
今度は、捜査官がそれを無視し、
「リンは、どこに行った」
そう繰り返した。
それにはビルが、
「そんなこと知るか? お前達にいられるのは迷惑だ。さっさと出て行ってくれ」
そう言った、ビルに迫るように、捜査官は一段と詰め寄って、
「リンを、どこにやったんだ」
そこまで言われて、さすがに頭にきたビルは、
「そんなの知るわけないだろう。
ここに入ってきたら、もういなかったんだから!……それよりなんなんだよ」
捜査官は、店の中を隅から隅まで探した。
ビルの許可も得ずに。ビルもさすがに我慢がならず、強引に捜査官の体を店の外に押し出した。
「いい加減にしてくれ。リンだけでも随分我慢してるんだ。これ以上すると訴えるぞ」
そんなビルに向かって、捜査官はこう言った。
「リンを匿っているんじゃないだろうな?」
ビルは、捜査官の想像もつかない言葉に、呆れてものが言えなかった。
こっちはリンに、はたはた迷惑かけられているというのに、何を言い出すんだ?
そう思った。
「何を言ってる? 匿う? リンをか?
……何を言ってるか分からないが、リンを匿ったりするものか。
もし、何かするなら、拳の一発でも恵んでやるよ」
その言葉で、捜査官は質問を変えた。
「この店の裏口は、どこかにつながってますか?」
ビルは、その意味が良く理解できなったが、
「あるよ。この通りの反対側にも出られる」
そう伝えると、捜査官の次の言葉に、あっけにとられた。
「リンが逃げた!」
車に待機していた捜査官に伝え、IIMCにも報告した。
「こちらクレイ。リンが逃亡した。すぐに追跡を頼む」
クレイは、店の奥の台の上に、ある物に気がついた。
「これは、ここの物ではないですね?」
クレイは、一つのブローチを持ってきてビルに聞いた。
ビルは首を横に振り、
「いや、知らないが、リンが着けていたのに似てるが?」
「そうですか」
そう言うと、ブローチを壊した。
ビルはびっくりしたが、それ以上に出てきたものに驚かされた。
何か機械のようなものが入っていたからだ。
それを見たクレイは、
「やっぱり、外したか」
そう言うと、無線で連絡した。
「本部、リンは取り付けたGPSセンサーを外している。埋め込み型の方を追跡してくれ」
IIMCから追跡結果が送られてくるまで、クレイは周辺調査を行い、ビルにも、
「どこか隠れられる場所はありますか? パソコンを使える場所は?」
その質問に答えたのは、トニーだった。
「隠れられるかは分からないけど、
パソコンなら、二ブロック程行ったところにネットカフェがあるよ」
トニーが指差して教えた。
すると、二人の捜査官が走って向かった。
せいぜい五分あれば走っても行ける距離だ。
リンが逃げ出して五分は経っている。
何かしているとすれば、出来る時間だ。
しかし、なんといっても、そのためには資金がいる。リンは全くお金は持っていないはずだ。
「ビル、お金はなくなっていませんか?
リンはお金は持たせていない。もし、なくなっていれば、あらゆる危険が湧き上がってくる」
ビルには、その言葉の意味の半分も理解できなかったが、すぐにレジを調べてみた。
しかし、何もなくなっていなかった。
これで少なくとも、ネットカフェに行っている可能性は低くなる。
そこへ、IIMCから連絡が来た。
「リンは北へ向かっている。
これ以上の逃亡は許すな。
銃の使用を許可する。殺さない限り何をしても構わん。
早急に確保しろ」
それが無線で伝えられた時、ビルはクレイのすぐ傍にいた。
内容に聞き入ってしまった。
「どうして? リンは、リンは何を……?」
それにクレイは答えなかった。
答えず銃を手に取った。実弾の装填された銃を。
それを見てビルは、どうしてもこのままではいけない。
何が起こっているのか、知りたいと思った。
とっさに、どこかに行こうとするクレイの手を引っ張った。
「何があったのか? リンが逃げたって? なんで逃げるんだ?
リンはあなた達の仲間でしょう。
なのに、銃を使うって、一体何が起こっているんだ?
教えてくれ……私には聞く権利がある!」
クレイは無視して行こうとした。
「リンは、ここにいる時、何かにおびえてた。それってあなた達でしょう?」
ジェシカが行く手を塞ぐように、立ちはだかった。
「リンのこと教えて。そうじゃないと、リンの行き先、教えないから」
ジェシカの言葉に、クレイは驚いた。
「?! 知っているのか? リンがどこに行ったのか?」
迫るクレイにジェシカは、
「先に教えて。リンはなんで逃げたの?」
「それは教えられない。
そんなことよりリンを心配するなら、教えてくれないか?
リンはどこに行ったんだ? 北に向かったらしい、どこに行った?」
クレイは真剣に聞いた。
その顔にジェシカは圧倒された。どうしようか迷っていると、
「リンが気になるんだろう?
リンのためになる、心当たりがあるなら教えてくれ。手遅れになる前に」
「どういうこと? リンに何かあるの?」
ジェシカは心配そうに聞いた。
「……リンは、犯罪者だ。今は更生するために、我々の施設にいる。
だが、このまま逃げれば、確実にリンのためにはならない。早く捕まえる必要がある」
それを信じられないという顔で聞いていたのが、ビルだった。
「犯罪者? リンが?
だったら、そんな奴をなんでここに来させたんだ? 変だろう。
危ない奴なら、出さなければいい」
それに言い返す言葉がなかった。
まさか、リンを利用するために恩を売ったとも言えず。
「今、捕まえなければ、リンは撃たれる。
リンを助けるためにも、どこにいるか知ってるなら教えてくれ」
「そんな危ない奴は、どうなっても知らない。
ジェシカ教えてやる必要ないぞ、そういう運命なんだよ。……十分迷惑かけられたしな」
ビルの言葉に、ジェシカは納得できなかった。
「でも、リンがそんなに悪いことをしたとは思えない。
……ここで、花の世話をしていた時、本当にいい顔してたし優しかった。
リンが、本当に悪い子には思えない」
そう言って大きくため息をついた。
「北にある、炭鉱跡地。……そこかもしれない」
その言葉で、クレイが無線で叫んだ。方向もGPSと合致している。
そして、飛び出して行った。
その後、残ったビル達は、
「……ジェシカ、なんで言ったんだ? それに、炭鉱跡地?」
ビルから聞かれたジェシカは、
「前に、リンが迷子になったことがあったでしょう?
その時、この先はどこにつながっているのか聞かれたから、この先は炭鉱跡地につながってるって。
その時、どんな所か聞かれて、炭鉱跡地には花が咲かないって話したの。
その時、リンが行ってみたいって話してた。
だから、もしかしたらって思っただけ。……違うかもしてないけど」
「そうか。でも、なんで話したんだ? 別に話さなくても、あいつら絶対見つけるぞ」
「だって、リンが撃たれるかもしれないって。そう聞いたら、……怖くて」
そんな話をしていると、トニーが、
「マスター。行きませんか? 炭鉱跡地」
それを受けて、店を閉めて三人で炭鉱跡地に向かった。




