第二章 4
この話から、リンの取り調べに入ります。
リンとなってからも、取り調べは変わらず行われている。
IIMCに来て一か月は、IIMCの捜査官に取り調べられた。
その後、スピースが侵入した国による取り調べが始まった。
この場合、期間は月単位で、三週間の尋問の後一週間のブランクが用意された。
方法は、自国の方法で行われ、この取り調べには、IIMCの職員の立ち会はいらなかった。
条件は、取り調べる国が変わる時、リンが取り調べをスムーズに行えるなら、
その間、何をしようが、特に禁止事項はなかった。
意識があればいい。
体が傷ついていようが関係ない。
取り調べる順番は、すでに決まっている。
この一ヶ月、リンの自白と侵入の履歴により、証明されている。
主に、リンが侵入したのは、核ミサイルを装備されている国だ。
そんな国が、そのミサイルをジャックされて、ただの取り調べで済むのかどうか。
あまり考えなくても想像はつく。
リンは、比較的素直に取り調べに応じていていた。
素直に従った方が、自分に危害を加えられる機会は少なくなる。
少なくなったからといって、全くないわけではない。
一ヶ国目の時は、情報ジャックも行っていたため、
かなり頻ぱんにコンピューターにアクセスした。
書き換えも最初の頃は回数をかけていた。
だからこそ、取り調べも、ずい分力をかけていた。
たとえば、こんな感じ。
某A国としよう。
取り調べには、四人来ていた。
なかなかいい体格だ。
最初スピースがリンだと知らされて、驚きを隠せなかった。
動揺していた。
しかし、かといって、手を抜いてくれるわけもなく、取り調べが始まった。
「スピースか?
こんな子どもに簡単にジャックされるとは、我が国の技術も大した事ないな。
こんな子どもに」
嫌味な言い方から始まった。
リンは、それには反応せず、次を待った。
静かに座って、少し伏し目がちにして。
「それでどうして、システムにアクセスしようと思ったんだ? 核を独り占めするつもりか?」
威圧的だ。
こうくるだろうと思っていた。
でも、リンは緊張していた。膝の上で両手を固く結んでいる。
視線もついそこに向かっている。
それでも、必死で奮い立たせた。
「独り占めなんて、考えてない。ただ……」
「ただ? 誰かに、いや、どこかに売るつもりでいたか?
いろんな所から、客が寄って来そうだな」
リンは、言葉を遮られて不満を持ったが、それには触れず、
「そんな事、絶対ない。私は、核ミサイルを使ってほしくなくて、それで」
「それで、世界中の核を一人占めしたわけか? おい、どこ見てる?」
リンは、膝の上で結んだ手を見入っていた。
それに気づかれ、組んでいた両手を力づくでそのまま頭の上に持ち上げられた。
そして、勢いよく机に叩きつけられた。
ガンッ。
大きな音とともに、机に打ちつけられ、リンの手をその大きな手で無理やり押さえつけ開かせた。
リンは、その痛みにうめき声が出た。
「あっぅ」
そんなリンにお構いなしに、
「何してる、何かあるのか?」
「な、何もないです。何もしてません」
「そうか? 何か企んでいるのか? 両手はこのまま、ここ(机)に出しておけ。
下ろすな。手を組まず、置け」
そう言って、強引に机に手を置かせた。
リンにとって、四人に囲まれただけでも、かなりのプレッシャーになっているにも関わらず、
その上、手の位置まで固定されてしまっては、冷静に考える余裕なんてない。
そんな中で、一ヶ月こんな格好での取り調べが続いた。
リンには時間がどれくらい進んでいるのか、だんだん分からなくなっていた。
と、いうのも、一ヶ月という時間制限の中で行われるため、知りたい情報が山ほどある。
だから、一日のほとんどを取り調べに費やし、
休憩はほんの仮眠程度しかなく、リンの精神力も限界を超えていた。
最後には、リンは自力では立ち上がれないほど、憔悴しきっていた。
次の国までの一週間は、本当に体力回復にのみ使われた。
そして、やっと調子が戻ってきたところで、二ヶ国目の取り調べが始まった。




