第一章 リン登場 1
皆さんは、お花は好きですか?
ある花屋の店先での留学生と、そこの店員との会話からこの物語は始まっていきます。
修行中には、色々とあるものです。
第一章 リン登場
季節は廻っている。
国によって様々で、一年中同じような気候であったり、
日本のように四季があり、ころころと日々変化したりする場所もある。
そして人は、その季節を楽しみ方を知っている。
それは、山に登ってみたり、海で泳いでみたり、旅行を楽しんだり。
色々な方法でその季節を満喫しようと試みる。
たまには、その自然の驚異に翻弄されたりもあるが、
それでもやめることなどなく、傷が癒えればまた出かける。
そして、季節や自然を手軽に、そして身近に感じることが出来るのが、植物だろう。
そんな植物が、季節や国境を越えて並ぶのが、花屋かもしれない。
特に花屋に並んでいる一輪一輪は、
その季節やら、その国、
またはその花の生まれた国を彷彿とさせてくれる。
その花を手に取った時、
その色の鮮やかさ、
その香しい匂いに、
一服の清涼剤にも似た感情を思い起こさせてくれる。
そんな至福の時が、花屋の店先に感じられるかもしれない。
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明るい陽射しが降り注ぎ、店先に置かれた運び込まれたばかりの沢山の花達が、キラキラと輝いている。
その向こうでは、仕入れてきたばかりの花達を、懸命に店の中に運び込んでいた。
人数は少なくても、手際よく運ばれていく様は、見ていてとても気持ちがいい。
店の前で、奥にいる店員に次々と花の入ったバケツや、箱、植木鉢などを渡していた。
多少手荒く見える手つきだが、花一輪一輪を大切に扱っていた。
外から中へ沢山あった花達がみるみるうちに店の中へと運ばれていき、
あっという間にすべての花が、店の奥に消えていった。
店の奥は、作業場となっていて、裏口へとつながっていた。
そこでは、花を種類ごとに分別し、色別に整え保管場所に持っていく。
その中には、温度に敏感な花もあり、温かいと花が早く開いてしまうものもあった。
そういう花は一定の温度に設定された場所に、他の花より早く運ばれた。
日光にも敏感なものもあり、変色する花もある。
その花は、出来るだけ店の奥の直射日光の当たりにくい場所に運ばれた。
そんな忙しい時間には、時には怒号もとんだ。
「これ、そっち持って行って、早く。次はこれ」
「こっち持って、重いんだから」
「これ、そっちのガラスに入れて」
「この花、違う。先にこれ入れて」
などなど、様々な指示とともに、それに答える声が、あっちにこっちに響いていた。
その時間がしばらく続き、花がそれぞれの定位置に収まると、
今度は後に残ったはっぱやら、水切りした茎やらが、床に散らばっているのを片付けなければならず、
なかなか落ち着かない。
ここは某国の花屋の店先だ。
この中に、この花屋でアルバイトをしながら、
語学学校に通っているリンという女の子の留学生がいる。
年は十八歳。もう四か月になる。
言葉は随分話せるようになってきた。
元々少しは話せていたのが、今では冗談も通じるようになってきた。
時に嫌味も言うようになった。
それもこれも、ここでのアルバイトを始めてからだった。
リンは、ここから離れた場所にある学校に通っているが、将来、花に関係のある仕事に就きたい。
と、離れてはいるが、この店を選んだ。
住んでいるのは、学校から紹介された山の手にあるアパートだった。
働くのは、いつもは学校が終わってから。
週の内、火曜日・木曜日・金曜日の三日を、学校は基本的に午前中だけで終わらせ、
午後はこの花屋で仕事をしていた。
その方が勉強にもなるし、お金ももらえるので一石二鳥だった。
リンが机に向かっているよりも、花に関わっている方が、好きだというのもある。
「良く働いてくれるよ。助かってる」
「ありがとうございます。もっと頑張ったら、お給料上げてくれますか?」
「よく言うようになったな。まあいい、働き具合で考えるよ」
明るく言うマスターに、リンはニコニコしながら言う。
そんな気楽な会話が出来るほどに、リンの語学力は上がっていた。
ある日、マスターが、
「これ、配達してくれるか? ジェシカ」
「すみません。今、手を離せません。このアレンジ、あと一時間で取りに来られる方がいるので」
ジェシカとは、ここで働いている正規のスタッフで、リンより先輩だった。
今では、フラワーアレンジメントを任されるほどの腕前だった。
「そうか、なら無理だな。でも、これも急ぎだし、俺も手が離せないからなぁ」
そこに花の入ったバケツを抱えてリンが入ってきた。
「ちょうどよかった。リン、この花束届けてくれないか?」
「無理です!」
マスターのそれに対して、トニーが答えた。
「僕が行きますよ。今ちょうど手が空いたし、
これ、もうすぐ取りに来られるので渡してくれればいいだけだし。
……それにリンじゃ、いつ着くかわからないでしょう?」
トニーもリンにとっては先輩の一人。トニーも正規のスタッフ。
「そんな言い方ないでしょう? 私だって……」
「無理だよ。究極の方向音痴。
急ぎなのに、時間がかかったら意味ないし、迷惑かけるだけだし。だから、僕、行きますよ」
「じゃあ、トニー頼むよ」
「はい」
トニーは、花束を受け取り、配達に出かけた。
ここから始まります。リンをよろしく。
よろしくお願いします。