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ソルガル2.0  作者: ファフニール
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 さて、リリスとキースが双方リタイアした為、トーナメントの構図はいささか偏りを見せる。


 1.リリス×―キース×


 2.イオマンテ○―アヌビス×


 3.ソフィ―トロイア


 4.テオ―イリアス


 イオマンテはシード権を得た形になり、3.および4.の勝者同士が戦った後、その勝者と決勝を戦う形になる。


 ソフィはちらとテオを見た。


 テオはソフィの方を見ると小さく頷く。


 言葉数が多い人間ではない。


 だが、何も言わないと言うことは、ソフィを信用しているということなのだろう。


 「行って来ます」


 「頼んだ」


 簡潔な言葉に送られて、ソフィは壇上に立った。




 「私がイオマンテのお気に入りとやることになるなんてね」


 緑色のビキニのような鎧を纏ったトロイアが、その理知的な相貌を苦笑の形に歪める。


 「どう?今からでも私達と来ない?

 ずっとこんな時間が続くなんて、素敵じゃない?」


 「悪いけど」


 ソフィはすっと真っ直ぐトロイアを見据えて言った。


 「ちっとも素敵じゃない」


 「かわいくない子」


 「戦闘を始めてください」


 合図の言葉と同時にトロイアは後ろに飛んだ。


 イオマンテの実力をよく知っているトロイアは、その弟であるというソフィとの接近戦では分が悪いと判断し、スペルでの戦闘を目論んでいた。


 イオマンテの様にクラウ・ソラスを持っていれば話は別だが、まだたった一度ラストダンジョンを抜けてきただけのソフィが、あのレア・ドロップを入手しているとは考えにくい。


 事実、ソフィはそのリングを所持していない。


 トロイアもシングルプレイヤーであるから、攻撃とスペル発動を同時に行おうとするとどうしてもタイムラグが出来る。


 人間は二つの以上のタスクを同時に実行できるようには出来ていないのだ。


 だがそれでも、遠距離からのスペル攻撃なら十分に分があると言えた。


 トロイアにはリングが具現化するすべてのツール・スペルを向こうか状態に戻す、「発動拒否」リングのスペル「リジェクト」もあるのだから。


 後退したトロイアに、ソフィは愚直に間合いを詰めてきた。


 ふん、とトロイアはそれを鼻で笑う。


 イオマンテの弟らしい。


 身体的実力で、トロイアを圧倒できると考えているのだ。


 だが実力派揃いのピーター・パンで幹部を張るというのは、それほど簡単なものではない。


 トロイアの人差し指が真っ直ぐ前に向けられた。


 「『ディープ・ポンド』」


 スペルが発動され、ソフィとトロイアの間に幅十五メートルほどの広い沼が出現した。


 ソルガルに、飛翔系のスペルは確認されていない。


 闘技場が限られたスペースである以上、ソフィにはもうトロイアを攻撃する術はほとんどないと言える。


 強いて言えば遠距離攻撃スペルだが、それらをトロイアが無効化できる以上、そもそも勝負にならない。


 一方的にスペルの攻撃を受けて、徐々に押し負けていくしか、ソフィには道は残されていない。


 「『ミョルニル』」


 トロイアの頭上に、イカヅチの大鎚が具現化し、正確にソフィを目指して突撃する。  


 「くっ」


 『「アンチ・マジック』」


 莉子がその威力をスペルの障壁で減損するが、スペルの地力が違いすぎる。


 ミョルニルはあっさり障壁を突き破り、ソフィは闘技場を思い切り吹き飛ばされる。


 「うぐっ」


 空間が遮られているのだろう。


 闘技場の端の空間にぶち当たり、うめくソフィ。


 致命傷にはほど遠いが、このままじわじわダメージを受けていくことは必至である。


 「『ブリューナク』」


 莉子が反撃の遠距離スペルを唱える。


 しかしそれはリジェクトスペルによって容易に無効化された。


 「無駄よ、イオマンテの弟さん。

 あんまり痛めつけるとイオマンテが怖いから、できたら棄権してくれない?」


 「い・や・だね」


 「ほんと、かわいくない」


 次の一撃が繰り出され、やはりソフィは跳ね飛ばされることしかできない。


 「まずい、な。こりゃ」


 ソフィはそれでも立ち上がるが、あと二、三発も食らえば立っていることすら難しくなるかもしれない。

 

 そうなればおしまいである。


 「そうだ、莉子。面白いもの見せてやるよ」


 「『?』」


 「毎日塀の上を歩いて帰ってた成果かな?」


 ソフィはその口の端を上げた。


 「なんのつもり?」


 トロイアの困惑も無理はない。


 ソフィはつぎつぎと具現化したレア度の低い武器を、ぽんぽんと池の中に投げ捨て始めた。


 始めは武器を投げつけるつもりかとスペルを展開して警戒していたトロイアも、今は呆れるだけだ。


 真意は計り知れないが、ある程度武器を撒くと、ソフィは満足そうに微笑んだ。


 「来いよ。これで終わりにする」


 「どう終わりにするっていうのよ?終わるとしたらそれは」


 三度、空中に紫電を放つ神の鎚が具現化される。


 「あんたの方よッ!」


 突撃するミョルニル!


 それを避ける為全力で走るソフィはあろうことか、前に飛び出した。


 それは沼地に飛びこんだことを意味する。


 「あははッ。何かと思えば。沼を泳いで渡ろうって言うの?」


 それは無理な相談である。


 第一仮に泳げたとしても、そこは雷属性のミョルニルの独壇場となるだけだ。


 だがトロイアが笑っていられたのもソフィが最初の一歩を踏み出すまでだった。


 そう、踏み出したのだ。


 「え?」


 ソフィは沼の上にぷかぷかと浮かぶ武器の上を走っていた。


 「な………!?そ、そんなことッ!」


 剣道とはほとんど足捌きがすべてと言っても過言ではない。


 強靭な足腰が、その姿勢を整え、バランスと衝突力を与える。


 孝一の技術とクレセントガールの身体能力にあかして、ソフィは無理やりに水の上を走っていた。


 「そんな馬鹿なッ!」


 一瞬にして、ソフィはトロイアに迫っていた。


 シングルの宿命。


 対抗手段を講じる時間がトロイアには少ない。


 「くっ、『リジェクト』!」


 繰り出されたソフィの剣の一撃を無効化するトロイア。


 確かに一本の剣は消えた。


 だが、ソフィは二刀流である。


 「あぐぅッ」


 七星剣の一撃が深々とトロイアの心臓の辺りにめり込んだ。


 「………ほんとに………姉弟で非常識な………イオマンテ、あんた責任取りなさいよ………」


 トロイアは光の粒となって消えた。



 「ありゃあ、トロイアやられちゃったよ。何あれ?剣道やってると水の上走れるわけ?」


 イリアスが隣に立つイオマンテに声を掛けると、その目はどうやら闘技場を降りる少女に釘付けだ。


 「孝ちゃん、カッコいい」


 「だめだね、こりゃ」


 そう言うとイリアスは闘技場に上がる。


 「まさかイオマンテが負けることはないと思うけど、用心するに越したことはないし」


 その目線の先に、黄金鎧の少女がいる。


 「でも、ちょっとテオちゃんをいたぶるくらい油断のうちに入らないよね?」


 黄金ザクロの首領たる幼い少女の外見を持つテオが、見るものを燃やすような視線でイリアスを睨みつけた。


 「テオさんッ」


 その背中に声を掛けるソフィ。


 そのソフィに向けておそらく初めて、テオは笑いかけた。


 「戦闘を開始してください」


 「後を頼んだ」


 その唇はそう言っていたように見えた。


 「お前はここで私が斬る。それが黄金ザクロ団長としての務めだ」


 黄金の全身鎧の少女は、その手に光り輝く両手剣を持つ。


 その構えを見て、ラフィング・デーモンと渾名される銀髪の坊主頭の少女が、にたりと笑った。


 「私にぼこぼこにされてここに逃げ込んだの、もう忘れたの?」


 はっと孝一は思いあたった。


 ラストダンジョンの洞穴内に入り込んだ時、すでにテオはその鎧をぼろぼろにして半裸状態だった。


 あれはこの少女との戦いで負ったものであったのか。


 「戦い方は、キースが教えてくれた」


 「?」


 「私がお前を倒すということだッ!」


 「精神論ならなんとでもッ」


 両手剣を構えて突撃するテオ。


 その両脇から光の礫が発生し、イリアスに向けて放たれる。


 「あははッ」


 イリアスはその手に漆黒の長剣を出現させて構える。


 獅子鎧の少女が剣を振るうと、ぼしゅっと言う音がして光の礫をかき消してしまった。


 「スペル無効化ッ!?」


 「違うよ、スペル吸収。ほらッ」


 そう言って再度剣が振るわれると、先ほど消えたばかりの光の礫が出現し、テオに向けて放たれた。


 「!?」


 咄嗟のことに、両手をクロスさせて鎧で受け止めるテオ。


 だが黄金鎧のレア度は4。


 自らはなった光球「ジャッジメント」のレア度は5である。


 その鎧が炸裂し、少女の未熟な裸身が露になる。


 「ソソルじゃん、テオちゃん」


 「コンバートッ!」


 イリアスが間合いを詰める一瞬の間に、テオはその鎧を真紅のビキニ鎧へと変化させる。


 凹凸の少ない身体に纏われたそれは、まるで少年のようにも見える。


 ガキキィンという音がして、鎧がイリアスの一撃を何とか弾く。


 だが、その一撃で鎧は破損して、平坦な胸部が露出する。


 「これだと、あたしが変態みたいじゃない?」


 「知るかッ」


 テオが下から切り上げた一撃をイリアスは難なくかわし、漆黒の刃を一閃させる。


 一撃が、鎧の腰部を破壊し、テオは大きく後ろに下がると再び鎧をコンバートした。


 それはオレンジ色の猫を模した衣装だった。


 「猫耳に尻尾なんて、テオちゃんかわいい装備も持ってるじゃん」


 「うるさい」


 敏捷性が補正されるレア度4のツール「キャットウーマン」を着込んだテオが三度イリアスに切りかかる。


 だがその一撃もなんなく受け止められ、黒い刃がアーマーを両断する。


 「くっ」


 「もう裸でいれば?」


 けん制の為に剣を振り上げると、テオは鎧をコンバートする。


 「無駄なんだけどなぁ」


 今度はクリスタルで出来たような全身鎧だ。


 テオは剣先をイリアスに突きつけて叫ぶ。


 「『カノン』」


 荒れ狂う砲撃の一撃が、イリアスに向けて放たれる。


 だがその一撃は当然のように黒い剣に吸収され、テオに向けて解き放たれる。


 その時、テオの鎧がきらめいた。


 それはレア度4のクリスタルメイル。


 一定確率でスペルを跳ね返す力を持つ。


 「な!?」


 「食らえッ!」


 「なんてね?」


 「!?」


 跳ね返されたスペルをあっさりと再度その剣に封じたイリアスは面白くもなさそうに言う。


 「無理だって。テオちゃんに私は倒せないよ?」


 そしてあさっての彷徨にスペルを放出したイリアスは何度目か知れない一撃をテオに向けて放った。


 クリスタルの鎧が粉々に砕け散る。


 「……………コンバート」


 「いい加減に…………!?」


 その瞬間、初めてイリアスの余裕の表情が凍りついた。


 テオは両手剣を投げ捨ててがっしりとイリアスにしがみつく。


 「こ、これは………!?」


 イリアスは突如恐慌をきたしたようにテオを殴りつけた。


 それは裸体の全身にダイナマイトを括りつけただけのアーマーであった。


 レア度4「心中衣装」リング。 


 「ちょッ、あんたッ………何考えてんの?」


 「言っただろ?戦い方はキースに学んだ」


 「嘘ッ、いや、イオマンテッ!!」


 「『ダイ・ウィズ・ミー』」


 その瞬間、閃光が闘技場の中を席巻した。


 爆音が耳を劈く。


 炎が荒れ狂い、劫火が一切合財を焼き尽くした。


 「いやぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ」


 「ソフィッ、あとは―――」


 炎の中に声が消えていく。


 そして後には、何も残らなかった。


 「…………両者消耗限界を超えた為リタイアとします」


 「テオ………さん」


 その壮絶な戦いに、孝一は沈黙で答えるしかない。


 後に残された二人に、この世界と、二人を除くすべての命運が託された。

 

 「やっと、二人きりになれたね、孝ちゃん」


 後ろからしなだれかかった姉を、孝一は本能的に突き飛ばす。


 「………何するの?孝ちゃん」


 「………姉ちゃん、もうやめようッ!この世界から出て、そして何もかも元に戻そうよ」


 「元に、戻す………?孝ちゃん何言ってるの?お姉ちゃんわかんないよ」


 「やめよう、もう。あの日言った通り。俺にとって姉ちゃんは、姉ちゃんだよ」


 孝一は真摯に訴えかけたつもりだった。


 この世界に来て、さまざまなことを考え、そして学んだことを吐き出したつもりだった。


 だが、イオマンテは、そんな孝一を妙に冷めた目で見る。


 「……………あんたもあたしを置いてくんだ」


 「姉ちゃん………?」


 「女の匂いがしたわよ、孝ちゃん」


 「!?」


 「ぜっっっっっっっっっっっっったいに、ここから出してあげない。

 あんたはあたしとずっと暮らすの。

 女はあたしが殺してあげる。

 ねぇ、孝ちゃんずっと一緒よ。

 この世が終わってもずっと」


 「………姉ちゃん」


 孝一は姉の妄念と呼ぶべき巨大な気持ちに飲まれそうになる。

 

 その時、それまで沈黙を守っていた莉子の声が脳裏に響いた。


 『孝一、闘技場に上がって』


 「莉子?」


 『孝一には悪いけど、あの女ムカつくわ』


 「えッ!?」


 『勝って、そして帰ろう。私、孝一のことが大好きだよ』


 「愛してるわ、孝ちゃん。この世界の誰よりも」


 ソフィは闘技場に上がる。


 『孝一の心は、絶対にあたしが守るから』


 莉子の声が、ソフィの頭の中に響いていた。



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