1話 小刀VS大剣(1)
暗闇に街灯に照らされた刃物が煌めく。平気だ。身体は反射的に斬撃を避け、一歩下がって間合いを取った。刹那、アスファルトが砕ける音が周囲に響く。地面を見ると、大剣が通った後がはっきりと分かるほどに削れていた。大剣を軽々と振り回しているのは少年。まだ、中学生くらいとしか思えないあどけない顔には狂気が含まれていた。
あのちっこい身体で……反則だ。あれを喰らったらと思うと思わず寒気がする。『粉砕』という字の通り、粉々に砕かれるだろう。その恐怖が次第に俺を後退させた。戦力分析の結果、今の俺にははっきり言ってしまえば勝機はない。大剣に対して小刀では分が悪すぎた。俺に残された選択肢は少なかった。
『1.撤退 幸いスピードはこちらに分があるようだから逃げようと思えば逃げられる。2.特攻 死にますね。はい。3.心理戦……苦手だがこれしかないな』
「さっさと攻めてこないの? ハンターさん。僕の大剣が怖くて逃げ腰ですか?」
勝ち誇ったような笑い声。正直むかつく。もし。俺に小刀が『何でも切れる』みたいな反則な能力を持ってたら、この瞬間にもぶっ殺してやるよ。
心の中で悪態を付くが表面上は冷静に弱点を探りに行く。
「あぁ、予想外だった。あんたの腕力がそこまで強いとは……」
「腕力? まさか! 君、本当にハンター? 武器に能力がついてるって考えないのかね」
優越感に浸り満足そうな顔を見て俺は心中にやりとした。表情に出てないことを祈ろう。
「武器? その武器はなんか特殊なのか?」
「ぎゃはは、これは傑作だ。いいぜ、教えてやろう。これは『持ち主にだけ質量を感じさせない大剣』。あんたにはきっちりと衝撃行くから覚悟しといた方が良いよ」
持ち主にだけ質量を感じさせない大剣? ……反則。こんな状態に陥ると、高校の時あんなに嫌いだった物理法則万歳になってくるよまったく。せっかく能力聞き出せたのに解決策が見つからない……
「理解できたかい? まぁ、もう死ぬんだから理解しても意味無いけどね」
「言ってろ。小説ではそう言ったキャラが大概死ぬもんだ」
「あんたじゃ何もできないよ。んじゃ行くよ」
言葉が終わると同時に跳躍。大剣をまるで紙切れのように振り上げ、俺に向かって斬撃を放つ。一瞬前まで俺の足が置かれていたはずの所が粉砕された。一歩間違えたら即死、やってられね。
『逃げろ』
頭の中でそう繰り返される。