デートのお誘い
「吉野。今度の土曜日って何か用事あるか?」
「長谷川。私に用事があると思ってるの?それとも嫌味か何かですか?」
学校帰りに歩いていると、突然長谷川が予定を聞いてきた。
長谷川という彼氏はいるものの、学校が終わって家に帰ると勉強するか漫画読むかアニメ見るかのどれかしかない私に予定なんて存在する訳がない。
そんじょそこらのリア充と一緒にしないでいただきたい。
オタクなめんなよコノヤロー。
「よかった。今度の土曜日に映画見にいかないか?」
私からの嫌味を華麗にスルーした長谷川は、相変わらずの無表情でデートの申し込みをしてきた。
でも何の映画だろ?
「何の映画見に行くの?」
「遊戯王」
「あー!あの宣伝してるやつか」
歴代の主人公が3人とも出てくる映画か。
DVDが出たら見てみようと思ってたけど、まさか長谷川が行きたいと思っていたとは。
そのことを長谷川に伝えた。
「会場で配られるカードが欲しいんだ」
「何もらえるの?」
「Sin・レッドアイズだってさ」
「あの10万もするカードを配っちゃうのか!」
「しかも時の魔術師を賭けてデュエルしなくても手に入るらしい」
「太っ腹だな」
なんでも長谷川はカードは欲しいけど、映画を一人で見に行くのが恥ずかしいから一緒に来て欲しかったみたい。
まったく変なところで恥ずかしがり屋なんだから。
そんなところが好きだったりするんだけどね。
でもデートはデートだしね。
すでにワクテカが止まりませんわ。
「で、どうだ?」
「もちろん行くよ。初めてのデートらしいデートじゃない?」
「そう言われればそうだな」
「そんなんじゃ女の子に嫌われるよ?」
「吉野はそんなことじゃ俺のことを嫌いになったりしないから大丈夫だ」
恥ずかしくてうつむいて歩く私。
どんだけ信頼してるのさ。
嫌いになるわけ無いじゃん。こんなに好きなのに。
「それにしても吉野は遊戯王も守備範囲なんだな」
「カードはやってないけどね。アニメは面白くて好き。結構ジャックとか好き」
「ジャックだと?あんなヒモ男のどこが好きなんだ?」
「社長とは逆のタイプじゃん?偉そうだけどバカでバカなところが好き」
「・・・そうか」
「長谷川は?」
「俺は城之内かな。あんな友達が欲しい」
「なかなかいないよね。あんないい人」
「たしかにな。俺は吉野がいればそれでいいけどな」
「ちょっ!なんでさっきからちょいちょいそーゆーこと言うのさ!」
思わず聞いてしまう。
今日の長谷川はすごくご機嫌だ。
「吉野はあんまり言われたくないタイプなのか?」
「いや、嬉しくないわけじゃないけど・・・恥ずかしいじゃん」
「そうか。ならよかった。気づいてるかもしれないが、本当は遊戯王の映画なんてただの口実だからな。デートに誘ってOKをもらって喜ばない奴なんかいないぞ」
「つまり長谷川は喜んでるということ・・・?」
「そういうことだ。とても土曜日が待ち遠しい」
ホントにこの無表情星人の考えてることはわかりにくい。
少しは表情に出しやがれってんだ!
ポーカーフェイスにも程があるわ。
長谷川がカジノのポーカーのディーラーとかやったら強そうだ。
そんな長谷川に振り回されてしまう自分も好きだ。
今日はノロケまくりだな。
「私も楽しみ」
「あ」
「なした?」
「吉野。あんまりオシャレしないでくれ」
「・・・はいはい。ってゆーか私もそんなにオシャレな服もってないわ」
互いに生粋のオタクなので服装は中の中ぐらいのレベルの服しかもっていないことは、夏休みの私服でバレバレだった。
変じゃなきゃいいんだよ。変じゃなきゃ。
「たとえ吉野がふんどしと鎧だけで来たとしても、嫌いにはならないから安心しろ」
「その時点で私自身が一番怖いわ!」
誰が好んで全身鎧のフルメイル装備で行くか。
「私も長谷川がオレンジ色の胴着を着て来たとしても、好きな気持ちは変わらないよ」
「!?」
「・・・どうしたの?」
長谷川が口をポカンと開けて目を丸くして立ち止まった。
もしかして私が変なこと言ったから怒った・・・とか?
「・・・吉野がデレた」
「はぁ?」
「吉野がついにデレた!まさかこんな形でデレるとは!俺は嬉しいぞ、吉野!!」
いつもの無表情とストーカー時代の満面の笑みを足して2で割ったような顔をする長谷川。
長谷川がそのままの勢いで抱きついてくる。
急に抱かれてあわわわと混乱する私。
デレたって・・・長谷川に好きって言ったこと無かったっけ?
「吉野!大好きだ!!」
「ちょ、ちょっと!そんな大声出さないでよ!」
今までにないような大声で告白してくる。
長谷川どうしたし!
ストーカーの時もテンション高い人だったけど、今回のはまたちょっと違う気がした。
テンションが上がりすぎて暴走してる感じ。
長谷川の胸の中でべしべしと叩くと、落ち着きを取り戻したらしくゆっくりと放してくれる。
「だ、大丈夫?」
「大丈夫だ!一番良い吉野をもらったから大丈夫だ!」
「子どもかよ!」
「今まで吉野が好きって言ってくれたことなかっただろ?」
「そうだっけ?・・・って告白したときに言ったじゃん」
「あれ以外でって意味だ。別に言われなかったから寂しいとか悲しいとかではなかったんだが、実際に言われるとこんなに嬉しいものなんだな!」
いきいきとした無表情で興奮冷めやらぬといった感じの長谷川が拳を作って熱く語る。
こんな時にアレだけど・・・キモイな。
「そう言われてみたらいつも心の声で留めていたような・・・」
「思ってることは口に出したほうがいいぞ!俺も嬉しいし!」
「じゃあ・・・言ってもいいの?」
「おう!思いの全てをぶつけてくれ!」
そう言って両手を広げる長谷川。
「なんかここまでテンションの高い長谷川ってキモイね」
「・・・」
長谷川の表情がどんどん冷めていき、両手両膝をついて地面に崩れた。
冗談のつもりだったのにここまで落ち込むなんて・・・
「吉野。俺はどうしたらいいんだ?」
「そんな長谷川も大好きだよ」
冷めてしまった無表情に再び熱が戻ってきたらしく、私の隣に立ち上がる長谷川。
「そろそろ帰ろうか。吉野さん」
「キャラぐらいは設定してから立ち直ってください」
結局ボケてるのか素なのかわからなかった。
でもそんな長谷川も大好きだから困る。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると大変喜びます。
次回もお楽しみに!