決着
「正樹。私、正樹と会えて良かった」
「え?」
「明子以外に出来た友達だもん。そりゃ感謝もするよ」
そりゃ驚くよね。
いきなりお礼だもん。
でももちろんこれが本音な訳がない。
本番はここから。頑張れ私!
「遠距離でも付き合ってくれるって言われたとき、とても嬉しかった。ホントに気持ちが通じ合ってるような気がしてた。でも実際は全然気持ちは通じ合ってなかった」
そう。付き合ったものの、すぐに遠距離恋愛がスタートした。けど正樹のほうは付き合ってる自覚自体なかったのだ。
私は一人で勘違いして正樹と気持ちが通じ合っていると思って頑張って遠距離恋愛をしていた。
「私が連絡をしても、正樹がなかなか連絡をしてくれなくて落ち込んでいた時に、長谷川と出会った」
「長谷川って・・・」
「正樹の大阪にいた頃の友達の友達らしいよ」
「そっか・・・あの時の人か・・・」
正樹はハハッと苦笑すると頭をかいた。
「じゃあ全部長谷川くんに聞いたんだね」
「うん。正樹が付き合ってるつもりすらなかったことも、メールとかが重く感じてたことも色々聞いた。実際には聞いたっていうよりは聞かされたってほうが正しいかな」
今思うと、長谷川が教えてくれなかったら私ってどうなっていたんだろ?
「そのあと私は正樹に騙されてたって思うようになって部屋から出ない生活をしてたんだ」
あの時の自分はホントに病んでいたと思う。
「でもそんな時に励ましてくれたのが明子と長谷川だったんだ。もちろんお母さんとか妹とかも励ましてくれたけど。それから私は立ち直ることができて、こうして正樹と向き合うことが出来るくらいまで強くなった」
自分でも思うくらいに強くなった。
私の独白を聞いていた正樹が口を開いた。
「それで?ただ話すためだけにここに来たんじゃないんでしょ?」
「うん。一発殴らせて欲しい」
あの時、布団生活から立ち直った時からずっと決めていたことだった。
『正樹に会ったら一発ぶん殴る!』
そう心に誓うかのように強く生きてきた。
「そっか。僕殴られるのか・・・」
「ホントは穏便に無視でもして済ませようかと思ったんだけど、漫画とかだとよくあるパターンだから、これもまたアリかなって思ってさ」
ホントに今日の私は自分じゃないみたいにスラスラと言葉が出てくる。
少し興奮しているのかもしれない。
「まぁなんか言われるとは思って覚悟はしてたけど・・・まさか君子が人を殴るって言い出すとは考えてなかったよ」
「私も変わったからね。人間、きっかけがあればいつでも変わることができるんだよ」
わかった、とだけ返事をして正樹は腰掛けていた机から立ち上がり、その場に仁王立ちした。
きっと私の覚悟を受け取ってくれたんだと解釈した私は、正樹の元まで歩み寄り、目の前に立った。
改めて近くで見た正樹は、去年の夏に引越しをした時からあんまり変わっていないように見える。
ずっと好きだった人。
遠距離でしかも片思いだった人。
でもそんな人と私は決着をつけようとしている。
目をつむり、心の中で自分に気合を入れる。
心の中で小さくカウントダウン。
5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・
『バチッ!!』
静かな教室に大きな音が響いた。
自分なりの精一杯の力で正樹の頬をひっぱたいた。
グーパンチはさすがに勇気がでなくて、代わりに渾身の平手打ちを繰り出した。
人生初の平手打ちだったけど、いい感じで当たったみたいで、正樹は目を丸くして叩かれて首が横を向いたまま頬をさすっていた。
ビギナーズラックおそるべし。
「っつ・・・叩いてくれてありがとう。これで僕も次に進める気がするよ」
「そ、それはこっちのセリフ」
泣きそうになったけど、必死に堪えて言い返した。
「じゃあ。同じ学校だけど元気でね」
そう言って正樹は教室を出ていった。
あとに残された私は青春パワーが切れてしまったらしく、近くにあった椅子に崩れるように座った。
座ると、緊張が解けて急に涙が出てきた。
「うぅ・・・痛い」
気がつくと心臓がズキズキと痛い鼓動を繰り返していた。
それと一緒に痛覚も戻ってきたらしく、叩いた手がジンジンとして痛いような熱いような感じがした。
手を押さえて下をうつむいて涙を流した。
「人を叩くのはとても勇気がいることなんだ。吉野はよく頑張ったと思う」
ふと両肩に重さを感じたと同時に後ろから声がした。
振り向かなくても声の主は誰か分かっている。
こんなに背後に立つスキルが高い人物は一人しかいない。
「誰かえらい人が言ってた。誰かを叩くっていうことは、叩かれた人も痛いけど、叩いた人は心と手が痛くなるんだから2倍痛いんだ。だから誰かを叩くっていうことは覚悟のいることなんだって。だから吉野は頑張った」
どこかで聞いたことあるセリフだけど、長谷川のくせに良いことを言われた気がして、悔しくてさらに涙が出てくる。
長谷川にこんな泣きじゃくってるところを見せるのは正直恥ずかしかった。
左肩に乗せられている長谷川の手に自分の右手を重ねる。
「別に泣くのは恥ずかしいことじゃないと思うぞ」
「は、長谷川って心の声聞こえるの?」
嗚咽まじりの声だったから何言ってるかわからなかったかもしれないけど、長谷川は的確に返してくれた。
「俺は吉野のことが好きだ。だから吉野のことをよく見ているつもりだ。だから何となく仕草とかで考えていることはわかる・・・ようになりたい」
結局願望かよ。
それでも嬉しい。
長谷川が私のことを見ていてくれることが凄い嬉しい。
涙でぐしゃぐしゃだったけど、なんとなく笑みが溢れた。
「やっぱり吉野には笑顔が似合うよ」
両肩にあった手がそのまま降りてきて、後ろから長谷川に抱きしめられる形になった。
『顔も見てないくせに、どうして笑ったってわかるさ!』とか『教室に誰か入ってきたらどうするのさ!』とか『恥ずかしいからやめてよ!』なんてツッコミを言える勇気は私にはまだなかったみたいで、長谷川にされるがままだった。
すごく長谷川のことを好きになっている自分に気づいた。
そして長谷川も私のことを好きなんだと実感した。
心と手はまだ痛かったけど、私の中の何かが変わった気がした。
その両肩から伸びてきている腕を自分の両手で触る。
ありがとう長谷川。大好きだよ。
恥ずかしいので、長谷川に心の声が聞こえていないように祈りながら、心の中で告白した。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけるとトランザムできるかもしれません。
少し長くなってしまいました。
次回はこの回の舞台裏となります。
というわけで次回もお楽しみに!