恐怖体験
「ギャーッ!!」
「アハハハハ!!」
現在、長谷川の家でゲームのプレイ中。
さっきの悲鳴が私。笑い声が長谷川。
長谷川が爆笑してるところなんて初めて見たけど、そんなレア度の高い長谷川を見る余裕もないぐらいゲームに集中している。
いや、集中せざるを得ない状況になっている。
むしろ画面から目が離せない。
「ううっ・・・怖いよぉ」
「吉野はやっぱり面白いな!」
現在、ホラーゲームをプレイ中。
私がコントローラーを握って、隣で長谷川が過去最大級のハイテンションで笑っている。
くそっ!長谷川め!私を騙しやがった!
何がカメラで戦うアクションゲームだ!
だいたいあってるけど根本的にホラーゲームじゃないか!
バカ!長谷川のバカ!
「怖いならやめるか?」
「こんな中途半端なところでやめたら夢に出てくるから!」
「そんなに怖いのか?この幽霊なんてかわいそうな過去を持ってるんだぞ?」
「ちょっとやめて!今こいつのことをそんな哀れみの目で見れない!ただの恐怖の対象にしか見えないから!!」
さっきから後ろを追いかけてくる、鉈をもった血まみれの神官みたいな幽霊の解説をはじめようとする長谷川を制止してゲームに集中する。
「あ、そいつは近づいてカメラの威力上げて倒さないと」
「近づくとかムリムリ!絶対やられるって!」
操作には慣れてきたんだけど、ホラーゲームならではの、急に来る恐怖と誰も居ないはずなのに背後から感じる謎の視線が怖すぎて変な汗が出てくる。
これ絶対見られてるよね。
雰囲気出すためとか言って閉められたカーテンの隙間が気になる!
「『贄の儀式に従えー』」
長谷川の声とゲームの音声がだぶって聞こえた。
どんだけやり込んでるんだよ!
「ちょっと!疲れてきたんだけど!休憩したいんだけど!」
「え?憑かれた?」
「発音的にそれ漢字違う方だよね!私取り憑かれてないからね!だ、大丈夫だよね?」
何度目かのセーブポイントでセーブすることに成功した私は、コントローラーを膝の上に置いて一息ついた。
マジで怖かった。何度叫んだことか。
今日は誰も家に居ないらしく、長谷川と二人きりだった。
正直彼氏の家に初めて来て、悲鳴ばっかり上げてるところを見られなくて良かった。
第一印象が最悪になるところだった。
「今日はもうやめるか?」
「私はもうできない。やるなら長谷川がやってよ。私横で見てるからさ」
「なら続きはまた今度だな」
「もう勘弁してくださいよー」
「だが断る!」
「なんでさ!」
「面白いからだ。それにまだきらいごうまで行ってない」
「きらいごうは違うシリーズだろ」
「ぎゃうっ!」
急に別の声がしたので、驚いてしまい変な声が出てしまった。
その声がした部屋のドアの方を見ると、鳴海さんが壁に寄りかかって立っていた。
「あ、あれ?なんだ、鳴海さんか」
「兄さん。いつ帰ってきたんだ?」
「ちょっと前にな。なんか凄い悲鳴が聞こえたから見に来たんだけど・・・吉野ちゃんとそれやってたのか」
「吉野がやったことないって言うからやらせてた」
「鳴海さんー。助けてくださいよー」
「ダメダメ。そーゆーことは彼氏の隆夫くんに言わないと効果がないぞ♪」
「あ、鳴海さんは知ってるんですね」
「まぁねー。隆夫が嬉しそうな顔して帰ってきたもんだから、ちょっと聞いてみたら教えてくれたぞ」
「嬉しそうな顔・・・」
その言葉を聞いて長谷川の顔を見る。
相変わらずの無表情だ。
なんとなく喜んでるとかはわかるけど、微妙な表情だけで嬉しそうとかを見抜くのはちょっと難しい。
そこらへんはやっぱり双子のパワーなんだろうか?
私も今後は見抜けるように努力していこうと思う。
「なんだ?なんかついてるか?」
「いや、長谷川の嬉しそうな顔ってどんなんだろって思って」
「嬉しそうな顔か?今は割と嬉しいぞ?」
「いつもと変わらないじゃん」
「アハハハ。まぁ吉野ちゃんも隆夫も精進したまえ。じゃあ俺は部屋に戻るから。あとは二人でごゆっくりー」
そう言って部屋から出ていく鳴海さん。
二人でその背中を見送った。
そして訪れる沈黙。
沈黙に比例するかのように急にドキドキしてきた。
よく考えると、同い年の男子の家に来たのって初めてかもしれない。
正樹の時も行ったことなかったから、長谷川の家が初めてってことになる。
そのせいもあってかドキドキが加速している。
もうすぐで心臓にセカンドブリッドが決まりそうだ。
そんな私に対して長谷川は安定の無表情である。
この鉄仮面め。
私にもその表情筋の使い方教えろ。
「吉野」
「何?」
「べ、勉強するか」
声が上ずっている。
やっぱり長谷川も急に緊張が押し寄せてきたみたいだ。
それを誤魔化すために勉強しようといったのだろう。
「そ、そうだね。本来の目的はそっちだったし」
そう言って部屋の真ん中にあるちゃぶ台に二人で向かい合って座った。
カバンの中から参考書を取り出して、教えて欲しかったページを開く。
教科は数学。
実際問題、他の科目はほとんど暗記問題ばっかりだから、教えてもらわないと理解できそうにないのは数学だけだった。
文系だから物理とかの変な記号とか計算とか使うのも無いからホントに数学だけ。
用意が終わったので、向かいにいる長谷川の方を見る。
「長谷川さん・・・」
「なんだ?」
ホントに緊張してるんだ・・・
いや、ボケてるのか?
「それ算数の教科書じゃん」
ハッとした長谷川は教科書を横に置き、慌てて私が出している参考書を見て無表情で言う。
「どこがわからないんだ?」
「長谷川の頭の中がわからないよ」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると大変喜びます。
一家に一台長谷川が欲しいです。
次回からまた話が動きます。
では次回も楽しみにお楽しみに!