エクストリームサイクロン号
一日に本屋さんを自転車で2往復していることに気づいた私。
これも全て姉である私になにも話さない妹が悪いと思う。
でもあの部屋を見た直後にこのセリフを本人の前で言えるかと言えば、答えは否だ。
それにしてもいつの間に・・・いや、いつからあんなことに・・・。
これはいわゆる『百合』というやつだろうか?
漫画や二次元の世界では馴染み深い言葉だけど、三次元であるこの世界ではあまり見かけない言葉だ。
花の名前は別だけどね。
そしてなんでまた明子に。
これは問い詰めるべきなのか?それとも姉として応援してあげるべきなのか?
うむむむむ。
唸りながらムサイ号を漕いでいると本屋の入口が見えてきた。
入口横にある駐輪所に愛車を止めた私は、店内に入り明子と長谷川を探す。
「あれ?いないぞ?」
店内は一階が書店、二階がレンタルコーナーとなっている。
きっと二階の方にいるのだろう。
そう思って二階に続く階段を登る。
登りきる直前で声が聞こえてきた。
「やっぱりこのシリーズのほうが面白いって!」
「照井はなにもわかってないな。こっちのシリーズのほうが微妙に現実味があって面白い」
「なんの話?」
二人を見つけた私は会話に混ざりつつ合流。
「お、君子。オハヨー。今ね、長谷川くんとこのアニメについて討論してたの」
「なんだ。照井が呼んだのか?」
「まぁね。このあと君子の家に行くし」
「そうだったのか。おはよう、吉野」
「うん。おはよう。二人とも、もう夕方だけどね」
時刻は午後3時をすぎている。
「で、どのアニメ?」
「これ」
そう言って明子が指したのは、脳が電脳化された世界でなんやかんやする警察のお話だった。
明子が好きなのは2期目のほう。テロリストとそれを追う警察の人の話。
長谷川が好きなのは1期目のほうで、天才ハッカーと警察の話。
ちなみに私は長谷川派。
それを伝えると、明子姫はご立腹のようだった。
「なんじゃそれは!後から来た人間に投票権なんぞないぞよ!」
「さすが吉野だ。見る目があるな」
同時に非難の声と称賛の声をいただいた。
光栄でもあり残念でもある。地味に複雑な気持ちだ。
「そういえばうち来るの?」
「まぁ妹ちゃんに呼ばれちゃったしね」
「ふ、ふーん。じゃあ行こっか?」
家を出る前の出来事を思い出して少し怖くなった。
家に帰ったら明子はどうなってしまうのだろうか。
「そうか。なら俺も帰るかな。欲しいのも買ったし」
「へー。何買ったの?」
「ラノベの新刊。ホントは街中の専門店とかに行けばポイントとか特典とかついててお得なんだろうけど、そこに行くまでの電車賃だけで、本がもう一冊買えるからな。特典よりは量だ」
「へー。意外。長谷川って特典とか集めてるようなイメージだった」
「最初のころは集めるために、そーゆー店を回ったりもしたんだが、特典って地味に困るんだ。もらっても使い道がないしとっておいても捨てるのが勿体ないって思っちゃって捨てれなくてドンドンたまってくんだよな」
「あーわかるわ。最初はファイルとかに挟んでいくんだけど、だんだんファイリングするのがめんどくさくなってくるんだよね。早く本も読みたいし」
「はーい!ちょっとストップー!お二人さん。そろそろ行きませぬか?私も生徒が待っているんだが?」
盛り上がってきた長谷川との会話を断ち切るようにケータイの画面を見せてくる明子。
『明子さん。まだですか?一美、待ちくたびれますー』
うわー。なんかブリブリしてるー。
一美ってこんなメール送ってるの?
ちょっとイメージと違うわ。
「というわけで、続きは君子の家でしなさい」
「えっ!?」
口から心臓が出そうになった。いや、一瞬出て戻ったかもしれない。
明子め。最初からこれが狙いだったのか・・・策士め。
それでも心の中で喜んでいる自分が憎いぜ。
「行ってもいいのか?」
「は、長谷川がいいなら来れば?」
「なんでツンデレ?」
「そうか。ならお邪魔させてもらうかな。話すことも山ほどあるからな」
お前どんだけ溜め込んで生活してるんだよ!
もちろん声には出さずに心の中でつっこむ。
それだけ友達がいないってことなのだろう。
友達がいたとしても長谷川の会話についてこられる人種はあまりいないのかもしれない。
そう考えると、私ってオタクで良かった。
思わずニヤける。
「うわー。君子きもーい」
横で明子が何か言っているが、どこ吹く風のごとく無視。
じゃあ行こっか、と言って二人を誘導するように店を出る。
私は駐輪所に止めてある愛車のエクストリームサイクロン号。
明子は電車なので徒歩。
長谷川も自転車。
「照井は歩きか。俺の後ろに乗るか?」
なんですと!?
長谷川の自転車の後ろには荷台がついていて(いわゆるママチャリ)、そこに二人乗りすることができる。
「えー。私重いしー」
「大丈夫。鍛えてないけど力はあると思う」
クネクネしながら言う明子と、それを明らかにツッコミ待ちのボケで返答する長谷川。
私はどうするべきなんだ?
① みんなで歩いて帰る。
② 長谷川の後ろに乗っている明子を羨ましく思いながら帰る。
③ 「明子じゃなくて私を乗せて!」と言って変わってもらう。
④ 明子だけ歩いて帰ってもらう。
うわー。もしも私の脳が電脳化されていて、明子とテレパシーまがいのことが出来たとしたら、多分明子の手によって③にさせられると思うし、かと言って何もしなければおそらく②になることは間違いない。
どうする?どうする私!
あ。思いついた。
「明子。私のに乗りなよ」
そうだった私の後ろにも荷台付いてるんだった。
もっと早く思い出していれば考えなくてもよかったのに。
「あら、そう?君子ちゃんに甘えちゃおうかしら?」
「でも前は明子に譲るけどね」
「殺生なー!」
「重いと思うんならなおさら痩せろ」
そんなに明子自身のことは重いとは思えないけど、自己申告してるなら仕方ないな。
そんなこんなで正解は⑤の『明子が私を後ろに乗せてムサイ号で帰る』でした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると大変喜びます。
すでにわかる人にしかわからないネタの応酬となっていることをお詫び申し上げます。
ですが次回のほうが酷いかも知れないことを先に謝っておきます。
ごめんなさい。
ということで次回もお楽しみに!