私と正樹
私、吉野君子と加藤正樹が出会ったのは高1の2月。
あまり友好の輪を広げない私の、唯一と言ってもいいこの学校での友達の照井明子が風邪で休んだ日のことだった。
明子以外に話す相手があまりいない私は授業と授業の間の休み時間中は、窓側の真ん中の席でボケーっと外を眺めていた。
朝、明子にメールをしてみたけど寝ているのか、未だに返信はない。
病気は寝て治すのが一番だと思うから返信がないのは仕方がない。
今は昼休み。例によって、今も外を見ている。
「今日も雪がすごいや」
教室の中は暖房がついていてとても暖かいが、窓の外から見える風景は白一色だった。
今日はテレビの天気予報通りの猛吹雪である。
いつもなら上から下に降ってくる雪も、風のせいで右から左へと流れている。
この調子だと帰りの電車は全く動いていないかもしれない。
いや、北海道のJRはこんなことじゃ遅れないか。
そんなことを考えながら窓の外を流れていく雪を見ていた。
「あれ。キツネじゃない?」
ふと横から声をかけられた。
声がした方向を横目で確認してみると、窓の柵に手をついて外を見ている男子がいた。
「ほら。どっか行っちゃう」
そう言われて私は慌てて視線を外に向けた。
吹雪のため視界は激悪だが目を凝らして探す。
「どこ?」
「あの木の近く」
言われた木の近くを見てみると、確かに黄土色をしたキツネがいた。
初めて見たわけじゃなくて中学校の時も時々見たことがあったけど、やはり見れると少し嬉しい。
私自身はこの学校に入って初めて見た。
「俺今年初めて見た」
「私も」
「おーい正樹!次移動教室だぞ!」
「うわっ!ちょっと待ってくれよ!ってわけで移動教室だから。吉野さん。遅れたらダメだよ」
そう言って友達のとこへ戻っていく男子。
どうやらボケーっとしていた私に移動教室のことを伝えに来てくれたらしい。
すっかり忘れていたけど次は理科室で実験をするんだった。
いつもなら明子が教えてくれるんだけど今日は居ない。
彼が来てくれなければ、私は授業開始のチャイムが鳴ってから慌てて移動することになっただろう。
ありがたき幸せ。
それにしても全然話したこともないただの同じクラスの女子に話しかけてくるなんて珍しい人だ。
理科室に向かいながらさっきの男子生徒について考える。
同じクラスなんだろうけど名前が・・・たしか『正樹』って呼ばれてたような気がする。
私は名前を覚えるのが苦手だった。
「あの、さっきはありがとう」
今日最後の授業の前の休み時間。
私は彼にさっきのお礼を言った。
私の席は窓側の真ん中ぐらいの席で、彼の席は廊下側の一番後ろの席だった。
「わざわざお礼?別にいいのに」
笑いながら、どういたしまして、と言う彼。
「だって・・・えーと・・・」
「ん?」
彼が不思議そうな顔をする。
「ごめん。名前聞いてもいい?」
「え・・・加藤です」
そりゃ驚くわな。
ほぼ一年間一緒に過ごしてきたクラスメイトの名前もわからないなんてどうかしてると自分でも思った。
「もしかして名前覚えてなかったの?」
「ごめん。私あんまり話さないから」
「いや、いいんだけどさ。でもなんかちょっとショック・・・」
あからさまに肩を落とす加藤君。
なんか・・・ほんとに申し訳ない。
「あ。冗談冗談!吉野さんは気にしないで!」
「なんで私の名前?」
「これが普通だと思うんだけどなぁ」
「私の普通とは・・・私がズレてるのね」
「かもね」
加藤君はそう言って笑った。
「これからもたまに話しかけてもいい?」
「加藤君がいいなら私はかまわないけど」
「ほんと!?良かったー。なんか吉野さんってちょっと近寄りがたい感じだったから断られたらどうしようかと思った」
「そんなに近寄りがたい?」
ちょっとショックだった。
普通に過ごしてるだけなのに。
いや、私の普通はズレてるんだっけ。
「ちょっとね。照井さん以外と話してるのは見たことなかったし、それ以外は頬杖ついて外見てるだけだったし」
「だって明子しか友達いないもの」
「そうなんだ・・・じゃあ僕と友達になってよ」
「そこは契や・・・いや、なんでもない。別にいいけど、友達になってどうするの?」
明子とは共通の話題があるからまだわかるけど、彼は特になにも接点がない。
「仲良くなろうよ。せっかく同じクラスなんだし」
「まぁそれもいいかもね。よろしく、加藤君」
「こちらこそよろしく、吉野さん」
これが私と正樹のファーストコンタクトだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると執筆意欲が高まります。
初めは結構のんびり進めていきます。
気長にお付き合いくださいませ。
次回もお楽しみに!