謎のギャラリー
私と鳴海さんが長谷川のもとに向かったとき、長谷川の周りにはギャラリーができていた。
ギャラリーと言っても10人にも満たない人数ではあるが、ギャラリーはギャラリーだ。
ゲーセンでギャラリーができると言えば、あの踊りながら足でボタンを押していくゲームとか有名な格ゲーの人が来ていてその人見たさに腕を組んだ人たちが集まっているとかはよく聞く話だ。
でも長谷川がやっているのはこの距離から見てもわかるようにUFOキャッチャー。
ギャラリーができるほどのUFOキャッチャーってなんだ?
その答えは長谷川の足元にあった。
「何あれ?」
「隆夫はUFOキャッチャーが凄い得意なんだよねー」
のんきに鳴海さんは言っているが、あの量は半端ない。
機械の前に立って真剣にプレイしている長谷川の足元には大量の袋があった。
1,2,3,4・・・5袋。
ここから見た感じだと5袋は見える。
私が鳴海さんの景品を1つ取っている間のわずか20分ぐらいの時間で5袋分も取ったの!?
きっとギャラリーというよりも野次馬ってほうが正しいのかな?
みんな袋を見てるし。
「おー隆夫。相変わらず大量だな」
「あ、兄さん。ちょっと待ってて」
そう言うとプレイに集中し始めた。
今はさっき私がやってたタイプのUFOキャッチャーで、景品はジョジョのスタンドのフィギュアだった。
しかも私の時よりはまだ取れそうにない。
長谷川は200円を一気に入れると、ポチポチを操作し始めた。
一回目は失敗したが、二回目であっさりとってしまった。
私の時とは違って『ずらしていく』のではなく『持ち上げてずらす』という感じだった。
正直なところ、どうやったのか全然わからなかったけど、ありのまま起こったことを言うぜ!
200円入れてなんか操作し始めたと思ったら、景品が自分から落ちていくようにずれていって落ちたんだ!!
って感想だ。
「やっぱり隆夫はすごいな!」
兄、感嘆。
「今のどうやったの?」
思わず質問する私。
「アームの力と景品の重さを計算して、そこからどこを狙えば一番効率よく落とせるかを導き出したらあとはボタンを正確に押していくだけだろ。そんなにすごいことか?」
「・・・あんたは天才か!?」
簡単そうに言っているが、常識的に考えてそんな計算してる時点で『俺頭イイー』発言だし、正確にボタン押すだけって簡単に言うけど、それが難しいからみんな景品が取りにくいんだろ!
と心の中でつっこむ。
「まぁ成績は悪くないぞ。毎回10位以内には入る」
「長谷川ってそんなに頭良かったの!?」
意外だ。
うちの高校は順位が廊下に貼り出されるようなことはないので、テスト後に受け取る細長い全教科の成績が書かれた紙でしか順位とかがわからない。
私は明子と比べるとかなり上位にいるし、前回の定期テストでも総合で15位に入って明子に自慢していた。
「じゃあ前回の定期は何位だった?」
「あぁ。あれは1位だった」
「1位!?」
あれ?なんか15位で自慢していた自分が恥ずかしくなってきた。
1位で自慢しないとかどんだけ強靭な心を持ってるんだ。
「まぁテストは自分の実力を調べるためのものだからな」
「そ、そうなんですか。今度からは長谷川先生と呼ばせていただきます」
「工場長と呼んでいただきたい」
「生産性の問題か?」
この頭の良さでこのオタク度って反則だよ。
天は才能を与える人材を間違えたらしい。
「隆夫。そろそろ満足した?」
くだらないやりとりをしていると鳴海さんが長谷川に声をかけた。
どうやらUFOキャッチャーをしだすと、声をかけられるまではなかなか自分から帰らないらしい。
なんとも変な性格。もし今度ゲーセンに一緒に来ることがあったら気をつけよう。
それ以前に一緒に来るような関係にならなきゃいけないのか。
「そうだな。そろそろ帰るか」
「私も帰ってケータイの設定とかいろいろしたいし」
「じゃあ帰ったらメールしてやれよ。隆夫」
「いや、アドレスとか知らないし」
「なんと!?」
「そんなに意外か?」
「だってお前。このご時世で友達と言えば最初にするのがアドレスの交換って常識だろ!?」
「どこの世界の常識だ」
「いやいや!隆夫の常識がズレてんじゃないのか?そんなんだから友達ができないんだよ」
「別にそこまでして友達が欲しいわけでもないからな」
長谷川ってやっぱり友達居ないんだ。
まぁ少なくてもいるとは思っていなかった。
「この機会に教えてもらえば?」
「でも吉野はまだケータイ買ったばっかりだぞ?」
「そんなもん紙に書いて渡してやればいいんだよ。ほれ」
鳴海さんはそう言って手帳を差し出して、アドレスを長谷川に書かせる。
カキカキ。
書かせた手帳のページを破って私に渡す。いや、押し付けるように渡す。
「なんて強引な・・・」
「吉野ちゃんも吉野ちゃんだ。少しは行動しなさいな!とりあえず帰って設定終わったらメールしてね!」
じゃ!と言って歩き出す鳴海さん。
「なんか悪いな。兄さんは少し強引だから。気がむいたら送ってくれ」
「別に気にしてないよ。とりあえず設定が終わったら送るよ」
そうかと言って鳴海さんを追いかける長谷川。
顔は似てるのに中身は全然違うなぁ。
そんなことを思いながら、思わず手に入れてしまった意中の相手のアドレスが書かれた紙を見た。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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次回もお楽しみに!