ストックホルム症候群
私と長谷川兄弟は近くのオムライス屋にに入った。
話を聞くと、あそこの電気屋さんの上のほうの階に、あの有名なモンスター育成ゲームのショップがあるらしい。
そこに二人で買い物に来ていたとのこと。
鳴海さんのほうが好きらしく、長谷川はただの付き添いだそうだ。
ちなみに呼び方は長谷川は長谷川。お兄さんのほうは鳴海さんで定着した。
「えーと、なんて呼べばいいですか?」
「じゃあグリーンで」
「え?なんでライバル?」
「おぉ!ホントに引き出しすごいね!ここまで知ってるとは。じゃあ鳴海さんでお願いします」
「わかりました。鳴海さんですね」
「それと一応同い年だから敬語は無しね」
「あ、ホント?ちょっと辛かったんだよねー。同い年に敬語とか」
「あれ?結構順応早い?」
「兄さん。そこは突っ込まないと」
「え?どういうこと?」
オムライス屋に向かう時にそんなやりとりがあった。
その時にひとつ分かったのが、鳴海さんは私や長谷川ほど引き出しが多くないらしい。
主にゲームが大好きで、一番がDSのモンスター育成ゲームというわけらしい。
ってゆーかあの一連の流れで気づいた長谷川はすごいな。さすが私の見込んだ男だ。
そして各自オムライスを注文し今に至る。
「ところで吉野ちゃんは何してたの?」
4人がけの席の向かいに長谷川兄弟が座っている。
顔はほぼ同じ作りだけど、表情が全然違うから見分けられないことはない。
左が兄、右が弟。
「ケータイが壊れてたから新しいのを買ったの」
「へー。どんなやつ?」
「さぁ?なんか赤いやつ」
「え?どういうこと?」
よく頭に『?』マークを浮かべる人だ。
今日だけでこのセリフ2回目だ。
私は隣に置いていた紙袋からケータイを取り出す。
鳴海さんに箱ごとわたした。
「なんかどれがいいのかわからなかったから適当に近くにあったやつにしたんだ」
「すごい選び方だね・・・。隆夫。吉野ちゃんってこんな感じなの?」
「いや、これは俺にもよくわからん。でもいろいろと適当なところもあるな」
地味に『適当』ってひどいな。
見てもわからなかったのか、箱を私に返してくる。
「へー。吉野ちゃんってB型?」
「A型」
「えー!意外だわ!」
「エー型だけにですね。ナイスリアクション!」
「さすが兄さん!」
「そんなつもりなかったわ!」
親指を立ててグットサインを出した私たちを鳴海さんがつっこむ。
鳴海さんはよくしゃべる人だ。
多分生まれるときに、長谷川の分も鳴海さんが持っていってしまったのではないかというほどによくしゃべる。
そのかわり長谷川はボケに専念(?)していた。
私からしてみれば、長谷川は私のピンポイントのボケによく気づくやつだと思う。
さすが私の元ストーカーだ。
そう考えるとストーカーに恋をしている私って、あのストックホルム症候群ってやつなんじゃないか?
いやいや。そんなことないさ。
「でもなんで血液型?」
「特に意味はないよ。なんとなく聞いてみただけ。でもA型には驚いた」
「俺も兄さんのリアクションに驚いた」
「だまらっしゃい」
「私、よくB型と間違われるんだけど」
「でもわかるもん。B型っぽいもん」
「そんなにかなぁ?」
「自分のことは意外と気づかないもんだよ。ね、隆夫?」
「何が?」
「こっちの話ー」
首を傾げる長谷川に笑顔の鳴海さん。
ここでオムライス登場。
私のはホワイトソースとデミグラスソースの二色のソースがかかったオムライス。
鳴海さんのはデミグラスソースたっぷりのオムライス。
そして長谷川のは・・・なんだこれ?天津飯?
「長谷川・・・天津飯頼んだの?」
「!?」
「ちょっ!吉野ちゃん!ゲホゲホ」
驚いてこちらを見る長谷川と、一口目を食べた時に変なところに入ったのか、猛烈に咳き込む鳴海さん。
だって長谷川が頼んだのってどう見ても天津飯だもん。
あんかけっぽいやつの上に、若干半熟気味の卵がかかったオムライスってどう見ても天津飯じゃん。
「この揚げなすとあんかけオムライスは美味しいんだぞ」
「天津飯じゃなかったんだ」
「一見ミスマッチと思うけどいざ食べてみるとあんかけが和風で天津飯にかかっているあれとは全然違うしこの揚げなすがうまい」
無表情+一息で言い切ると、オムライスを口へと運び、パクリと一口。
モグモグモグと咀嚼しながら頷き、ゴクリと飲み込む。
そして言う。
「目覚めよ。バッカス」
「食べる前に言えよ」
長いボケでもちゃんと突っ込むのを忘れない。
さすが私。うん。ツッコミの才能あるのかもしれないな。マンガとアニメとゲームネタに限るけど。
「ゲホゲホゲホゲホゲホ」
鳴海さんはまだむせていた。
長谷川が背中をさすった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると執筆意欲が高まります。
今回は小ネタが多いです。
全部わかるかな?
次回もお楽しみに!