ケータイ
「何読んでるの?」
「ん?新しいケータイのカタログ」
暦は7月の下旬。
今日、終業式が終わって、明日から夏休みだ。
長谷川といろいろ話したあの日から一ヶ月が経った。
あの日以降、特に何も進展がないまま一ヶ月が経った。
長谷川に対する気持ちに気づいてから一ヶ月が経った。
・・・ホントに何もなかったなぁ。
そんなことを考えながら私は、家の居間で新しいケータイを買おうとカタログをペラペラとめくっていた。
学校帰りに近くの電気屋さんでもらってきた。
隣で夜ごはんがもうすぐできると聞いて二階から降りてきた一美がテレビを見ている。
ケータイを壊してからケータイの無い生活を続けていたけど、夏休みに入ってから明子と連絡が取れないのはちょっと寂しかったので買うことに決めた。
「それにしてもどれがいいのやら・・・」
まずケータイ会社だけでも3社。
さらにその中でも似たようなケータイがたくさん。
そしてさらにスマートフォンがたくさん。
もうわけがわからないよ。
一美は上にカシャンって出るタイプのスライド式ケータイを使っている。
「ねぇ一美。どれがいいと思う?」
「それくらい自分で決めなよ。困ったら見た目で決めちゃえば?」
「見た目ねぇ・・・」
どうせどれを選んだって結局は『慣れ』だしねぇ。
よし。決めた。明日見に行ってこよう。
「一美。明子に『明日暇だったらケータイ見にいかない?』メールして」
「いいけど・・・明日必ず決めてきてよね」
「なんで?」
「夏休み中ずっと私が明子さんとお姉ちゃんの中継するなんて嫌だもん」
「えー別にいいじゃーん」
「なにそれ。なんかお姉ちゃんキャラ変わったよね」
「え?そんなことないよ?」
「・・・そんなことあるから言ってんじゃん」
私は別に変わったつもりなんてないんだけど、明子にも同じことを言われた。
やっぱり恋をすると人って変わるんだろうか?
まぁいいや。
「あ、返事きた。プッ!断られてるし!『ごめん、明日は無理だわ』だってさ」
「ナンテコッタイ。仕方がないけど一人で行ってくるかな。一美も来る?」
「行かない」
「冷たいなぁ。ツンデレかよ」
「デレはしばらく来ないけどな」
「ごはんできたわよー」
「「はーい」」
そして次の日。
一人で街中まで出てきた。
すこぶる暑いのでなるべく外には出ないようにしつつ電気屋を目指す。
最近の札幌駅周辺は地下道が発展しすぎていて、外を出なくても大通公園の少し向こう側まで行ける。
一人で街中に出てきたのって久しぶりかも。
高校に上がる前はよく一人で来てたけど、明子と友達になってからは二人で来るのが当たり前だった。
「えーと電気屋さんは・・・」
いろんなところに貼られている案内板を頼りに電気屋までたどり着いた。
そして目の前に広がるケータイコーナー。
うん。まったくわからん。
これどれがいいんだろ。
店員さんと話すのが苦手なので、近づいてきた気配を感じ取りながら、逃げるようにいろんなケータイを見ていく。
でもこれといってピンとくるものがない。
スマートフォンも見てみたけど、私にはまだ早いと思う。使いこなせる自信がない。
「うーん・・・」
立ち止まっていると店員さんが近寄ってきた気配を感じたので、また足を動かして移動する。
店員さんが居なくなれば早く決まる気がする。
店員よ。いなくなれー。
そんな願いは通じず、また気配を感じて逃げ回る。
そしてついにはめんどくさくなってきた。
10分ぐらい歩き回ったのにピンとくるものがなかったせいか、どのケータイでもよくなってきた。
近くにあった赤いケータイに決めた。
赤は3倍早いからな。
「あのすみません」
「はい」
「これください」
「かしこまりました。少々お待ちください」
「ありがとうございましたー」
無事購入。
帰っていろいろと設定しよっと。
時計を見ると時刻は午後1時。
ちょっとお腹空いたなぁ。
そう思っていると、目の前のエスカレーターから見知った顔の人が降りてきた。
「あ。長谷川だ」
どうやらこちらの存在には気づいていない様子。
こちらキミーコ。
いつも背後に急に現れて驚かされるから、逆に驚かせたいと思う。
よし。作戦開始。
頭の中で一人会議を行い、長谷川の真後ろまで来た。
長谷川の驚く顔を想像して少しニヤける。
「長谷川!」
少し大きめの声で名前を呼んだ。
期待を見事に裏切って、特に驚いた様子もなく振り向く。
「えーと・・・どちら様ですか?」
・・・あれ?
もしかして人違い?
でも長谷川にしか見えない・・・
「え?あれ?」
でもたしかにいつもの無表情な長谷川と違って表情がある。
それに微妙に目の大きさとかも違う気がする。
「あのー・・・あ。もしかして吉野ちゃん?」
吉野・・・ちゃん?
見た目がほぼ長谷川な人にちゃんづけで呼ばれるとなんかムズムズする。
しかもめっちゃ笑顔。
「あ、はい・・・」
「やっぱりそうか!いやーホントに可愛いねー。なんか守ってあげたくなる感じわかるわー!」
「???」
「兄さん。吉野が困ってるじゃないか」
ふいに後ろから声がしたので振り向くと、もう一人の長谷川が立っていた。
「えっ?えっ?」
困惑した私は前の笑顔の長谷川と後ろの無表情の長谷川を交互に見る。
「は、長谷川が二人・・・?」
「吉野。落ち着け」
「そうそう。吉野ちゃんは少し落ち着こうか」
なんだこれ。
「吉野。こいつは俺の双子の兄の長谷川鳴海だ」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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次回もお楽しみに!