プロローグ
私が今いる状況って、胎児が母親のお腹の中に浮いてる状況と、まるでいっしょだと思う。
私の周りは、粘度の高い液体で満たされていて、暖かくて、幸福。
この、透明な、筒のような形をしたクリスタルルームに、なぜ私が閉じ込められているのかは分からない。
私はまだ生まれる準備が出来ていないのだろうか。
クリスタルルームの外にいるケヴィンに聞いてみたい。
だけど、口や鼻にに取り付けられるいるたくさんのチューブのせいで、それは無理。
そもそも、私は声の出し方すら知らない。
だけど言葉なら知っている。
ケヴィンが、クリスタルルームの傍のアームチェアに腰掛けて、無言の私に四六時中話しかけてくれるから。
クリスタルルームの外を行き来する忙しそうな人達は、ケヴィンの事を不思議そうな目で見るけれど、
私はケヴィンのおかげで、たくさんの事を知ることが出来た。
外の世界には、天井がない事。世界はすべて、宇宙で繋がっていること。
暖かさ、寒さ、喜び、悲しみ、光、色、風。
だけど、一つだけ分からない事がある。それは、私が一体何者なのか。
ケヴィンは、それについて、一言も語ろうとはしなかった。
あるいは、語っていたのかもしれない。
ケヴィンが、私を見つめる時の、悲しそうなブルーの瞳が、その多くを。