第三章:三振アウト!それでも僕ちゃんは平気だよ
比例院選挙まで残り1か月。がんばる党の選挙準備は悲惨な状況だった。
「党首、候補者が集まりません」
選対委員長の佐藤が困り果てて報告した。
「なんで?」
「2連敗の責任を取ってもらわないと、出馬できないという人が多くて...」
「責任?まだ2ストライクでしょ?」
民意党首は野球理論で反論した。
「でも普通、2回連続で大敗したら...」
「普通の常識は僕ちゃんには当てはまらないの」
相変わらず自分だけは特別扱いだった。
「今回の勝敗ラインはどうしますか?」
「そうねぇ...現在15議席だから、10議席取れれば大勝利ってことにしよう」
また下げた。しかも今度は「大勝利」という言葉まで使った。
「10議席で大勝利?」
「そうだよ。ハードルを下げれば、クリアしやすくなるでしょ?僕ちゃんの戦略だよ」
選挙戦が始まると、野党は徹底的にがんばる党を攻撃した。
「2回も国民に見放された党首が、まだ続投している異常事態」
「責任を取らない政治家に政治を任せられますか?」
効果的な批判だった。
一方、民意党首の選挙演説は相変わらずだった。
「僕ちゃんは2回頑張りました!3回目も頑張ります!」
「頑張って負けたんでしょ?」
聴衆からヤジが飛んだ。
「負けてないよ。野球で言えば、まだ2ストライクだから」
「3ストライクでアウトですよね?」
「でも振り逃げもあるからね。まだわからないよ」
聴衆は呆れ果てていた。
選挙戦中、民意党首は新しい理論を展開した。
「みんな野球のルールに縛られすぎだよ」
記者会見で突然言い出した。
「どういう意味ですか?」
「3ストライクでアウトって、誰が決めたの?」
「野球のルールですが...」
「ルールは変えられるでしょ?5ストライク制にすればいいじゃない」
記者たちは言葉を失った。
「選挙と野球は違います」
「同じだよ。どっちも勝負でしょ?」
「ルールを変えることはできません」
「できないなんて決めつけないで。僕ちゃんは可能性を信じてるの」
最後まで現実逃避を続けた。
比例院選挙の結果は、予想を上回る大惨敗だった。
がんばる党:15議席→6議席(9議席減)
勝敗ライン(10議席)を大幅に下回る壊滅的敗北だった。
「これで3連敗ですね」
佐藤選対委員長が暗い声で報告した。
「3連敗?野球で言えば三振だね」
「はい、三振です。アウトです」
「アウト?」
民意党首は首をかしげた。
「でも僕ちゃん、まだバッターボックスにいるよ?」
「比喩ですよ。責任を取って辞任すべきだという意味です」
「辞任?なんで?」
民意党首は本当に理解していなかった。
緊急の党大会が開かれた。
「民意党首、3連敗の責任をどう取りますか?」
党員から厳しい質問が飛んだ。
「責任?僕ちゃんは頑張ったよ」
「頑張って負けたんです」
「負けたって言うけど、6議席も取れたじゃない」
「15議席から6議席に減らして...」
「減ったのは悪い議員が淘汰されただけ。良いことだよ」
屁理屈は健在だった。
「もう辞任してください」
「辞任しないよ。だって僕ちゃんは悪くないもん」
「3回も大敗して?」
「3回?そういえば、『七転び八起き』って言葉があるよね」
突然、ことわざを持ち出した。
「七転び八起きですが...それが何か?」
「僕ちゃんはまだ3回しか転んでないよ。あと4回転べるの」
ことわざを都合よく解釈していた。
「七転び八起きは、何度失敗しても諦めないという意味で...」
「そうそう!だから僕ちゃんは諦めない。あと4回まで大丈夫だよ」
党員たちは唖然とした。
「でも3連敗は異常事態です」
「異常?僕ちゃんから見れば普通だよ。みんな騒ぎすぎ」
その日の夜、民意党首は記者会見を開いた。
「本日は皆様お疲れ様でした。僕ちゃんです」
いつものように人懐っこい笑顔で始めた。
「3連敗について一言お願いします」
「3連敗?野球で言えば三振だね。でも僕ちゃんはまだ打席に立ってるよ」
「三振したらアウトでしょう?」
「でも次の打席があるじゃない。僕ちゃんは4番バッターだから、何回でも打席に立てるの」
野球のルールを完全に無視していた。
「責任を取って辞任する考えは?」
「ないよ。だって『七転び八起き』でしょ?僕ちゃんはまだ3回しか転んでない。あと4回は大丈夫」
またことわざの曲解だった。
「普通、政治家は1回の大敗で辞任しますが」
「普通?僕ちゃんは普通じゃないから特別なの」
最後まで自分だけは特別という理屈だった。
記者会見後、ネット上では「僕ちゃん語録」が話題になった。
「振り逃げ理論」 「七転び八起き曲解」 「4番バッター永久権利」 「調整ライン無限下げ」
どれも常識では考えられない屁理屈ばかりだった。
しかし、民意党首は意に介さなかった。
「みんな僕ちゃんの戦略を理解してないだけだよ」
翌日、ついに党内から反乱が起こった。
「民意党首に辞任を求める要望書を提出します」
30名の党議員が連名で要望書を提出した。
「辞任要求?なんで?」
「3連敗の責任です」
「責任って何度も言ってるけど、僕ちゃんは悪くないよ。悪いのはシツゲン議員と裏金議員と応援議員と談合議員と...」
部下の名前を延々と挙げ続けた。
「でも党首として...」
「党首は指揮官だから戦わないの。戦って負けたのは兵隊さんでしょ?」
軍隊理論まで持ち出した。
「指揮官の責任もあります」
「ないよ。僕ちゃんは完璧な指示を出したもん」
最後まで自分の非を認めなかった。
結局、党内の圧力で民意党首は一時的に党首職を「休職」することになった。
「辞任じゃないよ。休職だからね。僕ちゃんはまた戻ってくるの」
休職発表の記者会見でも、強がりを続けた。
「三振アウトですが、まだ試合は続いてるから。僕ちゃんの出番はまた来るよ」
最後まで野球理論だった。




