第一章:敗北ライン下げ下げ大作戦
蓬莱国与党「がんばる党」の党本部は、重苦しい空気に包まれていた。3か月後に控えた人民院選挙の情勢が芳しくないのだ。
「党首、最新の世論調査です」
幹事長の田中が青い顔で報告書を差し出した。
「どれどれ...」
民意無私郎党首は、のんきに資料を眺めた。身長165センチ、体重85キロの丸々とした体型に、いつも人懐っこい笑顔を浮かべた65歳の男性である。「僕ちゃん」という一人称を使い、どんな深刻な場面でも楽観的な態度を崩さない不思議な政治家だった。
「支持率28%...前回から5ポイント下落ですね」
「うーん、厳しいねぇ。でも僕ちゃんは負けないよ」
民意党首の反応は相変わらず能天気だった。
「党首、今回の選挙の勝敗ラインをどう設定しますか?」
選対委員長の山田が質問した。
「勝敗ライン?そうねぇ...」
民意党首は天井を見上げて考えた。
「現在120議席だから...90議席取れれば勝利ということにしよう」
「90議席?それは30議席減ですが...」
「大丈夫、大丈夫。下げれば達成しやすくなるでしょ?」
単純な理屈だった。
しかし、選挙対策を担当する議員たちの顔は暗かった。特に問題となっているのが、党内の問題議員たちである。
「シツゲン・ヤラカシ議員の失言問題が響いています」
「裏金・ゴンゾウ議員の資金問題も」
「ゲンピョウ応援・タロー議員の選挙違反疑惑も」
次から次へと問題が報告された。
「みんな心配しすぎだよ。僕ちゃんは悪いことしてないもん」
民意党首は他人事のような態度だった。
「でも党首として責任が...」
「責任?僕ちゃんが何したって言うの?悪いのはそいつらでしょ?」
完全に部下に責任転嫁していた。
選挙まで1か月、民意党首は楽観的な見通しを発表した。
「僕ちゃん予想では、85議席は確実だね」
勝敗ラインをさらに5議席下げていた。
「党首、それでも厳しいのでは?」
「じゃあ80議席」
また下げた。
「それでも...」
「75議席でどう?」
際限なく下げ続けた。
選挙前日、最終的な勝敗ラインは65議席まで下がっていた。現有議席の半分近くである。
「これなら絶対に達成できるよ。僕ちゃんの作戦勝ちだね」
民意党首は自信満々だった。
しかし、選挙結果は想像を絶する惨敗だった。
がんばる党:120議席→48議席(72議席減)
勝敗ラインの65議席を大幅に下回る歴史的大敗だった。
「これは...」
党本部は葬式のような雰囲気になった。
「党首、責任を取って辞任されますよね?」
幹事長の田中が恐る恐る尋ねた。
「辞任?なんで?」
民意党首はけろっとしていた。
「72議席も減らして...」
「でも48議席も取れたじゃない。悪くないよ」
信じられない発言だった。
「勝敗ラインの65議席を下回ってますが」
「あ、それね。ライン下げちゃった。45議席にしよう」
負けてからラインを下げるという前代未聞の暴挙だった。
「そんなのありですか?」
「だって野球でもあるでしょ?振り逃げとか」
意味不明な比喩だった。
「これは振り逃げではありません」
「でも三振でもまだアウトじゃないよ。次があるからね」
民意党首は全く反省していなかった。
こうして、蓬莱国政治史上最も図々しい党首の「三振でも僕ちゃんがんばる」宣言が始まった。




