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私の彼氏は首なしダンサー  作者: 桜森よなが


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第7話 テケテケとモナリザ

 花子さんについていくと、彼女は旧校舎の四階へと向かった。

 そこに着くと、彼女がいきなり立ち止まったので、私はぶつかりそうになってしまう。


「わ、どうしたんですか、急に……他の幽霊のところ、行かないんですか?」

「ああ、待ってたら来るからな、ほら、来たぞ」


 と言って、花子さんが指さした廊下の奥を見ると、テケテケテケ……と奇妙な音がして、だんだんその音が迫ってきて……やがて音を出していた奴が姿を現した。


「ひっ」


 私は小さく悲鳴を上げてしまった。

 そいつは女子の制服を着ていて長い髪を振り回しながらこちらに来ているのだが、なんと両脚がなかった。

 意味が分からないが、両腕を使って彼女は走っているのだ。


 その動きの不気味さといったら……

 逃げよう、と思って足を少し後ろに引いたら、花子さんに見抜かれたのか、彼女に腕を掴まれた。


「ビビってんのか? 大丈夫だ、あたいがいるから」


 ほんとかな、と思っていたら、こちらまで来たその幽霊が、私の隣にいた首なしの幽霊――赤崎君に飛び掛かった。

 赤崎君は右腕でその体当たりを防ぐと、両脚のない幽霊は彼の腕に掴みかかって、ギザギザした歯で噛みつこうとする――


「やめろ、美津子!」


 花子さんが後ろから彼女を羽交い絞めにし、赤崎君から引き離した。


「え、花子さん、どうして、こいつにちょっと痛い目にあってもらうんじゃ……」

「それはなしだ、こいつは悪い奴じゃないからな」

「……花子さんがそう言うなら」


 と渋々といった様子で、美津子というらしい幽霊が花子さんの言うことに従った。


「花子さんがああ言うからこれ以上は何もしないけど、私にずっと挨拶に来なかったこと、許してないからね?」


 と彼女が赤崎君を睨む。花子さんがやれやれといった感じで溜息をついて、


「赤崎、感謝しろよ、あたいがいなきゃ、おまえ、やばかったぞ」

「あ、ありがとうございます、花子さん!」

「礼はいいから、早く美津子に挨拶しろ」

「あ、はい、あ、あの、テケテケさんですよね?」

「幽霊になってからはそう呼ばれているわね」

「そ、その、挨拶しに行かなくてすみません、俺、幽霊の界隈に詳しくなくて……でも、その、あなたのことは、ずっと憧れていました!」

「なに? あなた、私のファンなの? そういうことなら仕方ないわね、許してあげるわ」

「ありがとうございます! そ、その、握手してもらっていいですか?」

「いいわよ」


 赤崎君と彼女が握手を交わす。

 首のない幽霊と下半身のない幽霊の握手……なんだかすごい光景だ。

 花子さんがそれを見て、満足そうに二回頷いた。


「よかったよかった、でも、赤崎、今後は失礼なことしないように気をつけろよ。こいつ――美津子は顔は優しそうだけど、めちゃくちゃ武闘派だからな。生前、あたいは美津子と同じレディースにいたからよく知ってるんだが、男が相手だろうと平気で喧嘩売りにいってたからな、こいつ」


 花子さんの発言を受けて、美津子さんの方をよく見てみると、垂れ目ぎみで、おっとりとした顔をしていた。

 たしかに、性格が穏やかそうな美人だ。今まで動きがあまりにも不気味だったから顔にまで注意が向かなかった。


「もう、花子さん、よしてくださいよ、そんな昔の話は」

「いいじゃないか、懐かしいな……あたいが総長でお前が副長で、よく一緒に盗んだバイクで走り出してたよな」

「そうですね……あの頃に戻りたいってたまに思ってしまいます」

「そりゃあ戻りたいよな、おまえ、交通事故でそんな体になっちまったし……今思うとバイク盗んだ罰が当たったのかもな、はははは!」

「そうかもしれませんね、あはははは!」


 と美津子さんも花子さんにつられるように笑っている。

 いや、笑い事じゃないでしょ……。

 と少し引いていると、花子さんが私の方を見て、


「そうだ、えーと、おまえ、なんていうんだっけ?」

「す――」

「まこりんです」


 花子さんからの問いに私が鈴木と言おうとしたところ、遮られて、赤崎君がそう答えた。

 いや、別にまこりんでいいけどさ、なんであなたが答えるのよ。


 と思って、赤崎君を軽く睨む。


「まこりん、お前も、訊きたいことあるんだろ?」


 と花子さんに言われたので、私はテケテケである彼女の方を向いて、


「あの、美津子さん、この学校に白装束の女の幽霊と、不気味なダンスを踊っている女の幽霊が出るという噂があるんですけど、心当たりないですか?」

「んー? そんな幽霊知らないけどなー」


 と美津子さんは首を傾げている。


「お前も知らないか……なら他のやつのところへ行くぞ」

「あ、花子さん、私も行きます」


 歩き出す花子さんに美津子さんがついていく。

 私と赤崎君も慌ててその後を追った。


 五分ぐらい歩き、私たちは1階に降りていた。そのまま廊下を進んでいくと花子さんが一階の美術室の前で立ち止まった。


 美術室……たしか、モナリザの絵がまばたきするとか、そういう話が七不思議のひとつとしてあったはずだ。


 花子さんが引戸を開けて、室内に入ると、私たちも後に続く。

 その教室の最奥――黒板や教卓がある方とは反対側の所まで花子さんは進むと、そこの壁に飾られていたモナリザの絵に語りかけた。


「おい、いつまで黙っているんだ」


 花子さんがそう言って少しした後、

 

「ぎゃはははは!」


 いきなり、モナリザが目と口をこれでもかと大きく開いて笑いだした。

 花子さんが目を鋭く細める。


「ああ? なに笑ってんだよ」 

「だって、スケバンとテケテケと首のない全裸のマッチョが一緒にいるという絵面が面白すぎて、ぎゃはははは!」


 モナリザがそんな顔して笑っているというのも、それに負けないくらい面白い気がするけど……と私は心のなかでツッコミを入れる。


 まったく、いったいなんなんだ、この人は……。

 モナリザがまばたきするって聞いていたけど、もっとヤバイことになっているじゃない。


「殺すぞ?」


 と花子さんがドスの利いた声で言った。美津子さんも怖い顔をしている。


「ごめんなさーい、悪気はないのよ、で、なんか用ですか?」

「ああ、挨拶が遅れたこと、こいつが謝罪したいってよ」


 と花子さんが赤崎くんを指し示す。


「すいませんっしたあ!」


 と彼は勢いよく体を折り曲げた。


「べつにいいよ、面白いものが見れたしね、ぎゃははは!」


 モナリザの顔でそんな爆笑するの、イメージが崩れるからやめてほしいんだけどな。

 と思っていると、他の皆も同じことを考えていそうな顔をしていた。


「まあ、あたしはあんまそういうの気にしないけど、うるさい人もいるから今後は注意した方がいいよ?」

「わ、わかりました、ご忠告ありがとうございます!」


 赤崎くんが姿勢を正した後、また体を折り曲げて礼をした。


「あ、あとさ、白装束を着た幽霊と、なんだっけ、変なダンスをしている女の幽霊? がいるらしいんだけど、おまえ、知ってる?」

「えー、そんなやついるの? 知らないなあ」


 と花子さんの問いに、彼女は少し考え込む素振りをした後、答えた。

 花子さんはそんなモナリザの絵を見て嘆息し、


「やっぱ知らないか、正直、お前にはあまり期待してなかったけど」

「えーなんかひどくない?」


 とモナリザが唇を尖らせる。

 

「用はそんだけ? ほかになんか訊きたいことある? なんでもいいよ?」


 と言うので、どうしても気になったことを私は訊いた。


「あ、あの、あなたはなんでそんな姿に……」

「あ、気になるよね、やっぱり、まあ、あたしもなんでこうなってるかよくわかんないんだけどね! なんかさ、生きてた時に、超好きなミュージシャンがいたんだけど、その人なぜか急に自殺しちゃってさ、あたし、それ知ってチョベリバって感じになっちゃって、あたしもあの人の後を追って死んでやるぅって思って、学校の屋上から飛び降りたら、いつの間にかこんな姿になってたの、チョー不思議だよね? ぎゃはははは!」


 たしかに、チョー不思議だ。


「今はなんで死んじゃったんだろ、あたし、チョーバカじゃね? て思ってる。でも、今は今でこうやって面白いもの見れるし、ここにきたやつびびらせるのも楽しいし、チョベリグって感じだよ!」


 とモナリザが目と口を線にして笑う。

 もう、モナリザの芸術的な顔が原型をとどめないくらいにめちゃくちゃだよ。

 まあでも彼女が幸せそうなのはよかったかな。


「それにしても、ほんとなんでこんなやつがモナリザの絵になったんでしょうね?」


 と美津子さんが呆れた表情で言うと、


「さあー、あ、でも、あたし、生きてるとき、モナリザの絵を見て、なにこの人、チョー美人! あたしこの人になりてー! て思ってたから、神様がその願いを叶えてくれたのかも、ありがとねー、神様ー!」


 そんな理由でモナリザの絵になったとは思えないし、思いたくないよ……。


 花子さんが疲れた表情をして、

 

「そっか、わかった、ありがとな、じゃ、そろそろ行くわ」

「皆ーまた来てねー!」


 モナリザが手をブンブンと振ってきた。

 だからやめてほしい。元の絵のイメージをめちゃくちゃにするの。

 まあでも彼女にそんなこと言っても無駄だろうな、と思いながら、私は美術室を出た。


「あいつといると調子狂うな……気を取り直して次の幽霊のとこ行くぞ」

 

 花子さんが一旦立ち止まって頭をわしゃわしゃと掻いた後、再び歩きだした。

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