第6話 花子先輩
翌日。
兄さんのおかげで気分転換ができたので、今日は目覚めが良く、さわやかな朝を迎えることができた。
ルンルンとステップしながら学校へ行き、教室へ入ると、重黒木さんと白岸さんが何らかの話で盛り上がっていた。
「重黒木さん、あれ、やばいよねー」
「ねーまじやばいよねー!」
「やばすぎるよねー」
「やばやばだよねー!」
……いったい何の話をしているんだろうか。二人とも、ちゃんと人間の会話をしてほしいな。
「何がやばいの?」
「あ、まこりん、おっはー、それがねー、最近、旧校舎でやばい幽霊が出るって話があってね」
と白岸さんが怖がりながらもどこか楽しそうに話す。
「やばい幽霊? 首がないダンサーのことじゃなくて?」
「うん、それとは別で、なんか白装束を着た長い髪の女の幽霊が出るって話。なんかね、包丁を持ってうろついてるらしいの、怖いよね」
と重黒木さんがぶるぶると体を震わせながら言う。
なんていうか、いかにもホラー作品に出てきそうな姿の幽霊だな……。
と思っていると、私たちの話を聞いていたのか、こちらに黄山さんがやってきた。
「なになに、怪談話?」
「あ、うん、興味ある?」
「あるある」
私の問いに、彼女は白い歯を輝かせながら笑って答えた。
私は黄山さんに説明する。
「なんか、旧校舎に白装束を着た長い髪の女の幽霊が出るらしいの、包丁も持っているとか」
「ああ、それ、聞いたことあるよ。この前、ある男子生徒が首のない死体で発見された事件が起きただろう? その生徒を殺したのがこの白装束の女なんじゃないかって、噂があるんだ」
「犯人は幽霊ってこと? じゃあ私たちもそいつに殺されちゃう可能性があるんだ、怖いね……」
私はぶるっと少し震えてしまう。
もう旧校舎行くのやめようかな……。
赤崎君なら、私に何かあっても、守ってくれるだろうか?
そんなことを考えていた私に、追い打ちをかけるように怪談話がもう一つ話題に上がった。
「あ、あと、もう一つ、幽霊の目撃情報があるんだ」
と重黒木さんが言う。
え、まだ他にも幽霊がいるの?
「昨夜、旧校舎で不気味な踊りをしている女の幽霊が出たんだって。この学校の制服を着ていて、なんかめちゃくちゃ運動神経が悪そうなぎこちない動きをずっとしていたらしいよ」
と重黒木さんが声を少し震わせながら言う。
そんな幽霊がいるんだ、もし遭遇したら、どうしよう?
旧校舎に行くのがちょっと怖くなっちゃったな。
とはいえ、赤崎君が待っているだろうし、行かないわけにもいかないよね。
それに、この件について話しておいた方がいいと思うし。
ということでその日の放課後、図書室で外が暗くなるまで時間をつぶして、それから旧校舎へ行き、赤崎君に会うと、私は噂の件について話しておいた。
「白装束を着た女の幽霊が出るって噂になっているんだけど、知ってる? なんか包丁を持ってて、赤崎君を殺した犯人という説まであるんだけど……」
「白装束の女の幽霊? そんな奴、見たことも聞いたこともないけどな」
と腕を組んで、彼は何やら考え込んでいるような様子だ。
「あ、そうだ、あとね、なんかめちゃくちゃ運動神経が悪そうな、ぎこちない動きのダンスをずっとしている女の幽霊も昨日、この旧校舎で出たらしいの、どうしよう、赤崎君、怖くて私、もう集中して踊れないよ」
「まこりん、それはおそらく……いや、なんでもない」
何か言いかけて、やめた。
何よ、気になるじゃない。
「うーん……他の幽霊にも訊いてみたほうがいいかもな」
考えこむような仕草を少ししたあと、赤崎君がそう提案してきた。
「他の幽霊?」
「ああ、この学校にはたくさんいるぞ、俺は死んだばかりだから、ここにいる全ての幽霊を把握しているわけじゃないけどな、今から会いに行くからまこりんもついてきてくれ」
と赤崎君が歩き出したので、私は後を追った。
彼についていくと、二階に降り、突き当りにある、女子トイレの前にたどり着いた。
そのまま、彼は中に入ろうとする。
――て、だめでしょ、それは!
「ちょっと、そこ女子トイレだよ、なに平然と入ろうとしてるの!?」
「大丈夫だよ、俺、幽霊だから」
「いやいや、幽霊でもダメだよ、誰が許しても私は許さないからね、入った瞬間、軽蔑するから!」
「そうは言っても、ここに会いたい人がいるんだよ」
と言って、彼は女子トイレに入っていく。
が、すぐに何者かによって蹴り飛ばされた。
べたんんっと赤崎君は大げさに尻餅をつく。
一瞬、なにが起きたかわからなかったけど、倒された赤崎君の向こうに、スケバンってかんじの見た目をした女の子がいた。
「赤崎、お前、女子トイレの中に入ってくんなって言っただろ」
「すす、すみません、花子先輩!」
と赤崎君が立ち上がり、そのスケバンっぽい子に向かって勢い良く腰を折り曲げている。
「花子?」
と私がその女の子を見ながら首を傾げていると、
「バカ、先輩かさんを付けろ、彼女はあのトイレの花子さんだぞ、幽霊界のレジェンド的存在だ、俺なんてその気になれば瞬殺できるんだぞ!」
と赤崎君が焦った様子で言う。
へー、彼女があの有名な花子さんなんだ……なんか私のイメージとは全然違うけど。
ていうか、幽霊の界隈にも上下関係ってあるんだ……。
「あんまり褒めるな、照れるだろ、ところで、その女の子はなんだ?」
「ああ、彼女はまこりんと言って、俺のダンスの教え子です」
「教え子? よくお前にそんなもんができたな、嫌ならすぐにやめていいからな? こいつ、ちょっと、いやだいぶうざいだろ?」
「あはは……」
私は苦笑いしておいた。
「あ、そうだそうだ、あたいになんか用があって来たんだろ、なんだ?」
「なんかこの旧校舎に白装束を着た女の子の霊が出るって噂が流行ってるらしいんですけど、知ってます?」
「白装束? いや、知らないな」
「え、花子先輩でも知らないんですか?」
「ああ」
とヤンキー座りをしながら言う花子さん。
そんな彼女に私も質問をぶつける。
「あ、じゃあ、この幽霊は知っていますか、めちゃくちゃ運動神経が悪そうな、ぎこちない動きのダンスをずっとしている女の幽霊が出たらしいんですけど……」
「いや、その幽霊についてはべつに訊かなくていい」
と赤崎君が冷たいかんじで言う。
え、なんで?
「いいのか? まぁ聞かれたとして、そいつに関しても知らないけどさ。なぁ、その話ってあくまで噂だろ? あんまり自分の目で見ていない話を真に受けないほうがいいぞ」
「はぁ、すみません」
と私が頭を軽く下げて謝ると、彼女は優しく微笑んでくれた。
「いや、謝らなくてもいいから、べつに。ところでさ、赤崎、お前、私以外の幽霊に挨拶とか、ちゃんとしてるか?」
「あ、そういえば、していないです」
「バカ、ちゃんとしろよ、この前、お前のこと、幽霊たちの間で話題になっていたぞ、俺らには挨拶しに来ないって」
「ま、まじすか……」
「今度おまえのことしめるって言ってたぞ」
「そんな、ど、どうしよう?」
「たく、しかたねぇな、今から一緒に挨拶しにいくぞ、あたいが許すようにいえば、あいつらもなにもしてこないだろ」
「あ、ありがとうございます、花子先輩!」
と感激した様子で、赤崎君は花子さんに腰を折り曲げていた。
首なしのマッチョがスケバンに感謝している……なんだかシュールな光景だ。
「挨拶に行くついでに、その白装束の幽霊についても訊いてやるよ。さ、行こうぜ、とりあえずこの学校の七不思議の奴らには全員会いに行っておかないとな」
と言って歩き出す花子さんに私たちはついていった。




