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私の彼氏は首なしダンサー  作者: 桜森よなが


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第4話 クレイジーサイコレズデータキャラと芋けんぴ先輩

 イケメンと噂の黄山さんの兄に会えると知って、私はわくわくしていた。

 黄山さんも美しい顔立ちをしているし、その兄もきっとものすごいルックスがいいよね!


 なんてテンション上がっていた私だけど、二限目、三限目……と授業を受けるつれ、やる気と体力が削られ、六限目の古典では居眠りしそうになっていた。


「男もすなる日記といふものを、女もしてみむとてするなり――」


 土佐日記の冒頭を、先生が踊りながら朗読している。

 ただでさえ、念仏を唱えるような先生の話し方が、踊りまで加わって、これじゃあ踊り念仏だよ。

 

 私は眠気覚ましに、隣の席で真面目に授業を受けている、自称データキャラの緑原葉子さんに声をかけた。


「ねぇ、先生が踊っているの、なんてやつかわかる?」

「あれは郡上踊りね」

「郡上踊り?」

「うん、岐阜県郡上市で行われる盆踊りよ」

「へぇー」


 さすがはデータキャラを自称するだけはあるね。


「あ、じゃあさ、あいつが踊っているのは何かわかるか?」


 と私の前席の男子――紫安むらやすくんが顔を後ろに向けてきた。


 彼はヴィジュアル系バンドにいそうな髪型をしているので、顔がこっちを向く際に、その長い髪がファサッと大きく揺れ動くのが、正直少しうっとうしい。


 この学校は校則が緩いからいいけど、他校だったら絶対許されないだろうな……と思いながら彼が指さした方向を見ると、そこでは村岡君が廊下側の最後尾で、謎の激しいダンスをしていた。


「ああ、あれはね――」

「あ、もういいや、AIに訊いたから。へぇー、ワックダンスっていうんだ」


 と、緑原さんの発言を遮って、スマホを操作する紫安君。

 彼女はこの世の終わりのような顔をしていた。


「そんな、この時代に私のようなデータキャラはもう必要ないというの……?」

「だ、大丈夫だよ、緑原さん、私はあなたのこと、必要だよ!」

「え、ま、まこりん……それってさ、告白、だよね?」


 なんて照れた様子で言われる。


「え、違うけど……」

「私も、あなたしかいないって思ってたの、今は難しいけど、いつか一緒に同性婚が認められている国へ行こうね!」


 なんて上目遣いで言われる。

 なにこの人、怖い。人の話、全然聞かない……。


「村岡君、なにをやっているんだ!」


 その時、先生が踊るのをやめて、怒声を放った。

 さすがに村岡君も調子に乗りすぎたか……と思っていたが、


「全然、動きがなっていない。君のダンスはただ激しいだけだ、もっと細部の正確性を重視しろ!」


 え、怒るの、そこなの!?


「それと、鈴木さん、授業中の私語は慎むように」


 今度は先生が私の方を睨んできた。

 なんで私だけ……。


「あと、眠たいなら顔を洗ってきなさい」


 居眠りしそうだったのもバレていた、





「ふぅ、やっと終わった」


 チャイムの音を聞きながら、私は伸びをする。


 なんとか眠らずに古典の授業を乗り切ったぞ、と達成感を覚えていると、私の席に重黒木さんが来た。


「まこりん……私、覚悟を決めたよ」


 戦場へ行く兵士のような表情をしている。

 なんだかよくわからないけど、戦地へ行く息子を見送る母親のような顔をしといてあげた。


「そう……無理しないでね、逃げてもいいから」

「いや、私は逃げない、立ち向かうって決めたんだ……だから、もう、行くね」


 ダッ! と走り去っていく重黒木さん。

 いったい、どこへ行くんだろう?

 私はついていくことにした。


 重黒木さんは私たち一年生の教室がある二階から二年生の教室がある三階へ上った。

 そこへ来た途端、騒がしくなった。


「きゃー、天王寺先輩、今日も素敵―――!」

「イケメンすぎぃぃぃ!」

「神に愛されてるぅ、いや、もはや神ぃぃぃぃぃ!」


 女子たちの甲高い声が聞こえる。

 なんだなんだ、と思ってうるさい方を見ると、そこには一人の男子を囲むように、女子たちが集まっていた。


 その中心にいる男子を見る。

 ぱり、ぽり、と、袋に入っている芋けんぴを食べながら、堂々と廊下を歩いていた。


 そうか、あれが噂に聞く、芋けんぴばかり食べている天王寺先輩か。

 確かにイケメンだけど、私はそんなに好みのタイプじゃないかな。


 なんて思っていると、重黒木さんが天王寺先輩へ近づいていく。


「あ、あの、これ百年以上前からある、老舗の菓子店の高級芋けんぴです! 受け取ってください!」


 と言って、彼女は先輩の顔面に芋けんぴの袋を投げつけた。


「いて!」


 と言う天王寺先輩。

 彼は額を抑えながら重黒木さんを睨んでいたが、その芋けんぴが入った袋を見ると、目の色を変えた。


「あ、こ、これ、すごく有名なところのやつじゃないか! ありがとう、めちゃくちゃ嬉しいよ、ねえ、ここで食べていいかな?」

「あ、はい」

「かりっ、もぐもぐ、ごくん……うまい! これ、すごくおいしいよ、ありがとう、あ、そうだ、君も……食べる?」


 と食べかけの芋けんぴを差し出す。


「え、あ、はい、いや、食べません、宝物にします!」


 と言って食べかけの芋けんぴを受け取る重黒木さん。

 それを見て、周囲の女子たちが羨ましそうにしていた。


「いいなー」

「くっ、私も明日、芋けんぴもってこよ」

「うう、私、芋けんぴになりたいわ……」


 中には、涙を流している子までいる。

 理解できない。あの先輩のどこがそこまでいいんだろうか……


 なんて思っていると――


「きゃ!」

「うわっ」


 こちらに歩いてきていた天王寺先輩とぶつかってしまった。

 先輩が持っていた袋から中身が飛び出して、尻餅をついた私に、芋けんぴの雨が降り注ぐ。


「いた、いたたっ!」


 芋けんぴってけっこう硬いから痛い!


「あ、ご、ごめん、芋けんぴを食べるのについ夢中になっちゃって、前をよく見てなかったよ」

「い、いえ、私も前方不注意だったので……」


 と言ったとき、先輩が私の頭に載っていた芋けんぴを手に取って、


「芋けんぴ、載ってたよ」


 かりっとその芋けんぴをひと齧りする。

 私は正直、ドン引きしてしまった。

 いや、人の頭に載ったもの、食おうとするなよ……。


 その光景を見ていた女子たちが騒ぐ。

 

「いやぁあ、だめよ、そんな女の頭に載っていたものを食べるなんて、先輩が汚れるわぁぁぁー」

「許さない、あの女……」

「もうあの女を殺すしかない……そのあとで天王寺先輩を殺して、私も死ぬわ!」


 何あの女たち、怖い。

 重黒木さんも私を見て、「まこりんじゃなかったら、許さなかったからね……!」なんて言って睨んでくる。


 不穏な空気だったので、慌ててその場から逃げ去ると、天王寺先輩のファンの子たちが追いかけてきた。


「待ちなさーい!」

「待ちませーん!」


 叫びながら逃げる。


「あ、ちょっと、待って君!」


 と天王寺先輩の声が後ろから聞こえてきたが、私は無視して突っ走った。


 しかし、数分後……

 運動神経悪い系女子の私は、何もないところでこけて、ファンたちに捕まり、がみがみと説教を受けることになってしまった。

 一部の過激な女子に殺されそうになったけど、さすがに他の女子たちがそれは止めてくれた。


 解放されたときにはもう外が暗くなっていたので、私はダンスの特訓をするため、首なしの幽霊が待つ旧校舎へ向かう。


 あーあ、夏コミに出す同人誌の製作をしようと思ってたのに。

 それもこれも、もとはと言えば、あの芋けんぴばかり食べている先輩のせいだ。

 これからはあの人のことを芋けんぴ先輩と呼んでやろう。

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