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私の彼氏は首なしダンサー  作者: 桜森よなが


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2/10

第2話 首なしダンサー

 さて、幽霊がどんなダンスをしているか、確かめに行くことに決めた私たちだけど、その幽霊が現れるのは暗くなってかららしい。

 まだ明るいので、私たちは夜になるまで、図書室で時間をつぶすことにした。

 私は夏コミに出すBL本の製作、重黒木さんは婚約破棄された後スパダリに溺愛される小説を読み耽り、白岸さんは小説投稿サイトで連載している悪役令嬢系の作品を執筆していた。


 外が暗くなってくると、私たちは図書室を出て、旧校舎の前に来た。

 夜の旧校舎を見上げ、私は少しびくっと震えてしまう。

 昼の時は全然怖くないのに、今はなんだかホラー映画とかの舞台になっていそうな場所に見える。


「よし、行こっか」

「おー」


 白岸さんが旧校舎の中に入ると、重黒木さんも後に続いた。

 二人とも、怖くないのかな……。

 まぁ頼もしくていいけどさ。

 私も二人についていき、中に入る。


 この旧校舎は、普段の授業ではあまり使われないが、文化系の部活の部室として、いくつかの教室が使われている。


 でも、部活動をしている人ももうとっくに帰っている時間だから、旧校舎の中は誰もいなかった。


「べつに昼間と特に変わらないね」

「そうね、拍子抜けってかんじー」


 私の発言に、そう返答する重黒木さん。

 そんな私たちを白岸さんが咎めるような目で見てきた。


「でも、出るって言われてるのは三階だから、油断したら駄目よ」


 「はーい」と私と重黒木さんは、先生に怒られた生徒のように返事をした。

 私たちは階段を上っていき、三階へとたどり着く。


「三階もなんもないわね」


 三階の廊下を歩いているときに重黒木さんがそう言ったが、白岸さんは不安そうな表情をしている。


「ねぇ、なんか、変な音しない?」

「え、そう?」


 と私が言うと、白岸さんが立ち止まって、


「ほら、耳を澄ませてみて、聞こえるでしょ?」


 だん、だん……だん……


「ほんとだ、なんか音がかすかに……」

「足音?」


 と重黒木さんが首を少し傾ける。

 白岸さんが腕を組んで、首を左右に振って、

 

「足音なのかな? それにしてはなんか音が聞こえる間隔がおかしいような、少なくとも普通に歩いたり走ったりして、出る音じゃないよね、これは」


 ダダダン、ダダダ、ダダダダン……


「なんか、どんどん音が近づいてきてない?」


 と重黒木さんが顔を青くすると、


「ね、ねぇ、見てあれ!」


 白岸さんが廊下の奥の方を指差すと、そこには――


「いやぁ、首がない全裸のマッチョがタップダンスしながらこっちに来るぅ!?」


 そいつを見た瞬間、重黒木さんが絶叫する。

 白岸さんも「いやぁぁぁぁ、変態よー、変態の幽霊よぉぉ!」と叫ぶ。

 二人は背中を向けて猛ダッシュした。


「あっ、二人とも待って!」


 おいてかないでよっ。

 私も慌てて走り出した。

 手を伸ばすが、二人との距離はどんどん離れていく。


「まこりんも早くぅぅぅ!」


 という白岸さんの声が聞こえるが、私を待ってくれるつもりはないらしい。


 二人とも、足が速いよ。

 私、運動音痴なの、徒競走はいつも最下位なの。なにもないところでこけちゃう系女子なの! ああ、待ってよぉ!


「あだっ!」


 あっ、やばい、足がもつれてこけちゃった。

 こんなことなら、毎日ランニングとかしておくべきだったかも。


 ダンダンダン、ダダダン、ダダダダッ!


 そうこうしているうちに、音がどんどん迫ってくる。


 後ろを見ると、首なしの幽霊がもうすぐそこまで来ていた。


 あわわわ、私、どうなっちゃうの!

 このまま幽霊に捕まって、呪い殺されたりとかしちゃうの!?


 なんて思っていると――


「大丈夫?」


 という機会音声の声。

 振り返ると、スマホを手に持つ首なしのマッチョがいた。

 どうやらスマホに打ち込んだ文字を音声読み上げソフトで読み上げているらしい。


 彼はダンスをやめて、私に手を差し伸べてきた。

 

「え、あ、はい、大丈夫です」


 私は驚きながらもその手を取る。

 さっきまで超怖かったのに、今では全然そんなことなくなってしまった。


「怪我とかなかった、もしかして、俺が驚かせちゃった? ごめんね」


 何だか、意外に優しい幽霊です。

 手が大きくて、ごつごつしていて、なんだかドキドキしてしまいます。


 な、なんで、相手は首がないのよ、幽霊なのよ、全裸で踊る変態よ? こんな、ちょっと優しくされたくらいで……


「べ、べつに、謝罪しなくていいです、私が勝手に転んだだけなので……それより、あの、あなたはいったい?」

「ああ、おれは赤崎琢真、ここで一月前に首を切断されて、今は幽霊になっているんだ」


 そんな普通に自己紹介するかんじでやばいことを言われても……。


「私は鈴木です」

「鈴木か、よくいる苗字だね、下の名前は? まこりんって呼ばれているのが聞こえたけど」

「……まこりんです」

「それは愛称だろう?」

「……ちがうんです、それが名前なんです」

「え?」

「これが本名なんですっ! 私は鈴木真子凛っていう名前なんですぅぅぅ!」


 もうほとんど絶叫だった。

 まったく、なんで私のバカ親はそんな名前をつけたのよ、なんだよ、真子凛って、真子か凛のどっちかでいいだろ!


「あはははは、笑いなさいよ、キラキラネームだって、あはははは!」

「なんか、ごめん、俺は素敵な名前だと思ううよ、ぷくく」

「あー、笑った、ひどーい!」

「ご、ごめん、ぷくく、ぷくくくく」


 彼の笑いが止まるまでしばらくかかった。

 笑い終えると、彼が質問してきた。


「ところでさ、この時間になんでこんなところに来たの?」

「あなたに会うためですよ、首なしの幽霊がいるって噂を聞いたから友達と確かめに来たんです」

「え、俺、そんな有名になっているの?」

「かもしれません」

「まじかー」


 と彼は首の上を掻くような動作をしている。おそらく照れて後頭部を掻こうとしたんでしょうけど頭がないのでそれができていないみたい。


「私からも質問いいですか」

「いいよ」

「首がないのになんで私のこと、見えてるっぽいんですか?」

「性格には見えてないんだけど、なんかさ、わかるんだよね、幽霊になると、霊力っていうのかな、そういうので相手の姿とかどこに何があるかとかを把握できるようになるんだ」


 霊力ってなんだか漫画みたい。


「なんか他に訊きたいことある?」

「最近、ダンスがブームになっているんだけど、もしかして、あなたのせいだったりする?」


 しっかりとした根拠はないけど、この赤崎君は最近幽霊になったみたいだし。ここでタップダンスしていることがもしかしてなにか影響しているのではないかと、ふと思ったので訊いてみた。


「俺じゃないよ。それはたぶん、ダンサーの幽霊に呪われたんだね」

「ダンサーの幽霊?」


 それってあなたのことじゃないのか、と一瞬思ったのだけど、どうやら違う幽霊のことみたいだ。


「ここにはダンサーを養成する学校が昔あったんだ。でも、大地震で大量の死者がでてね、たぶんそのときに亡くなった人たちが満足に踊れなかったことに未練があって幽霊となり、人々を呪っているんだろう」


 そんな理由があったんだ、みんな急に頭がおかしくなったのかと不安になったのだけど、そうじゃないみたいでよかった。

 いや、よくないな。


「でも、それならどうして最近になってその呪いが発生するようになったの?」

「たぶん、俺がここで毎日のように踊っていたからだな、眠つていた彼らのダンスに対する情熱を呼び起こしてしまったようだ」

「それってつまりあなたのせいってことじゃない!」

「そうかも」

「そうかも、じゃなくて、どうすれば、みんな元にもどるのよ!」

「幽霊は心残りが消えれば成仏する。だからダンサーの幽霊たちが満足するような、キレキレの踊りを見せるしかないな、まこりんが」

「なんで私なの!? あなたが踊りなさいよ、この事態はあなたのせいでしょ」

「彼らに会ったことあるけど、踊るやつの見た目も重視するんだ、今の俺は首がないから無理だ、まこりん、君がやるしかない」

「えー」

「まあ俺も責任感じてるからさ、踊りの練習、付き合うよ、一緒に頑張ろう」


 なんでこんなことに、と涙を流しそうだったけど、今日の学校生活を振り返り、踊ってばかりいる先生や生徒たちを思い浮かべて、早く元の学校に戻ってほしいと強く感じたので、私は渋々その提案を受け入れることにした。


 しかし、私はすぐに後悔することになる……。

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