『魔女と、三人の使い魔』 〜魔女ヒロイン、イケメン使い魔たちに囲まれて、逆ハーレムな旅路をゆく!!!〜
私は、魔女ナナミ。
召喚した三人の使い魔たちとともに、旅をしている。
のだが。
「ねぇ魔女様、目的地へはまだ着かないんですか?」
「あーあー。魔女さんに地図を任せるとこれだから、もう。また迷っちゃった?」
「まったく、しょうがねぇ魔女だぜ」
三人の使い魔たちは、それぞれが生意気にも不服を申し立ててくる。
私は、召喚主である。
彼らにとっては、主人である。
だというのに。
あるじである私の取り決めた旅程に、素直に従おうという忠臣は、誰一人としていないのだった。
「おい魔女、さっさと地図を貸せよ。オレが先頭で指揮を取る。あんたは大人しくオレの後を歩いてりゃいいんだよ」
「あ、魔女さん、俺ちょっと別行動取ってもいい?このへん、のどかな農村ばっかじゃん?退屈でさー。どこか都会とかで遊びたいんだよねー。いいよね?パッと行ってすぐ戻ってくるからさー」
「ねぇ魔女様〜、お天気もいいことですし、もう今日は自由行動にしません?こいつらとはここで解散して、ボクらはデートを愉しんじゃいましょうよ。ボク一刻も早く魔女様と二人きりになりたいですぅ」
………………もぉぉぉ。
み ん な 、 言 う こ と 、 聞 か ね ぇ ぇ ぇ。
使い魔のくせにぃー。
どいつもこいつも。
三匹も揃って、みんな、私の言うこと、聞きゃしねぇぇぇぇぇぇぇ。
「……そこに集落があるわ。ちょっと道を尋ねてみましょう」
三人のそれぞれの主張を完全無視して、私は彼らをクールにあしらう。
街道筋から少し離れた民家を見つけると、すぐに立ち寄ることにした。
人見知り気味の私ではあるが、迷子の身の上とあらば背に腹はかえられない。かなりの緊張に耐えながらも、見ず知らずの土地の農民相手にでも、勇気を持ってして話しかけに行くしかない。
はぁ……。
広い農地に囲まれた一帯。
瑞々しく育った農作物。収穫を終えたばかりの生命力溢れる根菜、葉野菜がずらりと並ぶ。
自然豊かで、のどかな雰囲気の集落だった。
が、しかし。
その周辺では、夫婦がなにやら落ち着かない様子でわたわたと歩き回っていた。誰かを探しているようにも見える。
「……あの、どうされました?」
私が声を掛けると、夫婦は縋り付くように寄ってきた。
「ああ、あんたたち、旅行者かい?ここに来るまでに、若い娘の姿を見なかったかね?」
「……若い、娘さん、ですか?」
「お恥ずかしい話ですが、些細なことで喧嘩をしてしまいまして、書き置きを残して家出を」
「……まあ」
夫婦は、実子の姿を必死に捜索していたらしい。
着の身着のまま、身なりも構わずに、おろおろと探し回る。終始、不安げな表情。
ああ。
娘さんを想う、ご両親のお気持ちがまっすぐに伝わってきてしまう。
これは、なんとかして、さしあげたいところだわ。
「……私も一緒にお探ししましょう」
「ほ、本当ですか、それはありがたいお申し出を」
「……私の従者たちにも手伝わせましょう。手分けして探せばきっとすぐに見つかりますからね、大丈夫ですよ。……あ、えっと、ではまず、娘さんのお名前や特徴を教えてくださいね」
自然と、私の口からは、困憊する夫婦に寄り添った言葉が出ていた。
こうして。
若い娘さん探しのクエストが始まった。
「では、おまえたち、頼んだわよ。娘さんのお名前は、ペリーネイ。髪は赤茶色で、肩までかかるセミロング。瞳の色はハシバミ色。ふんわりとした橙色の羽織衣装を着用してらっしゃるそうよ」
集落を少し離れ、街道筋沿いまで一旦戻って、付近を眺め見てみた。
その地点で円陣を組んでから、三匹の使い魔たちに向かって、指示を出す私。
「ここを中心にして、放射線状に四方向に散って、手分けして探しましょう。いいわね?」
ところが。
「では、ルイくん、南東のほうを頼むわね」
「イヤです」
「……え」
「散り散りになって手分けして探すのなんて、イヤですよ、ボク。魔女様と一時たりと離れたくないですもん。ボクは魔女様のお隣でずっと一緒にいます」
「……そ、そう。では、ルイくんは私と一緒に捜索にあたるといいわ……」
使い魔一匹目……。
ルイくんはこの調子で、いつも私にべったりの困った使い魔だった。
小柄で可愛らしくて中性的な魅力を持つ彼は、これでもれっきとした社会人である。
童顔でとてもそうは見えないが、とっくに成人済みのアラサー男子なのだった。
「で、では、嘉紋には北東方面と南東のほうもお願いしたいのだけど……」
「えー、面倒だなぁ。気が進まないなぁ」
「嘉紋、おまえね……」
「自分の意思で出て行ったんだろ?緊急性も事件性もないし、ヘーキヘーキ。子供の自由を尊重してやればぁ?ほっとこうよ」
使い魔二匹目……。
嘉紋は、自称ふつうの男子大学生である。
たしかに、見た目も言動も、イマドキの若者といったふうではある。
が。
その右手には、日本刀が握られている。
未だに謎多き人物であり、一番の問題児であった。
「で、では、ゴウトには、まずは南西の方角に向かってもらって、そのあと北西方面にも……」
「お断りだ」
「ゴウト、おまえね……」
「女の命令なんて聞けるかよ。いいか魔女、えらそうにするなよ?オレはなぁ、あんたの言うことに黙って従うつもりはねぇんだよ」
使い魔三匹目……。
ゴウトは、筋骨隆々の大男である。
獄卒のようなコワモテで、見るからに、武力と迫力に満ちた腕自慢の容貌をしている。
味方にできれば、怖い者なし、自慢の側近になるであろう。が。今のところは、私への忠誠心ときたら、見るも無惨なこのとおりなのである。
「はぁ……」
私は、ため息をつくしかない。
………………あああああ、もぉぉぉ。
み ん な 、 言 う こ と 、 聞 か ね ぇ ぇ ぇ。
みんな、言うこと、聞きゃしねぇ。
使い魔のくせにぃー、どいつもこいつも。三匹も揃って、私の言うこと、聞きゃしねぇぇぇぇ。
ストレス、フルMAXの私。
召喚主も、ラクではない……。一応は、主従関係だというのにこの有様。
そんなわけで。
私と使い魔三匹たち御一行は、ここで一旦解散。
私とルイくんは娘さんの捜索にあたり、残り二匹の嘉紋とゴウトは自由行動を取る、ということになったのだった。
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あたり一帯を、ひととおり捜索し終えた頃。
そろそろ日も暮れかけてくる時刻である。
なんの手掛かりも得られないままであったので、次はどこをあたってみようかと、私は思案に暮れていた。
そんな私とルイくんは二人横並びになって、歩幅を合わせて連なって歩いていた。
「ああ、このかんじ、いいですねぇ魔女様!デートみたいですねぇ〜!」
天真爛漫、素直なルイくんは、ウキウキルンルン。捜索そっちのけでキャッキャと無邪気にはしゃいでいた。
「ああ嬉しいなぁ。二人きりになるのなんて久しぶりですよねぇ、ねえ魔女様。ボクたち、恋人同士に見えてますかねぇ?」
強引に私の腕に絡んで、私に寄りかかるように体重を掛けたりぶら下がる真似をしておどけたりする。
成人男性としては小柄なほうであるルイくんは、私と身長がほぼ同じ。目線の高さも、そう変わらなかった。
歩幅も歩くスピードも一緒くらいで、一緒に並んで歩いていても、とても自然である。
自然と、お互いの物理的な距離も縮まっていた。
と、そこへ。
「おい魔女」
背後から、私を呼び止める声がした。
「朗報だ。目撃情報があったぜ」
ぶっきらぼうでガラも悪く、皮肉めいた喋り方をしてはいるが、それでもなぜか不思議に耳に残る。
その要因のひとつとして挙げられるのは、聞き取りやすい発声としっかりとした滑舌が基礎となって根付いているからなのだろう。
印象的な、低音カリスマオーラヴォイス。
ゴウトの声だった。
「まあ、ゴウト」
「この先に、街道筋から外れた宿場町っぽいのがあるそうだ。そっちへ向かっていく若い娘がいたってよ」
「お手柄ね、ありがとう。おまえったら、ちゃんと探してくれていたのね。なによ、もう。私の言うこと、しっかり聞いてくれるんじゃない。実は、忠義に厚い使い魔だったのね、ゴウト」
「あんたの言うことなんか、誰が聞くかよ」
「え」
「いいか、オレはなぁ、あんたに命令されたから探してるってわけじゃねぇんだよ。自分の意志で、自分の考えで行動してんだよ、勘違いするな」
「あ、ああ、そう」
「女なんかに従ってたまるか」
「わ、わかったわ。とにかく、助かったわ」
「ふん」
……す、素直じゃないわね。
根は真面目でイイコなのに。
不器用で強情で皮肉屋で。度を越したツンデレというか。
……はぁ。
どいつもこいつも。扱いが難しいんだから。
まったくもう。
目撃証言のあった方向へ移動をしてみると。
繁華街らしき建物群が見え出してきた。
煌びやかな金の装飾、キラキラと光輝くまばゆい外観、立て看板。大袈裟で下品で派手なデザインの店舗群が、大通りに面していた。
「あ、魔女さ〜ん、こっちこっち!」
「……か、嘉紋」
「やっと来た〜。遅かったね。俺なんかもう、遊び尽くして退屈持て余してたとこでさー」
嘉紋が、すでにいた。
大通りに入った私を呼び止めて、ひらひらと手を振ってくるのだった。
「ここらへんの探索を終えて、飲食店で腹ごしらえして遊技場でちょっと遊んでウィンドウショッピングして街をプラプラしてたら、娘さんらしき人を発見したから、様子を伺って尾行しといたよ」
足が速い。
行動が早い。
頼もしいというよりかは、得体の知れない不気味さのほうが勝る。そんな謎の人物、嘉紋。
彼はすでに、この地での情報収集を終えていた。
「あの母親に似てるかんじだったから、すぐわかった。髪は赤茶色で、肩までかかるセミロングヘア。瞳の色はハシバミ色。橙色の羽織衣装を着用。名前は、ペリーネイだったよね?たしかに、この先の店に入っていったよ」
「……あの、店?」
「そう。あの店」
店の前を眺めると、女性客の姿ばかりが目に入る。
女性ばかりが入店していくのだった。
「ここは、メンズバー。要はホストクラブってとこでね、魔女さん。男性従業員が女性客をおもてなしするための接客系のお店なんだよ。男の俺たちは入店をお断りされちゃうんだ」
「……まあ」
実際に、私たち四人の御一行が入店に臨むと、たしかに私一人だけが許されて、他の三人は拒まれてしまうのだった。
この中で、女性は私一人しかいない。
私が一人で店内へ入って、一人で捜索にあたるしかないようだ。
仕方がない。
「では、おまえたちはここで待っていなさい」
「魔女様、いけません、お一人では……」
「心配しないで大丈夫よ、ルイくん。いざとなったら魔法でなんとかするから」
「ふーん。いってらっしゃい、魔女さん」
「ええ。行ってくるわ、嘉紋」
「どういう店かわかってるのかよ、魔女。何かあってもオレは知らねぇからな」
「すぐ戻るわ、ゴウト」
三者三様。
それぞれの対応で、私の姿を見送る、三人の使い魔たち。
彼らの気配を背に感じながら。
私は一人、店内の奥へと進んでいった。
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基礎旋律に反した、賑やかな音楽。不文律と大自然両方に抗うかのような、アナーキーでイリーガルな転調。歪んだビートが不規則に刻まれる。
不健康で澱んだ空気。電子煙草ゆえんであろう、プラスチックの焦げるような臭いが充満する。
全体的に薄暗いが、ところどころにビカッと目を攻撃する眩しい間接照明が設置された、とにかく居心地の悪い内装。
ハンカチを鼻に口に、時に眼にまであてて。もう片方の手で耳を塞いで、私は店内の喧騒に耐える。
目的を達成し、一刻も早くここから出ていきたい。
その一心で。
必死で、あたり一帯をキョロキョロと見渡していた。
するとようやく、バーカウンター席の一角に、探していた娘さんを発見する。
たしかにお母様によく似てらっしゃる。すぐにわかった。
「……あの、ペリーネイさん?」
私はほっとして、安堵の表情を抑えられずに、ニコニコ顔ですぐさま話しかけに行く。
「よかった、無事で……。探したのよ。さあ、私と一緒に帰りましょうね」
「帰る?どうして?いやよ」
「え、えっと……」
「あんなつまんない地元、帰んないわよ。田舎で農作業なんてもう嫌。あたしにはきらきらした都会の華やかな暮らしが合ってるの」
あ、あら。
「そ、そんなこと言わずに……。お母様もお父様もとても心配してらしたのよ。私がおうちまで送っていくから、ね?」
「余計なお世話よ。向こうへ行って」
従業員を呼ばれ、私は、彼女から引き離される。
強引に遠くの席に案内されて、座らされてしまった。
あ、ああ。
どうしよう。
なんとかして、もう一度話を聞いてもらわないと。
彼女の様子を伺い続ける私。
そうしているうちに、華やかな中央スペースでは、何やらマイクを使った余興タイム?ショー?のようなものが始まっていた。
まずは、今日から入った新人の従業員を紹介するコーナーらしい。
拍手が上がり、盛り上がりを見せる店内。
ベテラン従業員の後ろから、ひょっこり現れた人物。そんな彼の一挙手一投足が注目されていく。
顎を引いて胸を張り、背筋をびしっと伸ばす。日常的に体幹が鍛えられていることを物語るかのように、身体の軸をまったくぶれさせずに颯爽と歩く、その姿。
彼は、新人とは思えないくらいに堂々とした立ち振る舞いで、声高らかに自己紹介をこなすのだった。
「新しく入った、期待のニューフェイス!嘉紋でーす!」
……嘉紋だった。
「か、嘉紋!おまえ何やってるのよ!」
私はガタンと席を立ち、たまらず問いただしに向かう。
「店の前で待ってろと言ったでしょう!」
「あー、俺、今日からここで働くことにした〜。だってさ、魔女さんのとこにいてもつまんないしぃ」
「な、なんですって⁈」
「そりゃつまんないよ。だって魔女さん、シてくれないじゃん?」
「………………っな」
「サセてもくれないじゃん?」
「………………っ」
「だからねー、俺、都会の繁華街でパーっと楽しく、刹那的に生きることにしてみた〜」
「………………」
「ここのおにいさんたちも仲間に入れてくれるってさ〜!今日から俺、キャスト〜!プレイヤ〜!ホスト〜!ウェーイ!シャンパン浴びるぜ〜!!」
………………ああ。
………………頭痛が痛い。
私は頭を抱える。
嘉紋はなんと、出奔宣言。
いや、もういい。
こいつのことはもう放っておこう。
それよりも。
今は娘さん、ペリーネイさんのことである。
なんとかして、もう一度話を聞いてもらわないと。
と、振り返って、彼女のほうに目を向けると。
なんと。
彼女は揉めていた。すでにお会計の段階になっており、従業員何人かに引っ張られ、裏に連れて行かれていたのだった。
「え、大変!」
私は急いであとを追った。
バックヤードから裏口のほうには、男たちが何人も待機していた。
店の従業員以外にも、よその店舗から出向してきたらしき者。外部から雇われてきたのだろうか、反社会的な勢力や、用心棒のような腕自慢の輩までが、ウヨウヨいた。
ホスト、ツケ、売掛金、借金、風俗、ナイトワーカー、という旨の不穏でグレーな専門用語が飛び交い、界隈でしか成り立たないような特殊な会話が繰り広げられていたのであった。
「ペリーネイさん!大丈夫⁈」
泣いて拒絶している彼女の姿を見て、私はすかさず間に分け入る。
「あ、ああ!助けて!あたし、高いお酒なんか飲んでないのに!お金が全然足りないって!このままじゃ、怖い性風俗のお店に売り飛ばされちゃう!」
「え、えええ!」
「体で稼げ、って言うのよ、ひどい!」
な、なんてことを!!
もしかして、はじめっからそれが目的⁈
みんなグルで、ハードな夜の店のスカウトマンたちと結託してるとか⁈
若いお嬢さん方の働き手を確保しようとして、罠にハメたってこと⁈
許せない!こいつら!サイテーだわ!!
怒りを露わにする私。
しかし、抑えて、ここは落ち着かないといけない。
とにかく、無事に彼女を逃してやることが、先決である。
よし。
私は、魔女。
魔法が使える。
「くらいなさい!必殺、水魔法!」
魔法の杖を、天に高く掲げる。
そして、呪文を詠唱する。
「ウォーターカレイド&ジェットスプラッシュsevenエスカレーション!!」
天井に設置されていたスプリンクラーが、一斉に作動した。
バシャー!という勢いのある流水音、と同時に、警報ブザーも鳴り響く。
店内にいる全員が、ずぶ濡れとなる。降り注ぐ水、そして鎮火用の白い粉末までが襲う。
店内は大騒ぎ、大混乱。狂騒の光景が連鎖していく。
「さあ、今のうちよ、逃げましょう!」
彼らのスキをついて、私はペリーネイさんの手を引いて、非常口を目指す。
だが、すぐに回り込まれて、追いつかれてしまった。
彼女の背中を押して先に脱出させて、私は、出入り口を塞ぐように立ち塞がった。
よし、とにかく、無事に彼女を逃す目的は、これで達成したわ。
あとは、私一人がこの窮地を脱すればいいだけ。
うーん、次なる魔法は、さてどうしよう。
何魔法を使えば、この大人数を相手に対処できるのかしら。火か土か水か風か。
うーんうーん。
しかし、マイペースに対抗策を練っている場合ではなかったようだ。いつのまにか、ピンチ到来の私。
すでにもう、じりじりと周りを取り囲まれて絶対絶命の状態なのであった。
きゃあ、まずいっ。
━━次の瞬間!
敵集団は、次々に床に倒れ伏していった!
「無事か、魔女!」
「ゴ、ゴウト〜!」
ゴウトが助けに来てくれていた。
拳闘がメインだった。
キックボクシングのような徒手格闘戦が、瞬時に終わっていた。
ゴウトは両手に、何も武器を装備していない。まったくの素手で、多人数を相手に、あっという間に制圧してしまったのだった。
圧倒的な強者感を見せつけたためか、もう私たちに立ち向かってくる敵はいなかった。
「あ、ありがとう、ゴウト」
「ふん。呆れるぜ、まったく。世間知らずのおせっかい魔女ってのは、これだから」
私は心からのお礼を述べて、ゴウトの守備範囲内で保護してもらう。
そうしてようやく、安心することができた。
ああ。
なんて頼もしい使い魔なの。ふだんは反抗的で生意気でも、ここぞという時にはやっぱり、頼りになるわぁ。
ああ、ほんと、召喚してよかった。
使い魔がいてくれて、よかった……。
「魔女様ぁ!ご無事ですかー⁈」
「まあ、ルイくん、大丈夫よ」
すぐに、ルイくんも駆けつけて来てくれた。
「ルイ先輩〜」
そんなルイくんを呼ぶ声。
見れば、バックヤードのほうには嘉紋がいた。そして、何かを放り投げてくるのだった。
それを無事キャッチして、確保するルイくん。
A5判ほどの大きさのノート。中身は、びっしりと数字の羅列が記載された、帳簿だった。
「見つけたよ〜ルイ先輩、それだろ裏帳簿」
「よし、よくやった嘉紋!あとはボクに任せろ!」
ルイくんは、帳簿を高速でパラパラパラパラ捲り照合する。
経理知識のあるらしきルイくんは、不正や改竄の証拠を、瞬時に抑えたようだった。
「魔女様、これでこの店は摘発の対象となりますよ!インチキぼったくり価格の被害者たちも無事救済されるはずですから安心してください!」
そう言い残してルイくんは、然るべきお役所関連に届け出るため、帳簿を抱えて疾走していった。
残った嘉紋は、バックヤードのほうから、ひらひらと手を振っていた。
え、嘉紋。
まさか、裏帳簿を入手するために、スパイとして内部に潜入していた、ってことなの?
私とゴウトは、バックヤードにいた嘉紋と合流を果たして、そうして三人で店から脱出をした。
非常口の裏手、裏路地をいくつもくぐり抜けたその先。
そこで私は、ようやく嘉紋の近くに立てた。
彼の顔を、真正面から見つめて問いただすことができたのだった。
「嘉紋、おまえ、私のもとにいるのがつまらなくて、出奔するというのは……」
「ウソに決まってんじゃん」
「てっきり、本気で働き先を変えたかったのだとばかり……」
「ふふふ、そんなにショックだった?ごめんごめん、安心してよ。俺、これからはずーっと、あなたのそばにいてあげるからさ」
嘉紋には、今回、本当に裏切られたと思ってしまった私である。
「……だっておまえ、いつも待遇に不満そうだったから」
「シてくれないのもサセてもらえないのも不満だけどー。まあ、たまにはラッキースケベな恩恵にもあずかれてるしね」
な、なに、そのラッキースケベな恩恵って。
「そんな恩恵、あずからせたおぼえ、ないのだけど」
「え、気付いてないのぉ?」
「だから、なによ、どういうところよ」
「あー、無意識かぁ。天然でセクシー搾取されてるのかぁー」
やめてよ、なんなのおまえ。
「魔女さん、今って、ずいぶんいい格好だよね、ずぶ濡れだもんねぇ。すっげぇ色っぽいよ」
私の左耳付近にまで顔を寄せてくる嘉紋。
こそっと耳打ちをしてくる。
「下着が透けてるよ〜」
え、えぇぇ!!
ウ、ウソぉぉ!!
すると、ゴウトが飛んできた。
会話中は、少し離れた所に身を置いていた彼だった。
だが一連のやりとりを耳に入れていて察したのか、自らの上着を勢いよく脱ぐと、それを私に羽織らせてくれたのだった。
「あ、あら。まあ、助かったわ、ゴウト」
「まったく、しょうがねぇ魔女だぜ」
「えー、ちょっとぉ、ゴウトくん、俺のお愉しみを邪魔しないでよぉ」
ゴウトのジャケット。
無駄に本革だし、ゴテゴテジャラジャラ無駄なモチーフ装飾やアクセサリーの数々がカスタマイズされているオシャレ衣料品だから、ものすごく重たいけど。とにかく重くて、ずしっときて、すっごく肩凝っちゃうんだけど。
でも。
でも、私をいたわってくれる、その気持ちが嬉しいのよ。
「……ありがとうゴウト。この上着、とてもあたたかいわ」
「ふん」
こうして。
先に脱出して安全域で待機していたペリーネイさん。それと、お役所関連行脚を手早く終えたルイくん。
二人と無事合流を果たした私たちは、街をあとにして、ようやく集落まで戻ることができたのだった。
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集落までペリーネイさんを送り届ける。
夫妻に彼女の無事な姿を見せることができた、私と使い魔たち一行。
親子の、感動の再会である。
ご両親である夫妻はもちろん、家出をした娘、ペリーネイさんのほうも涙を流していた。
彼女は、私のほうに向き直り、お礼を述べてくる。そうして神妙な面持ちでこう語り始めるのだった。
「ありがとう魔女様、あたし、今回のことでよくわかりました……」
今回のこと。
そうね。都会や派手な街の怖さ。そして故郷や親御さんのもとで過ごせるありがたみ。
あなたが持っていたものが、どんなに大切なことかって、やっとわかってくれたのね。よかったわ。
「……都会で遊ぶためには、大金が必要だということが」
え。
「お金がなきゃ何も楽しめないということが、よくわかりました。お金さえあれば、幸せになれるということも……」
えええ、ちょ、ちょっと待ってぇ。
家出の次は、今度は拝金主義に目覚めちゃった。これじゃあ本末転倒というか。
親御さんも悩みが尽きないわよね。
どうしたらいいのかしら。
と、その時。
「あなたの村の主要な作物の値段、街へ行ったついでに見てたんですがね。けっこうな高値で取引されてるんですよね」
ルイくんが、ふいに提案する。
「これからは、あなたが売り子になったらどうでしょうか。それなら仲介手数料が取られないですからね。いいですか?同じ作物でも、村で買い取り業者に売ったら200㌦で、直接あなたが街で売ったら500㌦なんですよ?」
「そうだね、その差分、ボロ儲けできるじゃん。街まで往復するのが苦痛じゃないのなら、自分で売買したほうが全然いいよねー。行ったついでに街で遊べるしさー」
「自分で稼いだ金で散財するなら、親だって文句ねぇだろうよ」
口々に、勝手で偉そうなアドバイスをかます、三匹の使い魔たち。
しかしそのような助言でも、まだ若く伸び代もあり根は勤勉そうな彼女は、素直に受け止めたようだった。
「……そうね。色々とありがとう、魔女様のしもべたち。あたし、これからは効率よく農作業して都会へ往復して、アラ稼ぎすることに決めたわ。そして、そのお金でスキマ時間を使って、堅実に夜遊びしてやるんだから」
ア、アラ稼ぎ……、堅実に夜遊び、っていう不穏なワードのチョイスなどが、ところどころ気になるけども……あ、ああ、そうなのね。もう決めたのね……。
え、一件落着、でいい?めでたしめでたし、でいいのかな??
……ともあれ。
親御さんも、気力を取り戻した娘さんのそばで笑顔になっていて。とても嬉しそうであった。
その姿に安心した私たちは、集落をあとにして、もとの道筋へと復帰を果たす。
さあ。
また、私と使い魔三人の旅路が始まる。
街道をひた歩き、次なる目的地を目指す道中。
陽光は燦々と照り付け、乾いた風が頬を掠める。
視界に入るのは、流れる雲と空。それと、剥き出しの茶色い大地とわずかに自然の緑色。たまに水面。
「いいか魔女、ここからはオレが陣頭指揮を執るからな。オレの指示に従えよ。あんたは、オレの左隣を歩け。あ?なんで左かって?そりゃあ、右側から強烈な日差しが照り付けてるからだろうが……、いや、べ、別に、あんたに日陰を作ってやりたいわけじゃねぇよ!」
「あ、魔女さん、あの崖上ルートちょっと歩いてみようよ。え?俺?やだなぁ。崖下からスカートの中のぞこうなんて考えてないよー。えー、俺がローアングラーなんかするわけないじゃん〜」
「ねぇねぇ魔女様〜、近くに有名な観光地があるらしいんですよ〜!ちょっと寄り道しちゃいません?ロマンチックでムードたっぷりの霧の湖上!ボクたちにぴったりのデートスポットじゃないですか!行きましょう、寄っちゃいましょうよぉ〜!」
………………もぉぉぉ。
み ん な 、 言 う こ と 、 聞 か ね ぇ ぇ ぇ。
使い魔のくせにぃー。
どいつもこいつも。
三匹も揃って、みんな、私の言うこと、聞きゃしねぇぇぇぇぇぇぇ。
⭐︎⭐︎⭐︎ おわり ⭐︎⭐︎⭐︎




