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溺愛ハッピーエンドが欲しくて頑張ったのに、なぜか彼氏はヤンデレ化した  作者: ChaCha


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最推しは、ただ眩しいだけ

午後の廊下は、午前よりも人の流れが増える。

次の授業へ向かう生徒たちの足音が重なり、制服の裾が風を切る。

窓から差し込む光は少し傾き、白い石床に長い影を落としていた。


「ベルンハルト君、少しいいかな?」


教師の声が背後からかかる。

ベルンハルトは立ち止まり、軽く振り返った。


「ごめん。先、向かっていて」


いつもの穏やかな声。

それだけなのに、胸の奥がちくりとする。


「うん」


カレンは頷いて、ひとり廊下を進んだ。


(……一人になるの、久しぶりな気がする)


ほんの数歩。

それだけで、空気が変わった気がした。


曲がり角を過ぎた、その瞬間――


「わっ」


誰かと肩がぶつかり、足がもつれる。

転びそうになった体を、強い腕が引き寄せた。


ぎゅっと。


視界が、胸板で塞がれる。


(……え)


あたたかい。

硬い。

しなやかで、揺るがない。


鼻先をかすめる、乾いた風と革の匂い。


(この、感触……)


顔を上げた瞬間、視界に入ったのは――


「あっ」


エルンスト。


騎士科の制服。

引き締まった身体。

穏やかで誠実な瞳。


(……最推し)


思考が一瞬、止まる。


逞しい筋肉。

あっ、良い香り。


(好き……)


反射的に、カレンの手が彼の服をぎゅっと掴んでいた。


――ぎゅ。


自分でも驚くほど、無意識だった。


その時。


「エルン、授業始まるよ?」


少し慌てた声が、横から響く。


モブ少女。

控えめで、気配を薄くするのが上手そうな女の子。


(……はっ!)


我に返る。


「ご、ごめんなさい……!」


慌てて手を離す。


「ありがとう」


声が、少し裏返った。


エルンストは穏やかに微笑み、軽く頷いた。


「ああ。気を付けて」


それだけ。


押さない。

引き止めない。

何も残さない。


彼はそのまま、モブ少女と並んで歩き去っていく。


(……かっこよかった……)


去っていく背中を、思わず目で追ってしまう。


(推し、やっぱり眩しい……)


胸がきゅっと締まる。

でも、それは“恋”というより、

画面越しに見ていた頃の、安心する憧れに近かった。


(……うん)


(やっぱり、好きだなぁ……推し)


その背中が人混みに紛れて見えなくなった、ちょうどその時。


「カレン!」


駆け寄ってくる足音。


「大丈夫?」


息を少し切らしたベルンハルトが、目の前に立った。


「ごめん。すぐ助けることが出来なくて」


彼の視線が、カレンの肩や腕を素早く確認する。

怪我がないかを確かめる、癖のある仕草。


「だ、大丈夫だよ」


そう答えながら、胸の奥がざわつく。


(……今の、見てた?)


問いかける前に、ベルンハルトは安堵したように息を吐いた。


「よかった」


その声は、いつも通り優しい。

けれど――


カレンは気づいてしまった。


彼の視線が、

ほんの一瞬だけ、

廊下の向こう――エルンストが去った方向をなぞったことを。


(……あ)


何も言わない。

何も聞かない。


けれど、

その沈黙が、妙に重い。


「行こう。次、遅れる」


ベルンハルトはそう言って、自然に隣に立つ。

距離は近い。

さっきより、ほんの少し。


(……安心する)


そう感じてしまう自分と同時に、

胸の奥で、小さな警鐘が鳴る。


(……なんで、こんなに……)


最推しは、ただ眩しいだけ。

触れたら現実に戻る、遠い存在。


でも――


今、隣にいる人は。


当たり前のように、

私の“今”を守る人。


その違いが、

ゆっくりと、

でも確実に、世界を歪め始めている気がした。


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