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溺愛ハッピーエンドが欲しくて頑張ったのに、なぜか彼氏はヤンデレ化した  作者: ChaCha


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世界が、ちょっとだけおかしい。

いや、正確に言うなら――

私が、世界を正しく見られていない。


王立学園の廊下は、いつも通りだった。

白い石床は朝の光を反射し、天井の装飾魔術が淡くきらめく。

生徒たちの足音、挨拶、笑い声。

すべてが、昨日までと同じ。


(……なのに)


カレンは、ベルンハルトの隣を歩きながら、胸の奥に居座る違和感を無視できずにいた。


(落ち着いて。まず整理しよう、私)


前世の記憶が戻った。

ここは【花咲くマジカル学園】の世界。

私はヒロイン枠――ではあるけれど。


(あれ?)


脳内で、首をかしげる。


(ヒロインって、もっとこう……自由じゃなかったっけ?)


イベントを踏んで、

好感度を上げて、

選択肢を選んで、

ルートを確定させる。


そういうものだったはずだ。


(……でも今の私)


ちら、と横を見る。


ベルンハルトがいる。

当たり前のように隣に。

当たり前のように歩調を合わせて。

当たり前のように、時折こちらを気遣う視線を向けてくる。


(もう、彼氏)


しかも。


(結婚前提)


重い。

いや、重いというより――


(早くない!?)


昨日、想いを伝え合った。

それは事実だ。


でもそれは、

「これから進むルートを決めた」

くらいの感覚で。


(まさか、もう確定イベント踏み切ってるとは……)


カレンは、内心で頭を抱えた。


(待って。待って待って。まだ間に合うよね?)


乙女ゲーム的に考えれば、

これは“序盤の恋人状態”。


ここから、


・騎士科との遭遇イベント

・放課後の交流

・他攻略対象の好感度上昇


いくらでも分岐はある。


(そう! ルート変更は可能なはず!)


そう思った瞬間、

少しだけ、心が軽くなる。


(最推し……エルンスト……)


思い浮かべただけで、背筋が伸びる。


騎士科。

誠実。

筋肉。

筋肉。


(……落ち着け私)


今はまだ、

「見るだけ」「拝むだけ」。


そう、私はもう大人だ。

推しは推しとして、尊く眺めるだけ。


――の、はずなのに。


「カレン」


名前を呼ばれ、はっとする。


ベルンハルトが、ほんの少しだけ距離を詰めていた。

近い。

昨日より、確実に。


「顔が、忙しそうだな」


「そ、そんなことないよ!」


即答してしまい、

(あ、これ怪しいやつ)

と、内心で突っ込む。


ベルンハルトは何も言わず、

ただ静かに微笑んだ。


(……見抜かれてないよね?)


そう思いながらも、

なぜか視線を合わせづらい。


(だってさ)


前世の私が、

ゲームを“攻略する側”だった記憶。


今の私が、

“攻略されている側”という現実。


この二つが、頭の中で噛み合っていない。


(……あれ?)


ふと、気づく。


(選択肢、出なくない?)


脳内に、

〈はい/いいえ〉

〈手を取る/取らない〉

みたいな表示が、ない。


(……気のせい?)


周囲を見回す。


でも、当然ながら、

空中にUIなんて浮かんでいない。


(あ、そっか)


現実だ。


ここは、現実として存在している世界。


(……なのに)


私は、

“ルート変更できる”前提で考えている。


そのズレが、

少しずつ、胸の奥を締めつける。


(大丈夫。たぶん大丈夫)


だって、

まだ誰も傷ついてない。


ベルンハルトは優しいし、

私は混乱してるだけ。


(そう、私はまだ選べる……)


そう思い込もうとした、その時。


「……放課後」


ベルンハルトが、何気ない調子で言った。


「一緒に帰れるか?」


心臓が、どくんと鳴る。


(え、なにそのイベント)


放課後。

二人きり。

恋人。


(これは……デートフラグ……?)


脳内で、警報と期待が同時に鳴る。


「えっと……」


一瞬だけ、言葉に詰まる。


(断ったら、不自然?)

(受けたら、さらに固定?)


その“迷い”が、

自分でもはっきり分かってしまって。


「……大丈夫だよ」


結局、そう答えていた。


ベルンハルトは、

ほんの一瞬、目を細めた。


(……今の、見られた?)


でも彼は何も言わず、

ただ「そうか」とだけ返す。


(……うん)


たぶん、

これはまだ序盤。


まだ取り返しはつかない。


(……たぶん)


そうやって自分に言い聞かせながら、

カレンは気づいていなかった。


――選択肢が出ない理由を。


――すでに、選び終えているという事実を。


学園の鐘が鳴り、

授業の時間を告げる。


その音が、

やけに遠く聞こえた。


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